アメリカは「戦争をねつ造している」、ヴェネズエラ大統領が非難 近海への軍艦派遣めぐり
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南米ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は24日、アメリカが「戦争をねつ造している」と非難した。これは、アメリカが麻薬密輸の取り締まりのためだとして、ヴェネズエラ沖のカリブ海に世界最大の軍艦を派遣したことを受けてのもの。アメリカは同海域で、軍備増強を進めている。
ピート・ヘグセス米国防長官は24日、最大90機の航空機を搭載できる米空母「ジェラルド・R・フォード」を地中海から、アメリカ南方軍の管轄内へ移動させるよう命じた。南方軍の管轄地域には、中南米とカリブ海のほとんどが含まれる。
マドゥロ大統領はこれを受け、「(アメリカは)新たな永遠の戦争をねつ造している」とヴェネズエラ国営メディアに語った。「二度と戦争に関与しないと約束しながら、戦争を戦争をねつ造している」。
アメリカは、麻薬密輸業者を標的とした作戦として、軍艦、原子力潜水艦、F-35戦闘機を派遣し、カリブ海での軍事プレゼンスを強化している。
また、麻薬密輸業者が所有するとされる船舶に対して計10回の攻撃を実施している。うち1回は24日に行われ、「ナルコテロリスト(麻薬を密輸・売買するテロリストの意味)の男6人」が殺害されたと、ヘグセス長官は発表した。
この作戦はカリブ海で行われ、標的となった船はヴェネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」のものだったと、ヘグセス氏は述べた。
こうした攻撃に、南米諸国からは非難の声が上がっている。複数の専門家は、攻撃の合法性を疑問視している。
トランプ政権は、麻薬密輸をめぐる戦争を遂行中だと主張している。しかし、専門家や米連邦議員の中から、マドゥロ政権を不安定化させるための威嚇作戦だと非難の声が出ている。
マドゥロ氏とトランプ氏は、長年にわたり対立してきた。トランプ氏はマドゥロ氏が麻薬密輸組織のリーダーだと非難している。マドゥロ氏はこれを否定している。
「これは(ヴェネズエラの)体制転換を狙ったものだ。おそらく侵攻はしないだろうが、シグナルを送ることが目的だろう」と、英ロンドンにある王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のラテンアメリカ専門上級フェロー、クリストファー・サバティーニ博士はBBCに話した。
サバティーニ博士は、ヴェネズエラ周辺でのアメリカの軍備増強には、ヴェネズエラ軍やマドゥロ政権の側近たちに「恐怖を植えつけ」、彼らがマドゥロ大統領に反旗を翻すよう仕向ける意図があるとした。
米国防総省が空母「ジェラルド・R・フォード」をアメリカ南方軍の管轄区域で展開すると24日に発表した際、同省のショーン・パーネル報道官は、追加部隊について、「麻薬の密輸を阻止し、国際犯罪組織(TCO)を弱体化・解体するための既存の能力を強化・補完する」ものだと説明した。
空母の展開は、地上の目標に対する攻撃を開始するためのリソースが提供されることを意味する。トランプ氏は以前から、ヴェネズエラでの「地上作戦」の可能性を繰り返し示唆してきた。
「我々は海を十分に制御できているので、今は陸地を視野に入れている」と、トランプ氏は今週初めに述べていた。
米CNNは、トランプ氏はヴェネズエラ国内のコカイン製造施設や麻薬密輸ルートを標的にすることを検討しているが、最終決定には至っていないと報じている。
最後に公開された位置情報によると、「ジェラルド・R・フォード」は3日前にクロアチア沖のアドリア海を航行していた。
同空母の配備は、カリブ海における米軍の軍備増強が大幅にエスカレートしたことを示している。米政府が長年、麻薬密輸業者をかくまっていると非難してきたヴェネズエラとの緊張を高める可能性もある。
「ジェラルド・R・フォード」には輸送機や偵察機を含む多数の機体が搭載可能。2023年には、初めての長期航海任務に就いた。
今回同行する艦船の詳細は不明だが、ミサイルなどの装備を搭載した駆逐艦を含む打撃群の一員として運用される可能性がある。
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アメリカは数週間にわたり、ヴェネズエラ沖などで「麻薬船」への攻撃を繰り返している。トランプ氏は、麻薬密輸を阻止する取り組みだと説明している。
24日に発表された攻撃は、トランプ政権が麻薬密輸業者に属しているとする船舶への攻撃としては、9月上旬以降で10回目。攻撃の大半は南米沖のカリブ海で実施されているが、10月21日と22日には太平洋でも船を攻撃した。
米議会では民主党と共和党の両議員が、こうした攻撃の合法性や、大統領の命令権限について懸念を表明している。
9月10日には、野党・民主党の上院議員25人がホワイトハウスに書簡を送り、数日前に実施された空爆について、「乗員や船の積み荷がアメリカに脅威を与えるという証拠がない」にもかかわらず攻撃したと非難した。
与党・共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)は、このような攻撃には議会の承認が必要だと主張している。
トランプ氏は、自分には攻撃を命じる法的権限があると主張している。トランプ政権は、「トレン・デ・アラグア」をテロ組織に指定している。
「我々には(攻撃が)許されている。もし地上で行うなら、議会に戻る可能性もあるが」と。トランプ氏は22日、ホワイトハウスで記者団に話した。
マルコ・ルビオ米国務長官は、「麻薬船が爆破されるのを見たくないなら、アメリカに麻薬を運ぶのをやめろ」と述べた。
ヘグセス国防長官が24日に発表した攻撃での死者6人を合わせると、アメリカの船舶攻撃による死者は少なくとも43人に上る。