実は性病? 多くの女性が悩む細菌性膣症に「男性関与の証拠」
膣壁に付着する細菌を走査型電子顕微鏡で撮影。善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れると、「細菌性膣症(BV)」などの症状が現れることがある。BVが性感染症である可能性を強く示唆する研究結果が発表された。(MICROGRAPH BY STEVE GSCHMEISSNER, SCIENCE PHOTO LIBRARY)
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おりものが増えたり、魚が腐ったようなにおい(アミン臭)がしたりする細菌性膣症(細菌性膣炎、BVとも)は、何十年もの間、膣内細菌叢(そう)の乱れによる厄介だがよくある感染症として扱われてきた。だが、BVは実は性感染症(性病)である可能性を強く示唆する画期的な研究結果が3月5日付けで医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表された。再発防止の鍵は、患者の女性とともに、パートナーの男性も治療することかもしれない。
成功しなかった男性への治療
BVは、膣内細菌の悪条件が重なったときに発症し、一般的な「性感染症(STI)」と異なり病原菌を特定できない(編注:日本性感染症学会は「性感染症関連疾患」としている)。医学誌「Sexually Transmitted Diseases」に2019年に発表された論文では、23~29%と地域によらず世界的に高い有病率が報告されている。また、2021年に医学誌「American Journal of Obstetrics & Gynecology」が掲載した論文によると、患者の58%が1年以内に再発したという。(参考記事:「性感染症が急増し新規の半数は15~24歳、梅毒の拡大も顕著、米国」)
しかし、こうしたしつこい再発の理由が、膣内細菌叢(そう)の乱れだけではないとしたらどうだろう?
「臨床研究における……主要なリスク要因の一つは……いつものパートナーでした」と論文の最終著者であるオーストラリア、モナシュ大学メルボルンセクシャルヘルスセンターの臨床医カトリオーナ・ブラッドショー氏は話す。「(再発患者が)次々とやって来るため、『パートナーの臨床試験をするしかない』という結論に達しました」
これらの細菌がSTIを引き起こす可能性は、長年疑われてはきた。
「性的パートナーが増えるとBVのリスクが高まる、コンドームなしの性交渉はBVのリスクを高めるなど、BVがSTIかもしれないという疑いは以前から存在しました」と米ワシントン大学の臨床医で、微生物学を専門とするデイビッド・フレドリクス氏は話す。
「この仮説は何十年も前からありますが、BVに関連する細菌を根絶するため、男性のパートナーを治療した限定的な研究は、いずれも成功を収めていません」
「女性の間で感染することは明らか」だった
実際、BVは長年にわたり、女性の同性愛者の間ではSTIとして扱われてきた。「1980年代から研究が行われており、モノガミー(1対1)のレズビアンカップルは、驚くほど高いBVの一致率を示していました」とブラッドショー氏は説明する。「具体的には80%です」
ブラッドショー氏が携わったある研究では、オーストラリアの一般的な集団と比べて、レズビアンカップルはBVの罹患率が約20%高かった。また、研究の開始時点でBVに罹患していなかったレズビアンカップルは、研究が終わるまでBVを発症しなかった。
「女性の間で感染することは明らかです。では、なぜ男女間では感染しないのでしょう?」とブラッドショー氏は問い掛ける。