米国資産の質とリーダーシップに疑念、「金融危機」懸念も浮上
米株式市場でS&P500種株価指数が9日に8分間で7%急騰した際、コロンビア・スレッドニールの金利ストラテジスト、エド・アルフセイニ氏はニューヨーク市マンハッタンにあるオフィスを離れた。
偽情報ではなく本物のトランプ米大統領によるSNS投稿がきっかけとなり、アルゴリズムが全てを支配し、全ての市場で買い注文が猛烈な勢いで殺到したため、「何もできなかった」ためだ。
S&P500種は10日に再び下落。さらに大きなことは、トランプ氏が株価が急騰したからこそ、米国に報復措置を講じていない日本などの国・地域に対し上乗せ関税の90日間停止を承認したと述べた後も、米国債利回りが急上昇していたことだ。
債券市場は混乱しており、財務省や連邦準備制度が介入するまでは収まりそうにない。「私は実際、リセッション(景気後退)について懸念していない。心配しているのは金融危機だ」とアルフセイニ氏は言う。
11日終了週の市場全体を見れば、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争によって米国の資産が打撃を受けたことに気付かない人がいてもおかしくない。
S&P500種は週間ベースで5%余り上昇し、米国債相場は2月の水準を維持。パッシブ投資家はさらに多額の資金を投入し、暗号資産(仮想通貨)のビットコインは値上がりした。
隠されているのは、投資家やトレーダー、アナリストの間で起きている根本的な変化だ。最近までリスクを重視する業界がうらやんでいた米資産保有の是非について今、深刻な疑念が生じている。
熱狂的な動きの中で、主要な取引パターンは新興国市場とかすかに似てさえいる。トランプ氏が進める世界貿易の条件を書き換える試みは、金融システムにおける米国の特権的地位を危険にさらすリスクがあるという懸念が広がっている。
損失
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのクロスアセット戦略マネジングディレクター、チャーリー・マケリゴット氏は、「正直なところ、自分が何かを見間違っているような気が時々する。価格が急速に変動しているため、グラフのスケールを確認する必要がある」と語る。
同氏によると、「今、デスクには警告音やポップアップが絶え間なく表示されている。リスク限度やリスク警告などの自動メッセージだ。最大限の過剰刺激、最大限のドーパミン飽和状態だ」という。
「トランプ関税」が引き起こしたボラティリティーの中で、チューダー・インベストメントの債券トレーダー、アレクサンダー・フィリップス氏は約1億4000万ドル(約200億円)の損失を4月に被ったと、事情に詳しい関係者がブルームバーグ・ニュースに明らかにした。
同氏は今も160億ドルを運用しているチューダーに勤務し、損失分を回収しようと努めているという。
米国債はセーフヘイブン(安全な避難先)と見なされているが、米国債とドルの大きな相場変動はそうした評価にも影響を及ぼしている。
トーズ・アセット・マネジメントのフィリップ・トーズ最高経営責任者(CEO)は「全てを変えるような形で債券が大きく混乱する可能性を考慮しなければならない」と指摘する。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、ボストン連銀のコリンズ総裁は11日、金融市場が混乱状態に陥った場合、連邦準備制度は間違いなく市場の安定化を支援する準備があると説明。「市場は引き続き良好に機能している」とし、「全体として流動性への懸念は見られない」と述べたという。
確かに、米国資産の需要を測定することは決して正確な科学ではないし、相場が常に資金の流れを反映しているわけでもない。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)が引用したEPFRグローバルによる9日まで1週間のデータによると、米国債を購入するファンドは188億ドルという記録的な資金流入となった。
しかし、米国に焦点を絞った外国籍ファンドでは65億ドルの流出だった。少なくとも2020年以来2番目に大きな資金引き揚げだ。
1600億ドルを運用するマニュライフ・インベストメント・マネジメントのネイサン・スフト氏は「米国以外の国々では、株式・債券・為替全般で米国資産の質やリーダーシップに対する信頼が損なわれている」と分析。
「問題は、これが一時的な打撃なのか、それとも長期的な変化なのかということだ。われわれは引き続き一時的と考えているが、代替の安全資産や分散投資先を探している大口の資産保有者がいるという事実は否定できない」と話している。
原題:As Markets Sank and Soared, a New Fear Spread Across Wall Street (抜粋)