笑顔を絶やさない女神の存在 蝉川泰果がかなえたもう一つの悲願
◇国内メジャー第2戦◇BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ 最終日(8日)◇宍戸ヒルズCC西コース(茨城)◇予選ラウンド7397yd(パー70)、決勝ラウンド7430yd(パー71)◇曇り(観衆6055人)
「よく頑張ったね」。堀川未来夢とのプレーオフを制し、2年ぶりの勝利をメジャーで飾った蝉川泰果を出迎えた妻でタレントの久保葵さんは、そっとつぶやいた。蝉川の勝負カラーである黄色のウェアでそろえ、大きな瞳を潤わせながら、昨年11月に結婚した夫の優勝を心から喜んだ。
蝉川にとっても、尾崎将司を超える『史上最年少(24歳148日)の日本タイトル3冠』を誇るとともに、「苦しんでいるところをずっと支えてくれた妻に優勝を届けたい気持ちだった」という悲願をかなえる特別な一勝になった。
来年のPGAツアー参戦を目指し、ことし1月から臨んだ米下部コーンフェリーツアーでは絶望を味わった。2月にコロンビアで開催されたシーズン第4戦のプレー中に、体に痛みを覚えて途中棄権。同ツアーでのプレーを諦め、帰国後に複数の病院を巡っても原因が判明しない。当時の蝉川について葵さんは「相当落ち込んでいた」と回顧する。
そんな夫に対して、葵さんは「絶対に大丈夫」と励まし続けた。言葉だけではない。蝉川の地元・兵庫県加東市にある佐保神社での厄払いを勧め、完治を望める病院の選定に奔走。6カ所目となった大学病院でようやく理想の医師に巡り合い、MRI検査により肋骨3本の疲労骨折という診断にたどりついた。静養と治療を経て、5月の「中日クラウンズ」でツアー復帰。葵さんも「いつかは来ると思っていたけど、こんなに早く優勝できるとは」と驚く、復帰4試合目での復活Vだった。
葵さんは昨年11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」から帯同を続け、昨年限りでタレント活動から退いた。ことしに入り、南米大陸を転戦したコーンフェリーツアーも蝉川と一緒に転戦。“いつも笑ってくれればいい”という夫の頼みに応えようと、「常にポジティブにいよう。私が笑っていなかったらアカン」と笑みを絶やさず寄り添ってきた。
優勝したとはいえ、医師には完治6カ月の見込みを告げられている。電気治療により想定よりも早い回復傾向にあるものの、今も「左の可動域が狭くなっていて(患部に)“突っ張り”を感じている」(蝉川)という違和感を抱えた状態。医師の指示に従い、次週から2試合を欠場してリハビリに努める予定だ。
「いける、いける」、「頑張れ」-。蝉川に、何よりも励みになってきた妻の激励。再び不安と向き合うことになるかもしれない期間も、最愛の人が隣に居てくれればきっと乗り越えられる。(茨城県笠間市/塚田達也)