米雇用者数、年次改定で下方修正へ-想定ほどは落ち込まない見通し

7日に発表される米雇用統計の年次改定では、過去分の雇用者数の伸びが大幅な下方修正となる見通しだが、当初の想定ほどの落ち込みにはならないとみられている。労働市場の緩やかな冷え込みを裏付ける内容になりそうだ。

  米労働省労働統計局(BLS)が発表する毎年1月の雇用統計では、前年3月までの12カ月間の年次ベンチマーク(基準)改定が同時に含まれる。通常ならあまり注目されることはないが、BLSが8月に発表した推計値では2009年以来最大の下方修正となることが示されており、今回は市場関係者の関心が高まっている。

  推計値では、2024年3月までの1年間の米雇用者数の伸びが81万8000人下方修正されることが示された。1カ月当たりでは約6万8000人減となる。

関連記事:米雇用者数、2009年以来の大幅下方修正-年次基準改定の速報値 (2)

  エコノミストは年次改定での下方修正幅が、実際には60万-70万人程度になると予想している。

Drop in early benchmark tally based on state unemployment data biggest since 2009

Source: Bureau of Labor Statistics, Bloomberg

  BLSは、雇用者数の変動を算出するための事業所調査に加え、失業率算出に使う家計調査も実施している。1月分の家計調査では、人口の変動を考慮した改定が行われるため、移民による人口の大幅増が反映されることになる。

  以下に統計のポイントをまとめた。

雇用者数の改定

  BLSは年に1回、3月の雇用者数の水準を「四半期雇用・賃金調査(QCEW)」に基づいて再評価する。QCEWは州の失業保険支払いデータに基づきほぼ全ての雇用を網羅しており、より正確だ。

  改定に伴い、2024年3月までの1年間の雇用者数は速報値ほど堅調ではないことを示す可能性が高いが、エコノミストの大半はそれでも労働市場は依然として底堅いと話している。

  労働者寄りの政策を支援するシンクタンク、エムプロイ・アメリカのシニアエコノミスト、プレストン・ムイ氏は「全体としては、状況は変わらないだろう」とし、「米労働市場は冷え込みつつあるが、なお極めて好調だ」と述べる。

  事業所調査はBLSが実施する「バース・デス・モデル」改定の影響も受ける。同モデルは新規開業と廃業の正味を算出する。事業所調査には賃金と労働時間も含まれる。

  セントルイス連銀のシニア経済政策アドバイザー、アレクサンダー・ビック氏は「雇用者数の下方修正にもかかわらず、賃金の伸びと週労働時間が引き続き安定していれば、経済は依然として底堅いとの見方を後押しするだろう。また今回の改定は景気減速ではなく、データ上の調整によるものとの見方も強まりそうだ」と話す。

  ブルームバーグ・エコノミクス(BE)では、ベンチマーク改定とBLSのバース・デス・モデル改定の双方の影響により、2023年4月から24年12月までの雇用者数が計93万4000人下方修正されると分析している。

人口変動

  家計調査には、国勢調査局による最新の人口推計が組み込まれる。人口は移民の影響で増えており、1月の労働力人口、雇用、失業に関する予測値は押し上げられるはずだ。過去のデータは修正されないため、数値を前月までと比較することはできない。

  移民はここ数年、国内の労働力規模がほとんど変化しない中で、雇用拡大の原動力となってきた。不法移民の大量強制送還を掲げる一方、製造業の国内回帰を訴えるトランプ大統領にとって、これは重要な問題だ。

  BLSで雇用統計に関わっていたライトキャストのシニアエコノミスト(労働担当)、ロン・ヘトリック氏は「米国はここ数年、外国生まれの労働者に支えられてきた」と指摘。「不法移民の取り締まりが引き続き強まれば、米成長の押し上げ要因から、押し下げ要因に転落することが十分に想定できる」と述べた。

  事業所調査による雇用者数の伸びが下方修正され、家計調査による雇用者数のデータが上方修正されれば、両調査の隔たりは縮小するだろう。これまで事業所調査の雇用者数が強めの数字となる一方、家計調査の数字は弱めになる傾向があり、どちらの調査がより正確に労働市場を反映しているかを巡って、エコノミストの間では議論が巻き起こっていた。

Revisions may narrow gap between surveys' measures of employment

Source: Bureau of Labor Statistics

1月の雇用統計

  ブルームバーグのエコノミスト調査によると、1月の雇用統計では非農業部門雇用者数の伸びが17万3000人増になると予想されている。 

  今年の労働市場の動向を示す最初の統計となるが、データの解釈は難しいかもしれない。ロサンゼルスの山火事や各地における異例の寒波の影響が見込まれるためで、雇用者数の伸びや平均労働時間を下押しする可能性がある。

  BEのアナ・ウォン、イライザ・ウィンガー、クリス・G・コリンズ各氏は「ロスの山火事による損失全体を評価するには何年も要するだろうが、非農業部門雇用者数への影響を数値化することは可能だ。BEではこの災害により1月の雇用者数が約1万6000人下押しされると推定している。過去の自然災害と同様に、雇用の落ち込みはいずれ回復し、最終的には建設労働者の需要を押し上げるだろう」と指摘した。

  モルガン・スタンレーでは、1月の雇用者数を14万人増と見込む。山火事で4万人、寒波で3万人のそれぞれ押し下げ要因を予想に織り込んだ。マイケル・ゲーペン氏率いるエコノミスト陣によると、調査対象期間が1月の比較的遅い時期となったため、山火事と寒波の影響をより多く捉えることができたという。

  トランプ氏の政策が労働市場にどのような影響を与えるかはまだ見通せない。移民の強制送還がどのように実施されるか、どの程度の連邦政府職員が早期退職制度に応じるかなど不明だ。さらに関税は一般的に、雇用や経済活動全般に悪影響を及ぼすことが多い。

原題:US Jobs Will Get Marked Down, But Not as Much as Once Feared(抜粋)

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