死体に擬態する花 ショクダイオオコンニャクの進化の道筋を解明
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インドネシア・スマトラ島の固有種であるショクダイオオコンニャクは「死体花」とも呼ばれ、その開花は比類のない見ものだ。埋葬された巨人の腐りかけた指のような突起が地面から突き出し、高さ3mに達する。花びらに似た大きな構造が、その指がまとう血のように赤いケープとなる。腐肉の匂いがあたりに立ち込め、36時間ほどで開花は終わる。
近年の研究で、死体花がその奇妙な形質をどのように獲得したのかが明らかになってきた。
まず、この植物の構造を説明しておこう。ほとんどの期間は、地下の巨大な塊茎と、地上の大きな1枚の葉からなる。開花時期になると、葉の代わりに「花序」という構造ができる。一般の人が "花"と考えているもので、指のような形の「肉穂花序(にくすいかじょ)」と、それをケープのように取り巻く「仏炎苞(ぶつえんほう)」からなる。だが本当の花は肉穂花序の基部にある小さな構造だ。個々の花は数ミリ足らずで、花弁やがくはない。花粉を作る雄花の集合が肉穂花序の基部の高い位置に、種子を作る雌花の集合は低い位置に生じる。
死体花は擬態の進化に関する並はずれた例だ。身近な顕花植物のほとんどは甘く香る花を咲かせ、ミツバチや蝶、鳥などの花粉媒介者を引きつける。これに対し死体花は腐肉のような見た目と匂いによって、ハエや甲虫などの腐肉食昆虫を引きつけている。花序に見られる起伏や変色は腐肉の表面によく似ており、悪臭のおかげでさらに本物らしくなっている。
死体花は他の多くのコンニャク属の仲間と同様、硫黄を含む特異的な匂い化合物を進化させた。ダートマス大学のシャラー(G. Eric Schaller)らは最近、死体花の匂いに動物の腐肉臭のもととなるプトレシンという成分が含まれていることを同定した。死体花が腐肉とまったく同じ匂い化合物を独自に進化させたのは驚きだ。
腐肉食昆虫に受粉を頼っている植物の多くは発熱機構を備え、熱によって上昇した匂いを広く拡散させて花粉媒介者を引きつける。死体花は塊茎に蓄えたデンプンを糖に変えて代謝することでエネルギーを生産するが、それを細胞の活動に使うほか、一部を熱として放出している。これによって肉穂花序の温度は周囲の気温よりも10℃ほど高くなる。
この植物は花序が巨大に進化した一方で、実際の花は矮小化した。どんな進化プロセスがこれらの変化を可能にしたのか?
ハーバード大学のデービス(Charles Davis)らは、花序と花(個々の花の集合体)が極端に大きくなる進化が植物界で何度も起こっており、その多くは腐肉食昆虫に受粉を頼っている種であることを発見した。これらが大型化したのは、より多くの匂いを放出して昆虫を引きつけるためだろう。
加えて、腐肉食昆虫が産卵場所を選ぶ際に、生まれてくる幼虫に豊富な食べ物を提供できる大型動物の死骸に引きつけられるのと同様に、死骸に擬態した植物でも花序が大きいほうに引き寄せられるのだろう。
だが、花粉媒介者の好みが死体花の進化を導いたのなら、なぜ個々の花はこうも小さいのか? 花が総体として大型化する選択が働いたとして、なぜ個々の花ではなく花序が巨大化したのか?
この謎を解くには、この2つの形質のどちらが先に進化したのかを知る必要がある。進化系統樹を見ると、この種が属するサトイモ科の植物も,サトイモ科が属するオモダカ目の他の植物も総じて花が小さい。個々の花が大きい種だけで構成されるグループを見つけるには、オモダカ目から複数回の分岐を隔てたユリ目まで行かなければならない。よって、死体花の系統では小さな花のほうが大きな花序よりも先に出現したことがわかる。
祖先筋の花が小さかったことが、死体花の進化の道筋を決定づけた可能性がある。西ミシガン大学のバークマン(Todd Barkman)らは花の大きさが進化で変わる速さを調べ、個々の花が大きい祖先種から生まれた系統は、花の小さな祖先から生じた系統に比べて、花の大きさの進化が速い傾向があることを見いだした。だが、死体花とその近縁種は花が小さく、個々の花のサイズが進化で変わる速さが遅い。このため、腐肉食昆虫によって大きな花に対する選択圧がかかるなかで、個々の花が大きくなるよりも、花全体のサイズが大きな変異体が出現する可能性のほうが大きい。
ひとたび大きな花序が出現すると、大きな花序からさらに大きな花序が生まれ、個々の花を大型化するという別の道筋をたどる可能性はどんどん小さくなる。この結果、巨大な花序と小さな花という奇妙な取り合わせのショクダイオオコンニャクが生まれたと考えられる。
(植物進化生物学者 Jacob S. Suissa、テネシー大学)
詳細は7月24日発売の日経サイエンス2026年9月号に掲載
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