100キロ先の補給路を断つ──ウクライナ「ドローン兵站封鎖」が戦局を変える(ニューズウィーク日本版)

ウクライナ軍のドローンから送信される映像に、ロシア軍の車両が映し出される。次の瞬間、映像がぷつんと消える。ドローンが車両に突っ込んだのだ。ウクライナが戦争の新たな局面を切り開くなか、ウクライナのSNSではこうした動画が拡散している。 【動画】ウクライナのドローン迎撃部隊が再び出動 ロシアの補給路を断つ大規模作戦の一環としてウクライナ軍のドローンは前線を越え、ロシアの支配地域の160キロほど奥まで到達した。ドローン攻撃に後押しされ、国内ではウクライナがようやく優位に立ちつつあるとの期待も高まっている。 「1年前から状況は改善した。大きな変化が中距離ドローン攻撃の成功だ」と、米シンクタンク外国政策研究所(FPRI)のロブ・リー上級研究員は言う。 昨年のウクライナ軍は苦戦していた。補給路を何度も攻撃され、深刻な人員不足に苦しんだ。 それが今ではドローン作戦の成功に加えてロシア軍の甚大な人的被害とロシアで高まる不満が追い風となり、ウクライナは自国に有利な形で戦闘を終結できると感じているようだ。6月29日にはキリーロ・ブダノフ大統領府長官が、冬までに和平を実現できるかもしれないと述べた。 ドローン攻撃を回避するには、兵員や食料や弾薬を補給する際に資金や時間のかかる安全対策を講じるか、被害の拡大を覚悟するしかない。「代償がさらに大きくなるとあって、ロシアは今までほど簡単には前進できなくなる」と、リーは説明する。 一方、ウクライナはドローン作戦を強化している。前線から20キロ以上後方にいる敵を狙った攻撃は2月以降4倍に増えたとウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月に述べ、ドローン攻撃を「優先事項」とした。 ロシアによる侵攻を食い止める上で重要な役割 ミハイロ・フェドロフ国防相(当時)は5月27日に「われわれはロシア軍に対して『兵站封鎖』を開始する」と、SNSに投稿。ロシアの占領地域の幹線道路で攻撃が発生していると、ロシア軍はメッセージアプリのテレグラムで注意を喚起した。 6月末、フェドロフは攻撃にいっそう拍車をかけようと、成果を上げた部隊にドローンの追加購入資金を支給することを発表した。これは優秀な部隊に軍需品を多く分配する「eポイント制度」の延長だ。 米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のカテリーナ・ボンダル上級研究員は報奨制度を評価しつつも、部隊が軍事目標を二の次にしてポイント稼ぎに走る可能性を警告する。「中距離攻撃の戦略的価値は個々の車両の破壊ではなく、補給網全体の弱体化にある」と、指摘する。 「ポイントを付与するやり方では、軍事的価値は高いが確認が難しい目標より、攻撃も確認も簡単な目標が優先されてしまう」 成果を上げる兵器は、以前もあった。例えば射程約64キロ、弾頭重量約90キロのアメリカ製誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)は、2022年のロシアによる侵攻を食い止める上で重要な役割を果たした。 だがミサイル1基が16万8000ドルと高価で、ロシア軍の電波妨害に弱く、米国製のため米政府の軍事支援政策に左右されやすい面があった。 現在、中距離ドローン攻撃の主力の1つとなっているのが、元グーグルCEOのエリック・シュミットが設立したペレニアル・オートノミー社の「ホーネット」だ。シュミットは開戦後の早い時期から、ウクライナの防衛産業に投資してきた。 ロシアに対抗手段がないわけではない ホーネットに搭載できる爆薬は約4.5キロと少ないが、補給物資を積んだ軍用車両を破壊するには十分で、航続距離は約100キロに達する。電波妨害をかわすため、標的の捕捉にはスターリンクの衛星通信とAIを組み合わせて使う。 25年にペレニアル・オートノミーは「数十万機のドローン」を生産する契約をウクライナと結んだ。1機6000ドルのホーネットは資金難に苦しむウクライナにとって、費用対効果の高い兵器だ。 司令部や弾薬庫といった大きな標的には、200キロの爆薬を積み320キロ以上離れた標的を攻撃できるファイアポイント社の「FP-2」などを使用する。ウクライナの新興企業ファイアポイントは、FP-2とその原型で長距離型の「FP-1」を1日に200機生産している。FP-2の価格は1機5万ドルだ。 ロシアに対抗手段がないわけではない。米シンクタンク戦争研究所(ISW)のカテリーナ・ステパネンコによれば、ウクライナは標的の特定にアメリカの高度な情報収集能力を頼っている。この弱みを、ロシアが突いてくるかもしれない。 「ロシア政府はアメリカに、『軍事情報の提供をやめるなら交渉に応じる用意がある』と持ちかけるだろう」と、ステパネンコは言う。実際アメリカは25年3月に軍事情報の提供を一時打ち切ったが、これはウクライナに圧力をかけるのが目的だったと思われる。 防衛力の強化も可能だが、一筋縄ではいかないだろう。ウクライナは現在、ロシアが多用するドローン「シャヘド(ロシア名ゲラニ)」を高確率で撃墜している。複雑な追跡システムを構築し、半自律型迎撃ドローンを開発し、さらには機関銃でドローンを撃ち落とす専門部隊を約1100キロの前線全域に配備したのだ。 「ロシアがウクライナのドローンに対して防衛体制を確立するには、最低でも1年はかかるだろう」と、ステパネンコは予想する。 サム・スコーブ (フォーリン・ポリシー誌記者) From Foreign Policy Magazine

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