コラム:危機に瀕する世界秩序、欧州の役目は
[ロンドン 12日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 「国際関係について美辞麗句を並べるのは勝手だが、われわれが生きているのは現実の世界だ。力によって支配され、軍事力によって支配され、権力によって支配される。これは有史以来続いてきた世界の鉄則だ」
スティーブン・ミラー大統領次席補佐官は先週、トランプ米大統領によるベネズエラ軍事作戦とグリーンランド領有化の脅しに関連して、世界正義は「おとぎ話」であるという見解をはっきりと打ち出した。
第二次世界大戦後の世界を支えてきた国際法や国際規範のシステムが、危機にひんしている。既にロシアによるウクライナ侵攻や中国による隣国いじめで揺らいでいたところへ、ほしいままに力を振りかざすトランプ氏の圧力が加わった。トランプ氏は先週、こう言い切った。「私は国際法を必要としていない」と。
しかし、だからといって世界秩序が完全に死んだわけではない。他の国々、特に欧州諸国は、力をつければその一部を救うことができるだろう。米国でさえ、いずれは国際秩序を再び重視するようになるかもしれない。
強大な国家が弱い国家に自分たちの意思を強制するという考え方は古くからある。ギリシャの歴史家トゥキディデスは紀元前5世紀に「力あるものは為し、弱きものは耐える」と書いている。
しかし、古くからあるからといって、その理論が正しいとは限らない。国家はしばしば利己的な行動をとるが、だからといってそれが道徳的な法則や自然法則であるはずはない。
まず第一に、国家はしばしば、無秩序状態が自国にとっても有害であることを踏まえ、他国に力を行使する自由を自ら否定することが賢明な自己利益であると結論づけてきた。さらに国家は時として、自己利益に加え、民主主義、自由、人権、正義を追求するべきだとの考え方を取ってきた。
第二次世界大戦後の国際法、規範、制度は、そうした考え方に基づいて確立された。この時代は恒久的な平和ではなかったが、比較的平穏であったため、多くの人々にとってより良い生活環境が築かれた。
一方で、それは米国の支援に依存していた。世界最大の超大国がこのシステムを放棄した今、無秩序な弱肉強食の世界を回避するのは難しくなるだろう。
<軍事力の増強>
中国は助けにならないだろう。世界第2の強国である中国は、ロシアのウクライナ侵攻を支持している。また、台湾統一を望み、日本を脅し、インドと何度も国境問題で衝突し、南シナ海を支配したがっている。
欧州連合(EU)は、世界秩序の一部を救い得る唯一の主体だ。特に、オーストラリア、ブラジル、カナダ、インド、インドネシア、日本、メキシコ、韓国、トルコ、英国などのいわゆる中堅国を結集させることができれば、よりその可能性は高まる。EUは世界2位の経済圏だ。上記の国々を合わせると、昨年の経済生産は44兆ドルに達し、米国よりも50%以上大きい。
Column chart showing 2024 GDP for US, China, EU and middle powers確かに、トランプ氏の規範破りに対する欧州の反応は鈍かった。ほとんどの欧州首脳はベネズエラ軍事作戦を批判しなかった。また、いくつかの国がグリーンランドの自己決定権を支持する声明を出したものの、そこにはトランプ氏への言及がなかった。グリーンランドは、EU加盟国であるデンマークの一部だ。
欧州がなぜより強硬な対応をとらなかったかは容易に理解できる。トランプ氏のウクライナ支援がどうしても必要なのだ。もしトランプ氏がロシアとの悲惨な取引をウクライナ政府に強要するようなことがあれば、欧州自身の安全保障が脅かされることになる。
欧州の最善の戦略は、ウクライナ戦争をできるだけ早くきちんと終結させ、現在の米国依存状態を解消することだ。皮肉なことに、そのためには米国の力が必要だ。それゆえ、英国が先週ロシアの旗を掲げた石油タンカーを米国がだ捕するのを支援したのは理にかなっている。実際、トランプ氏が力の行使に味をしめた今、欧州は米国がロシアへの圧力を強めてくれることを期待すべきだろう。
欧州はまた、ロシアや中国、米国に指図されないよう、独自の軍事力を構築する必要がある。ドイツのような一部の国はそうし始めているが、実現には何年もかかるだろう。多くの国は、緊急に行動を起こす必要性にまだ気づいていない。
<説得の技術>
それまでの間、トゥキディデスが書いたように、欧州や他の国々は苦しまなければならないだろう。しかし、それでも無力ではない。
まず手始めに、共通の関心事を前進させるための協定を結ぶことができる。9日に暫定合意されたEUと南米南部共同市場(メルコスル)との貿易協定は、その好例である。
トランプ大統領は先週、法の支配や気候変動、貿易などの問題を扱う多くの国際組織から米国を脱退させる決定をしたが、EUと中堅国が協力してその空白を埋める好機ともなり得る。気候変動対策などいくつかの問題では、中国と共通の大義を持つことさえできるかもしれない。
A chart showing the approval ratings of Donald Trump over time, based on Reuters/Ipsos polls.さらに、トランプ氏は独裁者ではないし、米国の外交政策は変更不可能ではない。一部の共和党議員は、グリーンランドを侵攻するようなことがあれば北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させ、ロシアと中国の思うつぼになり、米国の弱体化につながりかねないと懸念している。ルビオ米国務長官でさえ、軍事力を使わずにグリーンランドを手に入れた方が望ましいと述べている。
ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください
Hugo Dixon is Commentator-at-Large for Reuters. He was the founding chair and editor-in-chief of Breakingviews. Before he set up Breakingviews, he was editor of the Financial Times’ Lex Column. After Thomson Reuters acquired Breakingviews, Hugo founded InFacts, a journalistic enterprise making the fact-based case against Brexit. He was also one of the founders of the People’s Vote which campaigned for a new referendum on whether Britain should leave the EU. He was one of the initiators of the G7’s “partnership for global growth and infrastructure”, a $600 billion plan to help the Global South accelerate its transition to net zero. He is now advocating a $300 billion “reparation loan” for Ukraine, under which Moscow’s assets would be lent to Kyiv and Russia would only get them back if it paid war damages. He is also a philosopher, with a research focus on meaningful lives.