羽生結弦は手を伸ばす プロ4年目「つづきのつづき」へ 特別インタビュー最終回
プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(30)が、7月19日にプロ転向から3年を迎えた。3周年を記念した特別インタビューの最終回で、4年目への抱負を「“つづき”の“つづき”」と色紙に手書きで込めた。自ら企画、台本、出演、制作総指揮を務める「アイスストーリー」についても意欲を示し「作り続けていくことはしたい」と語った。挑み続ける表現者は、さらなる高みへ、手を伸ばし続ける。(取材・構成=高木 恵)
誕生日だった昨年12月7日。「Echoes of Life」初演後、羽生さんが述べた30代の抱負は、アスリートらしさに満ちていた。「自分の未来に希望を持って、絶対にチャンスをつかむんだっていう気持ちを常に持ちながら、練習もトレーニングも本番も臨みたい」。今の羽生さんにとってのチャンスとは。
「なんだろう…日々のなかでの希望かな。以前のインタビューの際に『並行世界(パラレルワールド)のことを考えたりするんですか』みたいな話をしたことがあるんです。その時に『スケートを選ばなかったらこうはならなかったよね』という話をしていたんです。スケートを選んだということ自体が、チャンスに手を伸ばし続けて、チャンスが来た時に、ちゃんとそれをパッてつかめたから、今、この自分になっていると思うんです。それって多分、スケートを選んだ後もここまでずっと、そうやって手を伸ばしていて、私はこうなりたい、って思っていて。そして、私はこうなれるという瞬間に、ちゃんとそれ相応の準備をしていたから、こうしていろんなものをつかんでこられたんだな、と思っているんですね」
羽生さんはこれまでも何度も「未来は本当に分からない」と口にしてきた。だからこそ、懸命に、大切に、全力の今を生きている。
「真っ暗なところに手を伸ばしているだけかもしれないです。自分の理想図っていうものも日々どんどん変わっていきます。達成できるできないではなくて、どんなものを描いていくかっていうところに今立っているからこそ余計に、手を伸ばすだけじゃ意味がないかもしれない。けど、ふと手を伸ばしていた先に何かが、自分の理想みたいなものが手に触れた瞬間に、ちゃんとつかめるようにしていきたい。元々がアスリートとしてこうやって何かをつかむという作業をずっとしていたからこその、この羽生結弦という思考の塊みたいなものになっているんだろうなとは思います」
寄り添うように、光を灯(とも)すように、全身全霊で舞う姿は希望そのもの。周囲に与え続ける日々を過ごしているようにも見えるが、本人の意識は違う。
「むしろ、もらっている瞬間の方が多いです。もちろんファンの方々からの声援だったり、コメントだったり、いろんなところで見る感想だったりとか。すごくうれしいですし、そこにエネルギーをたくさん感じるし、やっぱりそのためにやっているなっていうのはすごく思います。あとは、ミセス(グリーンアップル)のみなさんであったり、米津(玄師)さんだったり、バンプ(オブチキン)だったり、好きなアーティストからいろんなエネルギーをもらっています。そうやっていろんな歌であったり、芸術であったり、いろんな人たちの思いみたいなものがこの世の中にはたくさんあふれている。それをもらっているから、僕はそのもらったものを、ちょっとでも、魂を絞って雫(しずく)にして出しているぐらいな感じです。なので逆に、もらっている時間の方が大きいと思います」
日常生活で感情が動いた瞬間をたずねた。最近涙を流したのは、アニメーション映画「竜とそばかすの姫」(細田守監督)を見ながらだった。
「細田守さんの映画が好きで、けっこう見ているんです。映画を今、創作材料にしようとしていろいろ見ています。映画を見たり、『薬屋のひとりごと』を見たり。アニメを見ながら一喜一憂しています。日常的には、そういうので普通に泣いちゃったりしています(笑)」
創作意欲をかき立てながら、日々を過ごしているようだ。アイスストーリーを「作り続けていくことはしたいなと思う」と言った。“つづき”の“つづき”へ―。羽生結弦の理想を追い、手を伸ばし、つかみ取る。
「やっと自分がこれだけいろんなことを知らなかったんだなということを知れたし、やっとアイスストーリーというものも形ができあがってきました。『RE_PRAY』をやって『エコーズ』をやって、やっとアイスストーリーってこういうふうに作っていくんだ、こういうふうな流れの中で極めていくことがいいのかな、みたいなものが、(作っている)みんなの中で手応えがあって。そう考えると、やっと地盤ができた位置に今います。それをあとは、どれだけ体にちゃんと落とし込んで、ただ考えているだけじゃなくて、ただ知識としてあるだけじゃなくて、もっと表現の方につなげられるように。体の中から細胞一つ一つまでそれが浸透しきれるようなぐらい、精度を上げたいなと思います」
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