【大河ドラマ べらぼう】平賀源内役・安田顕さんインタビュー「源内は田沼様が大好き」「湯気がたつ白湯で救われたと思います」「惜しい人だからこそ今も愛され語り継がれている」
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で平賀源内を演じる安田顕さんにインタビューしました。第16回で不審な事件が起こり、暗く寒い牢屋の中で生涯を閉じた源内。最期のとき、彼はどんな気持ちだったのでしょうか。安田さんは、「湯気がたつ白湯で源内は救われたと思います」と語ってくれました。
源内を最後まで肯定し続けながら演じた
――源内は、後半に向けて様子がおかしくなっていきました。どんな気持ちで演じられていましたか。
安田さん:前半では「自由に生きる」と明るく話していた源内ですが、次第に疑心暗鬼になり、立身出世できなかった自分への悔いが残るようになりました。人を殺したとして牢屋に入れられ、史実でも源内は幸せな最期とはいえなかったかもしれません。でも、僕は源内と向き合い、「あなたの功績は発明だけじゃない。ふつうの人にはできない考え方、生き方をして、それは今でも受け継がれ愛されていますよ」と彼に話しかけ、最後まで肯定し続けながら演じさせていただきました。
――第16回で、源内にいろいろなことが起こりました。特に印象的に残るシーンはありますか?
安田さん:白湯の場面です。牢屋に閉じこめられ、そこで雪がパラパラと振り、その雪を見ながら結果的に辞世の句となってしまう歌を詠む。孤独と寒さの中、ふと見ると、湯気のたつ白湯が置かれていた。その温かそうな湯気が心にしみて、源内はきっと救われたのだと思います。ただし、その白湯の中に何か入っていたのか、いなかったのか。そこが森下さんの物語のすごいところです。森下さんと演出の大原さんが描く「べらぼう」には陰影があります。
――最期のとき、源内の心に悔いはなくなっていたと思いますか?
安田さん:白湯のシーンの前に、牢屋を訪れた田沼意次(渡辺謙さん)と話して泣く場面がありました。そこで何かしらの救いが源内自身にあったのではないかと思いますし、そう思わなければやってられない。きっと視聴者のみなさんも同じように捉えてくれるのではないかなと思います。田沼との和解で源内の心は一度落ち着き、さらに最後、温かそうな湯気がたつ白湯で救われたと僕は思っています。
謙さんが大好き、源内も田沼様が大好き
――渡辺謙さんと共演されていかがでしたか。
安田さん:源内役として、田沼役の謙さんとお芝居させていただき、すごくうれしかったですし、ありがたい経験でした。謙さんは、さりげなくアドバイスもしてくださるのです。例えば牢屋のシーンで、僕はずっと地べたに座ったままセッティングが終わるのを待っていました。でも、寒い場所でしたから、謙さんが気を遣って「ずっと座っていなくてもいいよ。張り詰めていたら本番のとき集中力が切れることもあるから調整しよう」と声をかけてくださったのです。周りに気を配りながら、芝居のときはセッションを楽しんでくださるステキな方です。
――田沼と源内の関係はどのように感じていますか。
安田さん:僕も謙さんが大好きですが、源内も田沼様が大好きだったと思います。田沼と源内にはブロマンス(男同士の親密な友情)的なつながりがあったと感じています。そんな間柄でしたから、最後、謙さんとのシーンで僕がクランクアップを迎えたとき、握手しながら「これで終わらせないぞ。森下さんに言って、もう一回出してもらうようにしよう」と謙さんが言ってくださったのです。うれしかったですね。渡辺謙さんがそんな言葉をかけてくださるのですから。
横浜さんは「漢」
――源内は、横浜流星さん演じる蔦重(蔦屋重三郎)にも大きな影響を与えました。横浜さんとはどんな思い出がありますか?
安田さん:僕は格闘技が好きなので、いつも二人でボクシングの話をしていました。彼は共演者に合わせて空気を作り、コミュニケーションしてくださる方です。まっすぐでまじめで、やんちゃな面もあって、「漢(おとこ)」そのものです。第11回で、エレキテルの実験中に蔦重の頭を叩いて火を出そうとするシーンがありました。ト書きでは「一発」だったのですが、子どものころ見たドリフターズの志村けんさんを思い出し、つい四発も叩いてしまいました(笑)。横浜さんは「全然大丈夫です!」と楽しんで応じてくれて、一緒にいられる時間が本当に楽しかったですね。
惜しかったからこそ語り継がれている
――源内の人生を振り返ると、何かひとつに絞ったほうがよかったのかなとも思います。
安田さん:わかります。一つひとつが惜しいのです。ただ、惜しかったからこそ、今も源内を大好きな人がたくさんいるのだと思います。別番組のロケで彼の故郷・高松を訪れたときも、源内は地元のヒーローで語り継がれていました。また、杉田玄白は源内の死を悼み、「非常の人」と書き残しています。常に常識でないことを好み、常識でない亡くなり方をした非常の人だった、と。興味や好奇心があり、目移りして飽きっぽい人だからこそ、いろいろな発明や発想ができたのだと思います。
――今回の源内役で難しかったことや新たな挑戦はありましたか?
安田さん:セリフを早口で話すのは大変でしたが、演出家の大原さんやスタッフのみなさんとクセのある源内像を作っていくのは楽しかったです。また、挑戦というよりは、今まで時代劇などのドラマや映画、舞台など多くの作品で培ってきた経験を、ちょうどよい塩梅で源内として出せたのかなと思います。そんな僕の源内を視聴者の方も楽しんで受け入れてくださったのもうれしいです。
――改めて、源内を演じていかがでしたか?
安田さん:楽しかったです。「べらぼう」で描かれている源内さんは、人間味があります。山師になったり戯作を書いたりエレキテルにも携わった。蔦重や田沼様とも会い、下町とお城の橋渡しもできました。特にうれしかったのは、現場で多くの作品を担当されているメイクの山田さんが、「安田さんの源内さんは人間臭くてよかった」と言ってくださったことです。また、別番組などのロケで各地に行くと、みなさんが「源内さん」と声をかけてくれて、大河ドラマには大きな影響力があると実感しました。本当に多くの方々が楽しみにしてくれている作品で、取材を受けることも多く、夢かうつつかと思うような幸せな時間でした。
安田顕(やすだ けん)さん 1973年生まれ、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。映画『愛しのアイリーン』『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています』『私はいったい、何と闘っているのか』などで主演。ドラマ『下町ロケット』シリーズ『アリバイ崩し承ります』、連続テレビ小説『瞳』『なつぞら』、大河ドラマ『功名が辻』、舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~』『死の笛』など数多くの話題作に出演。
(ライター・田代わこ) <あわせて読みたい>
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