広陵高校問題で露呈、私立校の「隠蔽体質」と法制度の限界…元大手紙記者の地元市議が「構造的問題」指摘
夏の甲子園は終盤に入り、ベスト4が出そろった。本来なら有望選手たちの活躍が話題をさらう時期だが、今大会は様相が一変している。
広島県代表の広陵高校が前代未聞の「途中辞退」を決断するきっかけとなった暴力事案が、大会全体に暗い影を落としているのだ。大手メディアは大会の「美談」を前面に押し出してその影を払おうとするが、SNSでは批判の声が収まらない。
広島市安佐南区選出の市議で、元読売新聞記者の椋木太一氏は、辞退の原因が「SNSでの拡散にすり変わっている」と報道姿勢を厳しく批判する。
さらに「いじめや暴力の実態が私立高校においてブラックボックス化している」と構造的問題を指摘した。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)
●「バランスの欠いた」メディア報道
椋木太一広島市議(本人提供)
椋木氏は、広陵高校の辞退が発表された翌日の8月11日、自身のXでこう投稿した。
「まるで『SNSのせいで辞退に追い込まれた』と言わんばかりの論調に違和感しかありません」
弁護士ドットコムニュースの取材に、違和感の理由をこう説明する。
「発端は元部員の保護者とみられる方がSNSで暴力事案を明らかにし、学校側の対応の問題点を指摘したことです。ところが学校長は記者会見で、SNSでの情報拡散や爆破予告などによって生徒や学校、大会運営に支障をきたしており、人命を最優先するため、辞退を決断したという趣旨の発言をしています」
元大手紙の記者として、椋木氏は報道姿勢にも疑問を投げかける。
「1月の暴力事案とその後の処分は8月まで一切公表されていなかったのですから、本来ならば事案の詳細や経緯を踏まえたうえで、両論を併記すべきです」
現状の報道について「被害者側の意見をほとんど表に出さないまま、SNSで他の生徒の顔写真などが拡散されていることが問題だという論調はバランスを欠いている」と厳しく批判した。
●いじめ防止対策の『限界』
今回の件で浮かび上がったのは、メディアだけでなく、私立校がいかに「隠蔽しやすい」環境にあるかという構造的問題だ。
広島県学事課によると、同課が事態を把握したのは7月中旬。学校からの報告ではなく、外部からの情報提供によるものだった。この時点で県ができたのは、事実確認と対応要請にとどまった。
被害者側が被害届を出していたにもかかわらず、広陵高校は大会に出場し、のちの批判を拡大させた。現在、県は同校が設置した第三者委員会の調査報告を求めているが、担当者は「これほど大事になったからこそ、県として調査報告を求めることができた」と語る。
私立学校に対する自治体の監督指導は、公立学校に比べて大幅に限定されている。椋木氏は「いじめ防止対策推進法の『限界』を見た」と指摘する。
同法では、いじめ重大事態発生時の報告義務を定めているが、その判断自体は学校や設置者とされており、私立学校の場合は自治体が主導しにくい。
なお、重大事態の定義は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」(同法28条1項)とされている。
椋木氏は「私立学校の自主性や独自性を担保する考えに基づくものだろう」と一定の理解を示しつつ、「『いじめ』なのか、警察に『事件』として被害届を出す事案なのかの判断ですら、学校に丸投げされているのが現状。今回の事案の遠因になっているのではないか」と問題点を指摘する。
●「無償化」するなら公立校並の透明性の担保を
椋木氏は、この問題は「高校野球」という枠を超えた「社会全体の課題」だと強調する。特に2026年度から始まる見通しの私立学校「実質無償化」との関連は無視できない。
国による就学支援金は現在、年間所得910万円未満の世帯に限定されているが、2026年度からは所得制限を撤廃する。上限額もこれまでの39万6千円から45万7千円まで引き上げられる。これは全国平均授業料にあたる金額だ。
「これまで以上に国や自治体から税金が投じられる以上、不適切な運営には積極的に改善を求められる法制度を整える必要がある」と椋木氏は語る。
私立学校法は「その自主性を重んじ」と謳うが、それが行きすぎれば隠蔽体質の温床となりうる。今回はたまたま「強豪校」で起きたからこそ注目を浴びたが、「氷山の一角」にすぎない可能性は高い。
国や自治体には、私立学校運営の透明性を担保する実効性のある仕組みが求められている。
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