トランプ氏の大規模送還計画、移民にとっての意味合いとは-QuickTake
トランプ次期米大統領は、米史上最大規模となる不法移民の強制送還を実行すると約束し、最終的には在留資格のない外国人全員を送還する考えを示した。その数は少なくとも1100万人に上るとみられており、不法移民の「大規模追放」は途方もない取り組みとなる。このため、多くの政策アナリストは同計画について、完全にはトランプ氏の思惑通りにならないと予想している。
トランプ氏の強制送還計画とは
トランプ次期大統領は不法移民全体に目を向ける前に、まず罪を犯した不法移民をターゲットにするという以外には、自らの計画について明言を避けている。移民・税関捜査局(ICE)局長代行を務めた経験があり、国境警備の責任者として今回の取り組みを監督するとみられるトム・ホーマン氏は、国家安全保障に脅威を与える人々も早期の優先事項になると説明した。
ホーマン氏は昨年11月、CBSの番組「60ミニッツ」で、逮捕については「対象が絞られる」と指摘。強制送還計画がどのようなものになるのかを巡る臆測の多くに関して「ばかげている」と一蹴し、「強制収容所を設けるようなことにはならない」と述べた。
Source: US Department of Homeland Security
最近の米政権は強制送還にどう取り組んできたのか
この20年間、民主党と共和党の両政権下で、当局は通常の退去手続きに基づいて年平均30万人前後の非市民を強制送還。オバマ元大統領の任期中は特に多かった。さらに、2020年から23年にかけては、新型コロナウイルス感染症危機で発動された保健上の緊急権限により、およそ300万人が送還された。
目新しい点は、拘束と強制送還の規模を拡大し、許可なく米国内にいる外国人の一掃を目指すというトランプ氏の公約だ。大規模な移民グループから既存の送還保護措置を剥奪することも示唆している。
強制送還の対象は
許可なく米国に居住する外国人は拘束され、最終的には強制送還されるリスクに直面する。これには、合法的に入国したもののオーバーステイとなっていたり、条件に違反したりした者だけでなく、ひそかに越境してきた個人も含まれる。有効な在留資格を持つ非市民であっても、罪を犯したり、公共の安全を脅かしたりすると判断されれば、送還に直面する可能性がある。
トランプ次期大統領が約束した取り締まりの中で、強制送還のリスクが差し迫っているのは、裁判所によってすでに国外退去を命じられている外国人だ。推定140万人の退去命令が保留されている。多くの場合、当局が彼らの居場所を把握できていないため、命令は執行されていない。
Estimated change in the number of unauthorized immigrants in the US
Source: Congressional Budget Office
亡命を希望する移民は比較的安全だと考えられる。これは迫害の正当な恐れがあることを示すことができる人々が利用できる保護に望みをかけ、近年、少なくとも一時的に米国にとどまることが認められている多数の不法入国者らだ。罪を犯さず、裁判所の審問に命令通りに出席する限り、係争中は在留を許可されている。
それに比べて、一時保護資格(TPS)と呼ばれるプログラムの下で17カ国からやってきた100万人の長期的な見通しは明確でない。これは、本国での政治抗争や自然災害、武力紛争が発生した際に、すでに米国に滞在している外国人に対し、在留資格の有無にかかわらず、強制送還からの保護を提供することを目的としている。トランプ氏はTPSによる保護を取り消すとの発言を繰り返し、1期目には複数の国を対象に同プログラムを終了させようとしていた。
もう一つ心配されそうなのは「ドリーマー」と呼ばれる人たちだ。幼少期に親に連れてこられ、人生の大部分を米国で過ごしてきた。こうした人々の在留を認める連邦の「DACA」プログラムは12年に設けられ、多くを強制送還から守っている。トランプ氏は1期目にDACA廃止を試みたが、成功しなかった。今回はドリーマーが米国にとどまれるようにする法案を通すために民主党と協力する用意があると示唆している。
トランプ氏の強制送還計画が直面する課題とは
当局はまず、捕捉されないようにして米国に居住する不法移民を割り出す必要がある。ホーマン氏が示唆するように、特定の外国人をターゲットにするのは時間のかかるプロセスだ。ICEの対策本部に配属された職員は、逮捕に向けてチームの守備範囲を地域全体に広げる前に、多くの特定の人物に対して監視を行い、居場所を確認することが多い。
トランプ次期大統領は、執行・退去部門で働く約6000人のICE職員以外の人員も必要とするだろう。過去には現役の軍隊を活用したり、現地の警官らに逮捕や退去の対応を行わせたりすることを提案したことがある。だが、トランプ氏の計画は、連邦法執行機関への協力を拒否する「サンクチュアリー」と呼ばれる地域からの反対に直面している。
強制送還の可能性があるケースが特定されれば、裁く必要も出てくる。
不法に入国し拘束された移民には、一般的にその必要はない。1996年移民法では、一部の例外を除き、判事に会わずに即刻強制送還される。亡命を求めたり、本国に送り返されたりする恐れがあると当局に伝えた場合は、これまで少なくとも一時的に米国内にとどまることが認められてきた。しかし、バイデン政権による昨年6月の政策変更により、不法に国境を越えた多くの移民には亡命資格がなくなり、いわゆる略式送還の対象となった。
一般的なルールとして、米政府によって最終的に退去させられる人々は、自国に送還される。だが、当該国の政府が必要な渡航書類を提供しないこともある。ベネズエラは原則として、米国による強制送還の取り組みに協力しない。また、米当局も送還された人が帰国後に不当な扱いを受けるのではないかと懸念を抱くかもしれない。こうした場合は受け入れる用意がある別の国に送還される可能性がある。
南部国境を越えたメキシコ人は陸路で帰国させられるが、それ以外で強制送還されるほとんどの人々は通常、空路で米国から移される。その費用は米政府の負担となる。
ホーマン氏は、トランプ次期政権の強制送還計画には最大860億ドル(約13兆4000億円)ものコストがかかると述べた。
原題:What Trump Mass Deportation Plan Means for Immigrants: QuickTake(抜粋)