みんな傷ついている|広尾晃「野球のことを中心に、そのほかの話題も」
毎年3月になると、エープリルフールのネタを少しずつ考え始めている。ブログのバックナンバーを見直してみると、2013年からこれをやっている。コロナ禍の2020年は笑えない状況だったのでやっていないから、今年で13回目になる。毎回、楽しみながら「嘘」「大風呂敷」を考えていた。今年はトランプネタしかないと思っていたが、今回は苦しい気持ちのほうが大きかった。
「私怨」が「政策」に
昨年、アメリカの大統領に再任されたトランプは復讐心に燃えていたと思う。一期で大統領を下ろされたことで政敵に激しい憎悪の念を抱き、就任すると、「大統領令」という形で次々と復讐を果たしていった。アメリカの繁栄と進化の原動力であるはずの有力大学や、民主主義の核心であるはずのメディアを弾圧し、長年の同盟国である自由主義諸国に対して高関税を科した。
これらは「私怨」でしかなかったが、アメリカ大統領という世界最高の権力者の「私怨」は、超大国アメリカの「政策」になって、アメリカのみならず世界中に深甚な影響を与えた。
究極のエゴイズム
しかしかの大統領には「統治力」「政策能力」「政治力」はない。あるのは狡猾な「ディールする力」だけだ。思いつきでの政策の乱発は、様々な矛盾を生み、トランプを大統領に再選させたMAGAなど岩盤支持層も不信感を抱くようになった。これに焦ったトランプは、さらに支離滅裂な政策を打ち出すようになった。「エプスタイン疑惑」などもあり、場当たり的で、その場しのぎの発言が増えた。メディアが「TACO=Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって退く)」と名付けた「朝令暮改」が始まった。中間選挙がある今年、トランプは国内の目を海外に向けるためにベネズエラのマドゥーロ大統領を急襲して身柄を拘束、さらにイランの最高指導者ハメネイ師を殺害した。世界を大混乱に陥れても自らの支持率を維持したいという、究極のエゴイズムを発揮したわけだ。
「概ね間違っていない方向」に導いてきたが
日本という国は、アメリカによって民主主義を「移植」され、戦後80年、アメリカのほうを向いてきた。アメリカは日本の長い歴史にかんがみて、天皇制を存続させ、古い価値規範も残したが、同時にアメリカから「新しい思想」「文化」「流行」も大量に流入した。多くの日本人にとってアメリカは「あこがれの的」になり、若い世代はアメリカ人のような生活を夢見るようになった。日本人にとってのアメリカの魅力は、端的に言えば「公平さ」「明るさ」そして先入観にとらわれない「進取の気質」ということになろう。伝統国家日本の若者にとって、それはまぶしく映ったものだ。アメリカは、自分たちの国の考え方=民主主義、報道・言論の自由、自由競争などを世界中に広げようとした。押し売りめいた部分もあったが、その過程で、世界の国々が価値観を共有するようになった。ビジネス的な障壁をできるだけ下げて、自由貿易が広がることで、世界は豊かになった。今はネガティブな意味合いでも使われるが「グローバリズム」はこうして広がった。ベトナム戦争を経て、アメリカの思想も変貌したが、自然環境の維持保全を目指す「エコロジー」や「ジェンダーフリー」などの考え方も、アメリカから広がった。いろいろな問題があるにせよ、アメリカは超大国として世界を「概ね間違っていない方向」に導いてきた。
日本は「属国」と呼ばれながらもアメリカの方を向いてここまでやってきたのだ。
「理想の国」の変貌に驚愕
しかし、トランプ大統領になってからのアメリカは、そうした日本人の持つ「アメリカ観」を裏切り続けた。陰謀論、メディア、大学や研究機関への弾圧、反知性主義、そしてカナダ、グリーンランド、パナマなどへの領土的野心。権威主義国家であるロシアや中国を上回る強引で、理不尽な政策が次々と打ち出され、今年になると他国を侵略するようになった。私たち日本人は「理想の国」アメリカの変貌に驚愕し、不安を覚えている。トランプ大統領の口から日々発される攻撃的で、無慈悲な言葉を信じられない思いで来ている。日本人の手の届かないところで実質的な「宗主国」アメリカが変貌していく様を、恐れおののきながら眺めている。とりわけ、毎日のように食言し、強弁を繰り返すかの国の大統領の発言が、海を越えた日本人にも、心的ストレスを与えている。
アメリカの人々の多くは、日本人よりはるかに大きなショックを受けているだろうが。
今日、トランプ大統領はアメリカ国民に向けて演説をしたが、その中で、戦闘中のイランを攻撃によって「石器時代に戻す」と言った。自由と民主主義の旗手であるはずのアメリカ、あこがれの国アメリカの大統領が、アメリカよりはるかに伝統のある国を見下げて、徹底的に破壊すると言ったのだ。
日々そうした悪夢でしかない言葉を聞く我々は「傷ついている」のだと思う。
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