2025年「通信と金融」再編の鍵は銀行だ。ドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天それぞれの課題

その反面、金融事業の再編のまっただ中なのがKDDIだ。

auじぶん銀行が三菱UFJ銀行の手を離れて100%子会社化。逆にauカブコム証券が三菱UFJ銀行の100%子会社になって傘下から外れる。

社名も「三菱UFJ eスマート証券」となってauカブコム証券は消滅する。

MUFGとKDDIの協業は継続するとして「KDDI – MUFG 協働のNext Step(協業2.0)」と表現。

出典:KDDI

現状では、「auカブコム証券とは引き続き親密な協業先として協働」するというのがauフィナンシャルホールディングスの考えで、「auマネ活プラン+」や「auマネーコネクト」などのサービスは継続していく。

政府によるNISAの推進や資産形成への関心の高まりもあって、au経済圏において資産運用が重視される傾向が強まっているとauフィナンシャルホールディングスは言う。ただ、auカブコム証券は新NISAによる勢いに乗り切れず、au経済圏の囲い込みが伸び悩んでいた。

そうした中でカブコム証券を手放すことがどういった意味を持つのか。三菱UFJ eスマート証券との関係が従来と変わらず、分裂したことでメリットにつながるのか ── 他の証券会社との連携を模索するのか、現時点で戦略は不明だ。

同様に、auじぶん銀行が三菱UFJ銀行と離れることで、銀行業の取り組みが変わることになりそうだ。

auじぶん銀行は、新興のネット銀行ながら三菱UFJ銀行色が濃く、サービス展開の速度などに不満を感じるという声は少なくなかった。

auじぶん銀行が単独になって、よりスマホ銀行としての強化を図るとタイムリーな新サービスを展開できそうだ。

クレカ積立でポイント還元率をアップするなど連携を強化。

出典:KDDI

また、こうした再編に加え、遅きに失した感もあるが、金融連携プランも刷新した。

2023年9月から「auマネ活プラン」で先行していたKDDIだが、自社カードと自社銀行での利用で割り引く程度だった。

そこで2024年11月に「auマネ活プラン+」として金融連携を強化。モバイルと金融との連携をさらに推進していく。auじぶん銀行の円普通預金金利のアップやauカブコム証券のクレジットカード積立でのポイント還元率がアップする。

こうした金融連携プランと金融事業の再編をどのように進めていくかが、2025年の課題だろう。

【ソフトバンク】PayPayの強化が継続、LINE統合が課題

ソフトバンクでは、好調のコード決済PayPayを中心とした金融連携を強化。LINEとヤフーの統合による重複事業も多いが、LINE Payは2025年4月30日で終了してPayPayに一本化される。

LINE Payは終了し、決済サービスはPayPayに一本化。

出典:LINE

スマホローンのLINEポケットマネーや、暗号資産のLINE BITMAXはサービスを継続。LINEポイントも同様に継続するため、複数のブランド、サービスが継続する状態は変わらない。

とはいえ、すでにPayPay銀行、PayPay証券、PayPayカードと商号を統一し、PayPayアプリからアクセスする導線を構築しており、2024年も順次強化された。

まずは2024年1月のPayPayアプリにおけるNISA口座の取り扱いの開始。2月にはすでに本人確認をしたPayPayアプリの情報と連携することで、PayPay銀行とPayPay証券の口座開設が簡単に行えるようになった。

PayPayアプリから資産運用が可能に。

出典:PayPay証券

同4月にはPayPay資産運用においてPayPay銀行口座からの買付が可能に。同8月には寄付や募金、賽銭にもPayPayが使えるように

同10月にはPayPayアプリから簡単に投資信託の積立ができる「PayPayおまかせ運用」を開始。11月にはデジタル給与払いに国内で初めて対応

同12月にはPayPayアプリをキャッシュカードがわりにしてATMから現金出金ができるようになった。

国内で初めてデジタル給与払いにも対応した。

撮影:小山安博

PayPayアプリを中心に、金融・決済サービスを融合しているのは、PayPayならではだ。

サービスが個別に分離している金融サービスが多い中、PayPayは6000万を超えるユーザー基盤をうまく活用している。

反面、現時点でLINEヤフーの統合が生かし切れていないのが課題だ。

2023年には長く検討してきたLINEの銀行業に関する取り組みが頓挫。統合によってPayPay銀行との重複も問題になるため、撤退自体はともかくとして、結果としてLINEサービスとの連携がなくなった。

LINE Payも同様で、PayPayとの統合によってLINEをどのように生かすのかが見えていない

金融事業再編では、12月にLINEヤフーの子会社で金融事業の中間持株会社だったZフィナンシャルからPayPay銀行を分離してPayPayの子会社化する(2025年4月1日)。

Zフィナンシャル自体はLINEヤフーが吸収。PayPayグループを金融・決済事業の中心として位置づける方向性が強化された。

最大で4000円までのポイント還元をするペイトク。

撮影:小山安博

もともと、利用者拡大を優先して携帯サービスとしてのソフトバンク色を薄めていたPayPayだが、連携プランとして「ペイトク」を2023年に開始

ただ、ペイトクはあくまで割引とPayPay利用のポイント還元を向上する特典を付与するだけで、金融連携までは至っていない。

ソフトバンクの宮川潤一社長は、11月にペイトクの魅力向上を検討していると話しており、PayPayの金融サービスの利用者にポイント還元を高めるといった方向性はありそうだ。

【楽天】再編なく、みずほFGとの関係が注目

すでに金融サービスを提供している中でモバイルに参入した楽天。モバイル事業としては新興だが、金融サービスとしては一歩先んじている。

楽天銀行は1月に早々に預金残高10兆円を突破。12月には楽天証券で業界最多というNISA口座600万口座を突破した。

楽天証券は24年12月にNISA口座数が600万を超えた。

出典:楽天証券

その後、5月にはJR東日本グループにBaaSとして銀行機能を提供して「JRE Bank」がスタート。7月には楽天銀行預金口座数が1600万口座を超え、預金残高も11兆円に達した。

楽天は、そもそもの楽天市場の創業が1997年。その後、2002年には楽天ポイントをスタートした。2003年には買収によって楽天証券を設立(社名変更は2004年)。2005年には楽天カードの発行を開始している。

2001年創業のイーバンク銀行を取得して楽天銀行としたのが2009年。2010年には、楽天Edyと資本業務提携(楽天Edyへの変更は2012年)。

2014年には実店舗での楽天ポイント利用が開始され、2016年には楽天ペイがスタートした。それに対してモバイル事業の楽天モバイルがMNOサービスを開始したのは2019年だ。

こうして、楽天はECから始まり、金融、決済へと拡大、その後モバイルに参入しており、ほかの携帯3社とは成り立ち自体が異なる。

モバイル以外ですでに一定の存在感を示していた楽天だが、4月には「フィンテック事業再編に向けた協議」をスタート。銀行、カード、証券、保険などの事業を再編する方向性を示した。

楽天グループでフィンテック事業は3割を超え、モバイル事業を上回っている。

撮影:小山安博

その後、7月には協議が継続しているというリリースを出したが、9月30日に楽天カードとみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)による戦略的な資本業務提携の検討が発表され、再編が取りやめとなった。

もともと想定されていた再編の領域。

出典:楽天グループ

もともとみずほFGとは、楽天証券とみずほ証券の間で連携をしていたが、これにさらに楽天カードと組み込むことで提携を強化していく形となった。

11月には楽天グループ、楽天カード、みずほFG、みずほ銀行、UCカード、オリエントコーポレーション(オリコ)による業務提携が発表となった。

楽天証券とみずほ証券のこれまでの取り組み。

撮影:小山安博

提携の第1段階として、クレジットカード「みずほ楽天カード」を発行開始。2025年春以降のみずほ銀行・みずほマイレージクラブのリニューアルにおいてポイント連携などを実施する。

楽天市場では、オリコ独自のAI与信を使った分割払い機能を導入する計画だ。そのほか、法人向け事業や業務改善・高度化の取り組みも実施していく。

提携カードとして発行されるみずほ楽天カード。

撮影:小山安博

楽天の場合、新NISAによる勢いもあり、楽天銀行も順調に口座数・預金残高を伸ばしている。楽天カードも強さを維持しており、楽天市場とのシナジーも高められている。

これにモバイル事業が加わったことで、モバイル契約者の楽天サービス利用者が増加し、さらにシナジーにつながっている、というのが同社の分析だ。

楽天モバイルは、データ通信無制限でありながら低価格という料金面で契約数を獲得。2024年10月には800万契約を突破した。最大のドコモが9000万契約を超えているため、モバイルでの差は大きい。

ただ、もともとモバイル事業なしで成り立っていたため、楽天モバイルと金融・決済サービスとの連携は最小限。特に課題はアプリ連携の部分だ。

PayPayが先行しているスーパーアプリという単一アプリ化だが、「日々起動する決済アプリ」という点でユーザーの導線として適切に作用している。

楽天も楽天ペイアプリの統合を強化している。2019年に楽天ペイアプリに楽天キャッシュや楽天ポイント、楽天Edyへのアクセスが可能になり、2021年には楽天ペイアプリがさらに楽天カード、楽天銀行などの機能にアクセスできるようになると発表。

4月に、2025年にも楽天ペイアプリに楽天ポイントカード、楽天Edyを統合する方針も示され、7月には楽天ペイ上で楽天Edyと楽天キャッシュの相互交換が可能になった。

12月にはiPhoneで楽天ペイから楽天Edyカードへのチャージに対応。楽天カードアプリの主要機能も楽天ペイに搭載された。

現状の楽天ペイアプリの機能。

撮影:小山安博

現状の楽天ペイは複数の決済サービスへアクセスはできるものの、決済に関するアプリ自体は複数存在しており、これを楽天ペイアプリに一本化するのが狙いだ。

金融・決済サービスの中心に楽天ペイアプリを据えて、主要な機能は1アプリで完結することを目指す。2025年はこの施策が順調に進み、ユーザーの納得が得られるかが課題となるだろう。

楽天ペイアプリがフィンテックサービスの入口として使えるように統合するのが同社の方向性。

撮影:小山安博

みずほFGとの連携も課題が残る。

みずほFGは頓挫したLINE Bankとも連携していたが、今回の楽天グループとの提携でも、インターネット企業のスピード感やサービスの方向性に、みずほFGがどこまで対応できるか、提携が十分に効果を発揮するか未知数だ。

フィンテック事業の再編が中止になったことで、今後のフィンテック事業でどのような戦略を描くのかも不明瞭。こうした不透明感が、2025年の楽天の課題と言えそうだ。

新NISA、マイナス金利の解除といった大きなできごとがあった2024年において、携帯4社4様の事業を展開しつつ、それぞれが課題の残る1年となった。しかし、2025年につながる戦略を進めており、それがどのような結果になるのか、注目していきたい。

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