コラム:中国AIのディープシーク、揺るがすのは「米国の例外主義」か

 1月27日、中国のスタートアップ企業、ディープシーク(深度求索)が低コストの生成人工知能(AI)モデルを開発したことの影響が、米国の金融市場に破壊的な打撃を与えるかどうかまでの判断はまだ下っていない。写真はディープシークのロゴとグラフのイメージ。同日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[オーランド(米フロリダ州)27日 ロイター] - 中国のスタートアップ企業、ディープシーク(深度求索)が低コストの生成人工知能(AI)モデルを開発したことの影響が、米国の金融市場に破壊的な打撃を与えるかどうかまでの判断はまだ下っていない。しかし、米市場に前代未聞の規模で資金とリスクを呼び込んできた「米国の例外主義」に疑問を投げかけていることは確かだ。

米西部カリフォルニア州のシリコンバレーが世界的なAI拡大競争の揺るぎない先駆者であるという思い込みは、米市場が世界中から数兆ドルもの資金を吸い上げてきた重要な理由だ。この傾向は米国の例外主義、すなわち米国の経済成長と米金融市場のリターンが継続的にアウトパフォームするという根強い期待感を裏打ちしてきた。

しかし、先月までAI界以外では名前すらほとんど聞いたことがなかった中国の新興企業のせいで、このような神話が崩れ始めているのかもしれない。わずかな予算で運営されてきたディープシークは、AIの技術開発に数千億ドルを費やしてきた米巨大企業と同等か、上回る成果を上げているようだ。

米マイクロソフト(MSFT.O), opens new tabのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は先週、米CNBCテレビに対して「ディープシークの新たなモデルは極めて印象的だ」とし、「私は中国での開発を非常に、非常に真剣に受け止めるべきだと思う」と語った。

米株式市場全体、ひいては世界市場の命運が、一握りの企業と実質的に1つのAI物語に左右されているとなれば、投資家は特に関心を持つべきだろう。

巨大IT企業が米株式市場に及ぼす影響力には目を見張るものがある。数字を見てみよう。

27日に急落する前、過去2年間に米エヌビディア(NVDA.O), opens new tab、マイクロソフト、アルファベット(GOOGL.O), opens new tab、アマゾン・ドット・コム(AMZN.O), opens new tab、メタ・プラットフォームズ(META.O), opens new tabの5銘柄だけでS&P500種株価指数(.SPX), opens new tabを約700ポイント押し上げていた。ソシエテ・ジェネラルのマニッシュ・カブラ氏によると、これらの銘柄を除くとS&P500種は12%下落していた。27日までの2年間のS&P500種上昇分を見ると、エヌビディアだけで4%ポイント貢献している。

ドイツ銀行のジム・リード氏によると、エヌビディアの直近四半期までの年間売上高は約630億ドルで、これは英国、ドイツ、フランス各上場企業の昨年1年間の売上高合計の約半分にあたる。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストによると、エヌビディア、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタにアップル(AAPL.O), opens new tab、テスラ(TSLA.O), opens new tabを加えた7社のいわゆる「マグニフィセント・セブン」(マグ7)はS&P500種の過去2年間の上昇のうち60%弱を占めている。

つまり「マグ7」は「S&P500種の米国例外主義のプレミアム」であると、カブラ氏は27日に記した。

<頂点の独占>

米金融市場がこれほどわずかな銘柄に翻弄されたことはなく、「マグ7」は今やS&P500種全体の時価総額の35%超を占めている。一方、世界の株式投資のうち、米国市場は過去最高となる3分の2を占めている。

これには資金流入の好循環によるところもある。「マグ7」銘柄の株価急騰に伴い、米国が世界の株式時価総額に占める割合がますます大きくなっている。すなわちパッシブ・ポートフォリオを保有する投資家は米国株へのエクスポージャーを増やし続けなければならず、株価上昇に拍車がかかり、さらなる購入が必要となる。

一方、アリゾナ州立大のヘンドリック・ベッセンビンダー教授(金融学)が2023年の調査「株主の富の向上、1926年から2022年まで」で指摘しているように、資産の集中は以前から進んでいる。ベッセンビンダー氏は1926年から2022年までに上場した米企業2万8114社のうち、わずか3%がその間に創出された株主の富、55兆ドルのほぼ全てを生み出していたことを突き止めた。

アップルだけで全体の5%弱を占め、アップル、マイクロソフト、エクソンモービルの上位3社で全体の10%超だった。

このような富の集中は近年ますます加速している。2016年に株主の富の10%を生み出していたのは7社で、22年には4社に減った。

BofAのアナリストが示唆したように、これは「頂点の独占」といえるのかも知れない。そして歴史は、破壊的な技術の誕生もあって独占が永遠に続くことはないことを示している。

実際、技術革新が加速するにつれてS&P500種企業の平均寿命は縮まっている。マッキンゼーの調査によると、1958年のS&P500種企業の平均寿命は61年だった。それが2023年には18年未満となっている。

破壊的テクノロジーは常に米国の経済と市場をけん引してきたが、今日ほどではなかった。BofAのアナリストは「破壊は常に勝利をもたらす」と主張する。

ただ、突然浮上したディープシークが本当に破壊的だと証明された場合、勝者と敗者がそれぞれ誰になるかはまだ分からない。しかし、27日の市場の動揺が何らかの指針になるのであれば、敗者はかなり多く、しかもそれは巨大企業かもしれない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets - especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie

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