台湾は地政学そのもの、今後数カ月が極めて重要

中国の台湾統一戦略はうまくいっていないというのが、長年にわたる筆者の考えだった。だが、今はそう言い切れない。

  中国はこれまで、戦争に至らない形での威圧を通じ、戦わずして台湾を屈服させようと狙ってきた。同時に、必要であれば民主主義体制を確立した台湾を力で押しつぶすための軍事的準備も進めてきた。

  しかし比較的最近まで、この戦略は逆効果だった。台湾の人々の抵抗意思を強めただけでなく、米国との結び付きも強化していたからだ。だが今、台湾人の士気、そして米台関係にひびが入り始めている。

  筆者は最近、台湾を訪れ、政府関係者や政治家、専門家らと意見を交わし、台湾が米国と中国という二大経済大国の狭間でどのようなかじ取りをしているのかを探った。その結果、台湾と米国の関係が極めて重要な転換点に差しかかっているとの強い印象を受けた。

  この先、その関係がより強固で持続的なものになるのか、それとも破滅的な危機を招くのかが問われる局面となる。

  米国の対応はここ1年ほど、台湾政府に不安と疑念をもたらしている。米国に大きく依存する台湾自らも、結束と危機感が最も求められる時期に、内政のもつれによって身動きが取れなくなっている。

  その結果、貿易や防衛費、そしてトランプ米大統領の対中交渉を巡り複雑な問題が絡み合い、米台関係を不安定化させるリスクが高まっている。

  一方、中国は台湾の不安定化を狙った動きを強めている。今後数カ月はワシントンと台北の間で険悪な展開が回避できるかどうか、極めて重要な時期となる。台湾の生き残りと米国の戦略的地位についての状況を左右しかねないタイミングだ。

半導体だけの問題ではない

  米国人の多くは台湾を「民主主義の成功例」や「半導体のスーパーパワー」として語ることが多い。確かにそのどちらも事実だが、台湾の本質的な重要性は地政学にある。

  西太平洋の地図を見れば、台湾が中国の長大で経済的に重要な沿岸部へのアクセスを押さえていることが分かる。台湾は東アジアの二つの内海、東シナ海と南シナ海の間に位置し、北から南へそれぞれの海を守る要衝となっている。

  中国の言う「第一列島線」は、日本からインドネシアへと南北に走るが、その中央に位置しているのが台湾だ。

  台湾が米国やその同盟国の影響下にあれば、中国の海洋進出を抑え込む防衛線の一部として機能するが、中国の支配下に入れば、フィリピンや日本を脅かし、西太平洋における米国の安全保障体制を崩壊させる可能性がある。

  いわゆる「屈辱の世紀」に象徴される列強支配の記憶を払拭(ふっしょく)したい中国にとっては、台湾はそうした象徴以上の存在だ。中国本土での国共内戦で敗れた国民党は台湾に敗走したが、それに絡む未解決の歴史問題というだけにもとどまらない。

  中国は台湾を沿岸の重要海域を支配し、外洋への突破口を開くための鍵と見なしている。中国のあるアナリストは、米国の支援を受けた台湾を「大きな竜の首輪」と表現。中国は台湾を服従させようと多面的な戦略を構築している。

「アナコンダ戦略」

  中国共産党の習近平総書記(国家主席)が最も望むのは、破滅的で予測不能な戦争を起こさずに台湾を制圧することだ。その手法は、あらゆる領域に及ぶ段階的な威圧の強化だ。

  中国人民解放軍の演習は、台湾を包囲し、主権を徐々に脅かし、台湾軍を疲弊させ、侵攻や封鎖への脆弱(ぜいじゃく)さを露呈させようとしている。

   台湾を孤立させるため、中国は台湾と海外の通信を担う海底ケーブルを切断している。さらに、中国によるサイバー攻撃や偽情報、政治への介入が絶えず台湾社会を揺さぶっている。外交面では、国際機関加盟や対外関係を巡り圧力を加え、台湾の国際的な活動空間を狭めている。

  これは「アナコンダ戦略」と呼ばれるもので、締め付けを段階的に強化し、最終的に台湾を屈服させる狙いがある。孤立と士気の低下が降伏を生む、というのが中国側の計算だ。

台湾に最も近い中国地点の一つ、平潭島の上空を中国軍のヘリコプターが飛行する様子を見守る韓国客

  中国は同時に、より決定的な選択肢の準備も進めている。30年前に米国の戦略家らは、時代遅れの兵器に頼る人民解放軍が台湾海峡を渡るには「100万人の水泳部隊」が必要だと冗談交じりに語っていた。

  だが今や、現代化された人民解放軍は、台湾の封鎖・隔離を実施できる能力を継続的に高めている。中国政府は台湾を攻撃するためのミサイルや軍用機、侵攻に必要な陸海空の戦力、さらには米軍の介入を阻止するための各種兵器に巨額の投資を行ってきた。

  こうした軍備拡張は、威圧が失敗した場合の「予備プラン」として機能するだけでなく、その威圧戦略を支える役割も担っている。

  すなわち、中国の軍事力が圧倒的だという印象を台湾側に植え付け、米国には介入のコストがあまりに大きいと思わせ、最終的に台湾の人々に戦わずして屈する方が得策だと思わせることを狙っている。

米国は本当に頼れるのか

  中国の軍拡は、戦争が近いのではないかという危惧を確実に強めている。2022年8月にペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した直後、中国が軍事的威嚇行動で応じた際、ある米政府高官は今後5年以内に米中が戦争状態に陥るのではないかとの懸念を筆者に伝えた。

  しかし最近まで、習氏の戦略は台湾の士気をくじいたり孤立させたりする効果を上げてはいなかった。むしろ逆の結果を生んでいた。

  中国の圧力は、強権的な体制の下に置かれた場合に何を失うかを台湾社会に明確に示し、統一への抵抗を固めたのだ。

  台湾の二大政党のうち、民主進歩党(民進党)は16年、20年、24年と3回連続で総統選を制し、対中融和を掲げる国民党は野党であり続けている。1996年に始まった台湾総統の直接選挙で、同じ政党が3回連続で勝利したのはそれまでなかった。

  世論調査でも、台湾社会が中国との将来的な統一に対して懐疑的な姿勢を強めていることが示されている。多くの有権者は依然として正式な独立には反対しているものの、自らを「中国人」ではなく「台湾人」と認識する人が増え、台湾の自由を守るために戦う意思を持つ住民も増えている。

  台湾政府は防衛費の長期的な減少傾向を明確に転換させ、小型で安価な装備、例えば移動式ミサイルや機雷、ドローン(無人機)などを駆使して侵攻してきた中国軍に大きな損害を与え、米国の支援が到着するまで持ちこたえるいわゆる「非対称」戦略を採用した。

  米国は台湾が攻撃を受けた場合にどう行動するか明言していないものの、有事には支援に踏み切る可能性が高まっているとみられ、台湾の米国を含む主要国との関係が一段と緊密化した。

  トランプ氏は政権1期目にこの点で大きな功績を残した。

  同氏自身は米国の台湾関与について常に相反する態度を示していたが、2018年の国家防衛戦略で、過去15年間にわたり中東でのテロ・反乱勢力掃討に重点を置いてきた米軍の体制を、中国の侵略を抑止・撃退する太平洋重視の体制へと転換させた。

  トランプ政権は台湾への武器売却額でも過去最高を記録した。

台湾の国家中山科学研究院に展示された台湾製の中高度・長時間滞空型無人航空機

  バイデン前米大統領は、この流れをさらに加速させた。バイデン氏は、戦争が勃発した場合には台湾防衛に踏み切ると表明。

   ウクライナへの直接介入を避ける政策との整合性から、バイデン氏の本気度に疑問を抱く声もあったが、台湾防衛の姿勢を何度も鮮明にした。バイデン政権は、米軍の保有兵器を台湾に直接供与する形で、軍事支援を強化した。

  さらに重要だったのは、台湾への外交支援を強化するため、アジア内外の友好国と連携を深めた点だ。米国と日本、オーストラリアを中核とする連合体の構築を進め、台湾有事の際には共同で防衛にあたる可能性のある枠組みの形成に乗り出した。

  筆者が当時懸念していたのは、習氏の威圧戦略がことごとく失敗していることが、逆に習氏を軍事的冒険に駆り立てるのではないかということだった。しかし最近では、米国と台湾それぞれの情勢変化を受け、状況が新たな段階に入りつつある。

不穏なトランプ関税

  トランプ氏は政権1期目の実績を踏まえ、2期目も台湾を支持する対中強硬路線を続けるとの見方が広がっていた。だが実際には、建設的な政策と、台湾および頼清徳総統を混乱させる施策が入り混じっている。

  米国防総省(ペンタゴン)が弾薬生産体制を戦時対応に近づけ、太平洋での戦闘準備を妨げかねない行政の硬直性を打破しようとしていることはプラス面だ。政権2期目の国防次官に起用されたエルブリッジ・コルビー氏は、中国の侵攻抑止に的を絞った戦略必要性を長く唱えてきた。

     トランプ政権は、米国に英国と豪州を加えた安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」や、フィリピンから中部太平洋にかけての新たな基地整備構想など、バイデン政権期に始まった重要政策を引き継いで推進している。また、同盟国や友好国に自国防衛をより真剣に強化するよう促していることも正当だろう。

  しかし一方で、トランプ氏の政策は、台湾に広範かつ明確な不安を生じさせている。台湾は米国との自由貿易協定を望んでいたが、トランプ政権は代わりに高関税を課した。このため、台湾当局者の間には、米国は友人を敵より多少ましに扱う程度でしかないのかとの不満が広がった。

  ペンタゴンは、台湾に対しGDP(域内総生産)の10%という極めて高水準の軍事費を繰り返し要求。だが台湾側は、政治的にも経済的にも実現不可能だとみている。米国からの購入を決めた兵器の納入が数カ月から数年遅れている現状も、この不満を一層強めている。

  台湾の指導層は、ペンタゴンが侵攻リスクばかりを重視し、台湾の主権を日常的にむしばみ、士気をそぐ中国の「グレーゾーン威圧」への対応を軽視していると嘆く。こうした米政策の組み合わせは、少数与党を率いる頼氏の政治的立場を極めて厳しいものにしている。

  トランプ政権の対中政策も、台湾を安心させるものではなかった。ホワイトハウスは今年夏、中国を刺激しないよう、頼氏が外遊の際に米国に立ち寄るのを控えるよう促したとされる。

  トランプ政権は台湾向け武器供与の一時停止を繰り返し、非公式の防衛協議も格下げしたと報じられている。いずれも、中国との通商交渉への悪影響を避けるためだった。

  トランプ氏が10月末、韓国での習氏との会談で台湾を犠牲にする譲歩をしなかったことに、台湾政府が安堵(あんど)の息をついたのは、トランプ氏の政策がどれほど不安をもたらしていたかの証左だ。

  米国の意図が読めない状況は、台湾で非対称防衛戦略の有効性を巡る静かな議論を再び呼び起こしている。すなわち、援軍が来る保証がないのに、援護を待つ前提の戦略を採る意味があるのかという疑問だ。

台湾の内憂

  米国発の問題だけではない。台湾側にも課題がある。確かに、台湾の防衛力強化に向けた取り組みは進んでおり、軍事演習はより実践的かつ大規模になっている。

  徴兵制と予備役制度も、長年形骸化していた仕組みの改革が始まった。また、台湾はロシア周辺の欧州諸国から、転覆工作や偽情報などへの対処法を学んでいる。

  しかし、台湾政界の雰囲気は極めて険悪だ。与野党はまるで外国の敵に向けるかのような激しさで互いを攻撃し合っている。

  野党第1党の国民党と第2党の台湾民衆党が組み、立法院(国会)で多数派を握っており、頼政権の政策をたびたび阻止。台湾の政治は、台湾が最も成果を必要としている時期に、あまりにも分断され過ぎ、極端に対立的になり過ぎている恐れがある。

  一方、中国に対して強硬な言葉を用いる頼氏の傾向は、一部の米当局者を不安にさせている。頼氏の発言が米国を巻き込む危機を誘発しかねないと懸念しているのだ。

  米台関係は、西太平洋の平和と安定を支える基盤だ。しかしここ数カ月、米国と台湾は共に疑念と不満にさいなまれている。

  こうした緊張は初めてではない。戦略的に極めて緊密な関係であっても、摩擦はつきものだ。米台関係は正式な外交関係ではなく、日常的な意思疎通でさえ難しくなりやすい構造的な問題を抱えている。

  台湾は常に米国からの確約を求め続けている。それは常に台湾海峡の向こう側にいる巨大な敵の脅威を恐れているためだ。このような危機感はむしろ米台関係の常態で、現在の混乱が結果的にその関係をより強固なものにすることもあり得る。

危ういパワーバランス

  25年10月30日に韓国で会談したトランプ氏と習氏が笑顔で交わした握手の裏では、危ういバランスが続いている。トランプ氏が中国との関係悪化を再び避けようと、台湾支援を抑制することも考えられる。

  来年4月に予定されている米中首脳会談では、中国が米国に対し、台湾政策の修正、例えば「台湾独立を支持しない」から「反対する」への転換を求めてくる可能性もある。

  また、トランプ政権が台湾への武器売却や貿易協定を進めた場合、中国がレアアース(希土類)輸出の管理を強化するという形で圧力をかけてくるかもしれない。

  中国の狙いは、米台関係の重要なファクターを凍結させ、トランプ氏が習氏とのデタント(緊張緩和)に米台関係を従属させたように見せることだ。

  これが現実になれば、台湾の自信は崩れ、米台双方のリーダーが相互信頼を失う悪循環に陥る可能性がある。その間にも中国は圧力を強めるだろう。

  それは直ちに災厄や屈服を意味するものではないかもしれない。だが、長期的には台湾側の士気をむしばみ得る。まさに習氏の狙い通りになるリスクが大きく高まる。

  トランプ政権内では、こうした展開を歓迎する新孤立主義者もいるかもしれない。台湾への曖昧な関与が米国を望まぬ戦争に巻き込むと懸念しているからだ。だが、それは誤った見方だ。

  台湾は国際援助の対象などではない。世界のテクノロジーサプライチェーンと第一列島線の要であり、西太平洋における米国の同盟ネットワークを南北で結び付ける存在だ。

  高市早苗首相もこの点を理解しており、台湾有事に関して、戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると国会で答弁した。

  これに対し、中国の外交官はSNS上で高市氏の「汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」と脅した。尖閣諸島周辺での中国の武装船による圧力も強まっている。

  米台関係はいかに厄介であっても、台湾海峡の平和を数十年にわたって支えてきた。さらにそれは、米政府とその民主的パートナーに有利な地域のパワーバランスを保つ役割を果たしてきた。

  強固な米台関係は、世界で最も重要な地域の安全保障の要だ。その関係が将来どれほど強靭(きょうじん)なものになるかは、今後数カ月にかかっている。

(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授で、シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)」の上級研究員でもあり、「デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突」を共同で執筆しています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Taiwan Has Reached Its Tipping Point: Hal Brands(抜粋)

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