米関税の不確実性、企業投資に暗い影-ラトニック氏のシナリオに誤算

トランプ米大統領による世界的な関税措置を巡る最新の司法判断は、米国の輸入業者に不確実性をもたらしている。ラトニック商務長官が予測していた関税による経済的効果の実現も遅れる見通しだ。

  米連邦高裁は8月29日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動された関税は違法だと判断した。多数意見では、IEEPAを根拠とする関税措置が違法であるとした国際貿易裁判所の5月の判断を支持。ただ、訴訟が進む間も関税の効力は維持されることになり、コスト見通しが明確になるまで企業の投資判断が停滞する恐れがある。

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  キャピタル・エコノミクスのチーフグローバルエコノミスト、ジェニファー・マキューン氏は9月1日、ブルームバーグTVとのインタビューで「関税は少なくとも10月中旬までは維持される。その後、トランプ氏は最高裁に持ち込む公算が大きい」と指摘。「実際にどうなるかが分かるまで、非常に長い時間がかかる可能性がある」と述べた。

  こうした時間的な遅れは成長の逆風となるだけでなく、通商交渉で実質よりもスピードを優先してきたトランプ氏にとって政治的逆風ともなり得る。同氏は交渉で引き出す対米投資が国内製造業の復活につながると約束してきたが、その実現には影が差している。

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  INGのマクロ部門グローバル責任者、カーステン・ブルゼスキ氏は「米国と取引する企業にとって、今は構造的な経営判断を下せないことを意味する」と述べた。

  全米小売業協会(NRF)のジョナサン・ゴールド副会長は、連邦高裁の判断が示された後に出した声明で「継続する不確実性は経済成長を脅かし、最終的には米国の消費者が財やサービスの価格上昇という形で負担を強いられる可能性がある」との見解を示した。

トランプ経済に影

  ラトニック氏は3月、トランプ氏の通商政策が投資につながり、夏頃から建設活動を後押しすると予測。「第3四半期からトランプ効果を感じ始め、第4四半期にはトランプ経済の力を実感するだろう」とブルームバーグTVで語っていた。

  しかし米経済は、約半年前にラトニック氏が描いた力強さをいまだ示していない。

  米供給管理協会(ISM)が2日に発表する製造業総合景況指数は、6カ月連続で活動縮小を示すと見込まれている。5日発表の8月雇用統計では、失業率がほぼ4年ぶりの高水準に上昇すると予想されている。

  IMDビジネススクールで地政学と戦略を教えるサイモン・イブネット教授は、一部企業は米国内での生産拡大を決めているとしたうえで、様子見姿勢の企業では投資承認の時期が「2026年第3四半期までずれ込む可能性が高い」と述べた。

  米経済が来年にかけて低迷を続ければ、保護主義が機能しているとの共和党の主張は揺らぎ、2026年11月の中間選挙での党勢にも打撃となる可能性がある。

原題:US Tariff Uncertainty Delays Economic ‘Power’ Lutnick Predicted(抜粋)

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