トランプ関税の迷走、交渉相手国さらに混乱-朝令暮改で企業は疲弊

トランプ米政権が発表したスマートフォンなど電子機器に対する上乗せ関税の除外措置は、関税を巡って米国とどう交渉すべきかを模索している企業や貿易相手国にさらなる混乱を広げている。

  11日遅くに発表された今回の上乗せ関税の除外措置では、中国からの輸入品への125%の関税およびほぼ全ての国・地域に対する基本税率10%の関税の対象から、一部の電子機器が外れた。中国から米国への輸入品1010億ドル超相当が対象外となり、アップルエヌビディアにとっては大きな勝利だ。

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  ただ、トランプ大統領は13日、除外措置は一時的かつ手続き上の措置だと主張。これらのハイテク製品に対しては最終的に、セクター別の関税を課す方針だと表明した。

  週末にめまぐるしく変化した今回の動きは、関税が経済に与える影響を見極めようとする金融市場にとっては、トランプ政権の戦略の全体像をさらに見えにくくするものだ。ホワイトハウスは綿密な計画に基づくものだと主張しているが、取引重視で気まぐれな大統領の思いつきに過ぎないと批判する声もある。

  交渉のために代表団をワシントンに派遣しようとしている国や地域の間では、そもそも対話自体が最善の策なのかという新たな疑問が生じている。

  ルールが一夜で変わるような不安定な環境での事業展開を強いられる多国籍企業にとっては、あえて動かずに静観することが最も安全な選択肢となりつつある。

  かつて米通商代表部(USTR)次席代表を務め、現在はアジア・ソサエティー政策研究所に所属するウェンディ・カトラー氏は「トランプ政権は、まず動き、必要に応じて調整するというアプローチを続けている」と指摘。「このやり方は投資家や貿易相手国にとって先行きの不透明感を一層強めるものであり、もはや米国との交渉を急ぐことが最善のアプローチだとは見なされなくなるかもしれない」と語った。

  トランプ氏は13日、不公正な貿易を巡り「誰一人として責任を免れることはない」と、自身のソーシャルメディア・プラットフォームに投稿。今回の除外措置については「単に別の関税カテゴリーに移行するだけだ」とし、これから行われる国家安全保障に関する調査で、「半導体や電子機器のサプライチェーン全体を精査する」と説明した。

疲れる企業は「様子見」に

  週末に相次いだ慌ただしい政策転換で、トランプ関税を巡る状況は混乱に拍車が掛かっている。トランプ氏は国別の関税率については交渉の余地があると示唆してきたが、今や業種別の関税も交渉対象となるのかどうかという新たな疑問が浮上している。

  ラトニック米商務長官は13日、ABCの番組で「交渉の余地はない」と発言。しかし数時間後、トランプ氏は大統領専用機で記者団に対し、企業との協議にオープンな姿勢を表明し、「一定の柔軟を示さなければならない」と語った。

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  ホワイトハウスが発信するメッセージは、米国への輸入に業績を大きく依存する企業にとって、さらなる不確実性を生み出している。

  物流大手DHLグループのトビアス・マイヤーCEOは、各企業は米国の方針が絶えず変わる中で対応しようとしているが、「何かが発表されても、その2日後には変更されるかもしれないという不安がある」と述べた。

  マイヤー氏は14日のブルームバーグ・テレビのインタビューで、「製造業や流通業の意思決定者の間では疲れが見えてきている」とし、企業や消費者も「様子見の姿勢」を取るようになる可能性があると語った。

  米国との交渉に乗り出そうとしてきた外交官や各国当局者の間でも、今後どのように対応すべきか戸惑いが広がっている。

  またCBSニュースが13日に公表した最新の世論調査では、トランプ関税が短期的に米国の物価を押し上げ、経済を悪化させると国民の大多数が予想していることが明らかになった。

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不透明感は深まるばかり

  トランプ政権は現在、ベトナム、韓国、日本などとの交渉に焦点を当てている。米政府当局者は、トランプ氏が関税政策によって築いた交渉上の優位性を活かし、米国の輸出拡大や国内投資の促進につながる譲歩を引き出すことにあると説明している。これらの国に対しては、交渉を促進するために上乗せ関税率を一時的に10%に引き下げ、90日間の猶予を設けているが、再び引き上げる可能性も排除されていない。

  しかし、交渉がどれほど進展するかはまだ分からず、トランプ氏が具体的に何を求めているのか、また側近らが「最低ライン」として定めた10%の関税を本当に守るつもりがあるのかも不透明だ。

  トランプ氏の予測不能な言動、そして関税を経済的な武器とする姿勢へのこだわりは、今後の交渉の行方に影を落としている。

  今月2日の関税措置発表を前にラトニック氏やグリアUSTR代表と協議を行った外交関係者らによると、彼ら閣僚自身でさえ「最終的な合意にはトランプ大統領の承認が必要であり、その反応は保証できない」と私的に強調していたという。

原題:Trump’s Tangled Tariffs Sow Confusion as Negotiators Line Up(抜粋)

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