オーバーツーリズム対策岐路 京都では「市民優先価格」導入検討も高いハードル

外国人観光客らで賑わう京都市の八坂神社付近。オーバーツーリズム対策が課題となっている=同市東山区(渡辺大樹撮影)

昨年訪日外国人客(インバウンド)が3686万人に達し過去最多を更新する中、観光地はオーバーツーリズム(観光公害)対策を迫られている。宿泊税の導入に踏み切る自治体も拡大する中、京都市では市民と観光客らで市バスなどの運賃に差をつける「市民優先価格」の導入を検討。ただ、法的問題も含め課題は山積する。インバウンドらと地元住民で価格を別設定とする「二重価格」を導入する民間企業もあるが、自治体では公平性の観点から広がっておらず、「対策は岐路に立っている」と指摘する声もある。

「市民優先」は可能か

2025年大阪・関西万博が開催中の大阪市をはじめ、大型連休が始まり、多くの人でにぎわう関西の都市圏。中でもインバウンドに人気の京都では観光振興と市民生活の両立が急務となっている。京都市観光協会の調査によると、市内の主要ホテルの宿泊者数に占める外国人の割合は令和6年4月に初めて7割を超え、その後も5~6割台と高止まりの状態だ。

こうした中、京都市の松井孝治市長は2月議会で「観光が市民生活の豊かさにつながることを実感していただきたい」と述べ、令和9年度中に市バスや地下鉄で市民以外の運賃を市民より高く設定する「市民優先価格」の実現を目指す考えを示した。市バスを巡っては「観光客が多くて地元住民が乗れない」といった不満が寄せられていた。 実現すれば全国初となるが、ハードルは高い。

道路運送法は特定の旅客へ運賃による不当な差別的扱いを禁じている。住所などで差をつけることは「差別的」と判断される可能性がある。仮に制度が改正となり、国に認められても市民をどう識別するのかも課題だ。

市はマイナンバーカードとひも付けた交通系ICカードなどを使う利用者に、市民運賃を適用する方法を想定するが、カードを持たない市民にどう対応するのか検討が必要だ。さらに民間バス事業者との料金体系の整合性も問われる。

オーバーツーリズム問題に詳しい城西国際大の佐滝剛弘教授(観光学)は「市外から業務で利用する人はどうなるのか。住所地で見分けることは現実的に難しいのではないか」と話す。

政府はビジョンを

令和6年のインバウンドは過去最多を更新したほか、インバウンドの旅行消費額も8兆1257億円と過去最高を更新した。政府は2030年にインバウンドを6千万人とする目標達成を掲げるが佐滝氏は「観光地の現場ではひずみが生じている」と話す。

京都市ではホテルや旅館などの宿泊者に課す宿泊税の上限額を、来年3月から1泊1万円に引き上げる方針。導入している自治体の中では最高額だ。佐滝氏は一部の民間施設で導入されている「二重価格」や宿泊税について「外貨獲得が目的で、オーバーツーリズム対策とは別次元の話。大勢の外国人にきてもらう政策と矛盾しているのでは」。その上で「オーバーツーリズム対策に特効薬はなく、岐路に立っているといえる。国は地域経済と住民生活への影響を詳細に検証、議論をし、目標人数の再検討も含めて対策の方向性につながるビジョンを示すべきだ」と話した。

観光客の増加はマナー問題にも発展している。看板を掲げたり、柵を設置したりといった自衛策をとる観光地も多い。

北海道小樽市では、映画のロケ地巡礼を行う外国人観光客による私有地通過などのマナー違反が深刻化。1月にはJR線路内で撮影していた中国人女性が列車にはねられ死亡する事故も起きた。このため、より分かりやすく注意を促そうと2月、関係者がピクトグラム(絵文字)の看板を掲げた。ピクトグラムは昨年11月、観光庁が作成。「私有地への立ち入り禁止」など14種類の「禁止事項」と8種類の「推奨する行動」を「観光ピクトグラム」として図式化した。

私有地への立ち入り禁止を呼び掛けるピクトグラム

ただ、落ち着いた風情ある町並みに看板が乱立すると景観を損なう恐れもある。観光庁は、今後地域での活用事例を踏まえ、アップデートする方針だ。

早朝観光を推奨するピクトグラム

京都では由緒ある寺で警察沙汰となる事件も起こった。京都市右京区にある愛宕(おたぎ)念仏寺では、休山日だった4月2日、中国籍の観光客の男性(28)ら2人が石垣をよじ登り、塀を乗り越えて境内に侵入。1人は逃げたが、駆け付けた警察官が男性を逮捕した(4月11日付で不起訴処分)。

寺によると、同様の不法侵入事案はこれまでにも多発。境内は人気アニメにも登場することから、聖地を一目見たいと考える一部観光客が悪質行為を働いていたとみられる。寺は通り抜けされやすい場所に木を植えるといった対策や、寺の建物の形状に合わせて柵を設置するなどの対策を進めるという。

住職怒り「定休日なのに…」京都の古刹で起きた中国人侵入事件

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