【宝塚記念】武豊騎手「涙が出そうになるくらいうれしい」メイショウタバル 父に捧げる、最高のプレゼント

宝塚記念 武豊騎手騎乗のメイショウタバルが逃げ切り勝ち(c)SANKEI

メイショウタバルを見ていると、どうしても彼の父、ゴールドシップを思い出す。

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毛色も脚質も違うが、頭を高く上げた走りで勝つときは豪快に突き抜けて、負ける時は目を覆いたくなるような大惨敗を喫するというホームランか三振かを体現したその走りは親子そっくり。

さらに言えば出遅れ癖がひどかった父、スタートから折り合いが付かずに暴走する息子と、レース中に"やらかす"ところも親子共通だった。

まさに鹿毛のゴールドシップと言わんばかりの成績を残してきたメイショウタバル。

だからこそ、今回の宝塚記念はどんな走りを見せるが楽しみだった。というのも、宝塚記念は父ゴールドシップが天国と地獄を経験したレースだからである。

現役時代のゴールドシップは4~5歳時に宝塚記念で連覇を果たした一方、3連覇がかかった6歳時はゲートで立ち上がって大出遅れを喫して惨敗。

ゴールドシップの勝利を信じたファンが投じた馬券の総額はおよそ120億円にも上るが、それが一瞬にして紙くずになったことで大きな話題になった。

そんな宝塚記念で天国と地獄を味わった馬の産駒が今年、初めて宝塚記念に出走する。

それも数あるゴールドシップ産駒の中で最も父らしさを持つメイショウタバルだからこそ、どんな走りをするか、筆者は勝負を度外視して注目していた。

前日の雨が止んだことで、この日の阪神競馬場は重馬場で第1レースを迎えたが、次第に馬場は乾き始め、宝塚記念のパドックを迎えるころにはすっかり晴れ上がり、馬場も稍重に回復。

パドックにはファンに選ばれた17頭の精鋭がその雄姿を見せていた。

大阪杯で連覇を飾り、単勝1番人気に支持されたベラジオオペラを筆頭にGⅠ馬が6頭もエントリーした今年の宝塚記念はメンバーこそ豪華だったが、その実態は本命なき混戦模様。

実際、ベラジオオペラの単勝オッズも3.8倍と高く、10倍を切る馬は5頭もいるほど。一時は6番人気馬まで単勝オッズが10倍を切っていたのだから、その混戦具合は例年以上と言える。

そんな人気のボーダーラインとなった6番人気、パドックが始まる前の時点ではなんとメイショウタバルがその位置にいた。

道悪馬場が得意な彼にとって前日からの重馬場はプラスとなるはずだったが、だんだんと乾いていく馬場と晴れ上がる空模様。

そして10年前に父がやらかしたレースであることがファンの記憶に残っていたのか、次第に単勝オッズは10倍を超え、最終的には11.4倍となり、アーバンシックにも人気で抜かれて7番人気でレースに臨むことになった。

そうして迎えた宝塚記念。ゲートが開くと全馬出遅れることなく順調なスタートを切り、先行争いが始まったが...その中心にいたのはメイショウタバルと武豊だった。

すいすいと前に付けていく様子は10年前の父とは大きく異なる姿だが、相変わらず頭の高い走法は父の現役時代そのまま。

どこかノスタルジーを感じさせながら、大歓声が起こるスタンド前を通過して、第1コーナーへと入っていった。

メイショウタバルが逃げ、2馬身ほど後ろをリビアングラスとジューンテイクが追走。

そこからさらに2馬身半ほど離れた位置に1番人気のベラジオオペラがいた。その他の有力どころは有馬記念勝ち馬のレガレイラを含めて、中団待機という形をとってレースが流れた。

1000mの通過タイムは59秒1と平均からややスロー。その流れに楔を打つようにペースを上げていったのが1番人気のベラジオオペラと横山和生。

末脚のキレ味ではレガレイラらには敵わないと考え、早めに動いて前を行くメイショウタバルを捕まえようという勝ちに行くレース運びを見せ、3コーナーを迎える前辺りから徐々に進出し、メイショウタバルに迫っていく。

それを見た後続にいた各馬も徐々に追い上げていった。

今までのメイショウタバルなら、ここであっさりと捕まっていたことだろう。

昨年の神戸新聞杯を制して以来、国内では2桁着順を連発。ドバイターフは5着に踏ん張ったが、それでも1番人気馬にここまで迫られたらもう苦しいはず。

だが、メイショウタバルは失速するどころか、さらにペースを上げた。「俺の走りはまだまだこんなものじゃないよ」と嘯いているかのように。

迎えた最後の直線。内ラチ沿いに付けたメイショウタバルはもう一度ギアを上げた。

首は高いまま、そのスピードは下がるどころかさらに加速して迫ってきたベラジオオペラを突き放す。

ベラジオオペラが追いかける。阪神コースで負けたことがない彼にとって、直線でまだ前に馬がいるというのは初めての経験だが、横山和生の右鞭に応えるように脚を伸ばすが...それでもメイショウタバルとの差は開くだけ。

4コーナーから直線に入った時は1馬身もなかったはずの差が気付けば2馬身、さらに2馬身半と開いていた。

2番手に押し上げていたベラジオオペラがこうなのだから、他の馬はもう誰もメイショウタバルには追い付けなかった。

ゴールまで残り100mの時点で誰の目にもメイショウタバルの勝利は明らかだったが、武豊はそれでも左鞭をリズムよく入れて、メイショウタバルを最後まで鼓舞し続けた。

石橋守調教師と喜ぶ武豊騎手(c)SANKEI

そして迎えたゴール。メイショウタバルは2着のベラジオオペラに3馬身差を付ける完勝で宝塚記念を制覇。

父ゴールドシップが10年前にやらかしたレースで息子メイショウタバルは初のGⅠ制覇を飾ってみせた。

ゴール直後、ファンに向けて人差し指を立てた武豊はインタビューで「涙が出そうになるくらいうれしい。馬が繋いでくれる縁を感じる......いろんな思いがあります」と語った。

彼にとってメイショウタバルは騎手時代から関係のある石橋守が管理している馬であり、これまでに何度もビッグタイトルを獲得してきたメイショウの馬。言葉では語りつくせない縁があるのは間違いない。

思えば今年の宝塚記念は父の日の開催。父になったゴールドシップにとって、息子メイショウタバルの宝塚記念制覇は最高のプレゼントとなったことだろう。

■文/福嶌弘

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