海外志向の個人投資家マネーで高まる円安圧力、NISA拡大の副作用

個人投資家による海外株式買いが円安圧力を高めている。なかなか縮まらない日米の金利差や日本の貿易赤字拡大のリスクをはらむトランプ米大統領の関税政策とともに、円資金が海外に流出する構図が一段と広がり始めた。

  政府が昨年初から少額投資非課税制度(NISA)の投資枠を拡充し、個人が主に購入する投資信託は2024年に海外の株式とファンドを10兆4000億円買い越した。この買越額は、NISAが創設された翌年の15年以来、9年ぶりの高水準だ。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券為替ストラテジストの龍翔太氏と植野大作氏はリポートで、「NISA投資に絡んだ円売り圧力が目先強まり、ドル・円やクロス円の上昇に寄与する可能性がある」と指摘。NISAを活用した積み立て投資は年々増加しており、「今後も新規の口座開設を背景に影響力の増大が予想される」と言う。

  NISAの口座数は昨年9月末時点で2500万口座と、20年末と比べ約60%増えた。日本銀行の資金循環統計によると、家計の現金・預金は依然として1000兆円超あり、貯蓄から投資への流れを加速させようと金融庁は24年に非課税保有期間を無期限化し、年間投資枠も拡大。つみたてワニーサというキャラクターも作った。

Sources: Bloomberg, Japan’s Ministry of Finance

  既に今年もNISAに関連した資金が人気の海外株式投信に大挙して流れ、25年のNISA投資枠の活用が可能になった1月第2週にはドル買い・円売りの傾向が強まり、一時1ドル=158円台後半と昨年7月以来の円安水準を付ける場面があった。

  ブルームバーグが集計したデータによると、日本の投信純資産残高ランキング1位と2位で、三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS SliM 米国株式(S&P500)」と「eMAXIS SliM 全世界株式(オール・カントリー)」に24年最初の10営業日で6410億円の投資資金が流入。前年同期比では60%以上増え、流入額は少なくとも19年以降で最大だった。

  JPモルガン・チェースのグローバルFX戦略共同責任者、ミーラ・チャンダン氏とアリンダム・サンディリア氏はリポートで「NISAは25年を勢いよくスタートさせた」とし、個人資産の半分以上が依然現金で保有されているため、「日本の家計からの資金流出は円安の構造的な要因だ」と述べた。

  もっとも、米新政権が海外からの輸入品に対し導入を模索する関税政策が世界経済に及ぼす影響は未知数で、海外市場が不安定になると、日本の個人投資家による海外資産買いの動きにも変化が見られるかもしれない。個人が利回りや株価の上昇で国内資産に回帰すれば、NISAマネーによる円安リスクは和らぐことになる。

  個人投資家はNISAを通じて日本の株式や債券にも投資することが可能だが、円安と相対的に低い国内の利回りが投資魅力を低下させている。14年のNISA始動以来、米国株の上昇率は日本株の2倍以上に及ぶ。

  野村証の分析によると、昨年1年間に進んだドル高・円安の約半分は投信を通じた海外資産への資金流出で説明が可能だという。24年の円相場は対ドル16円16銭下落し、下げ幅は13年以来の大きさだった。

  ブルームバーグの調査では、エコノミストの7割以上は23、24日に開かれる金融政策決定会合で日本銀行が政策金利を引き上げると予想。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げペースを減速させる方針で、金融市場が織り込む3月までの利下げ確率も20%台にとどまっている。

  市場予想通りに日銀が追加利上げに踏み切れば、日米金利差は縮小する可能性はあるものの、絶対的な水準差はなお大きく、一気に円高・ドル安に反転するとみる市場関係者は多くないようだ。

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