シャアは死んだの?『ガンダム』最終回で45年続く論争 TV版と劇場版で演出に違いが?
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』最終回で再び注目される「ガンダム」シリーズ。しかし原点となるTV版『機動戦士ガンダム』には45年以上決着のつかない論争があります。キシリアを撃った後のシャアは生きていたのか、それとも死んだのか。TV版と劇場版の演出の違いが生んだ、永遠の謎とは。
2025年6月24日深夜放送の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』最終回を受けて、ガンダムファンの熱気が冷めやらぬ状況ですが、原点である1979年に放送開始された『機動戦士ガンダム』のTV版最終回「脱出」をめぐって解釈が分かれ続けている議論があります。
それは、「キシリア・ザビ」をバズーカで射殺し、ザビ家への復讐を成し遂げた「シャア・アズナブル」の生死をめぐる問題です。
続編『機動戦士Zガンダム』でシャアは「クワトロ・バジーナ」として登場していることから、一連のシリーズのなかではシャアは生存していることが明らかですが、なぜTV版でシャアが死亡していた、と考えるファンがいるのでしょうか。
この議論が生まれる背景には、TV版と劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』での演出の違いがあります。劇場版では明確にシャアの脱出が描かれているのに対し、TV版では曖昧な描写のまま終わっているのです。
シャアの死亡を支持するファンが根拠として挙げるのが、シャアがキシリアを討つシーンの一連の状況です。シャアはキシリアを殺すためザンジバルの司令ブリッジにバズーカを撃ち込みました。その後、ザンジバルは宇宙ドックから浮上しますが、連邦軍の戦艦からビーム砲を受けて大爆発。ザンジバルは宇宙ドックに押し戻されながら爆発し、その爆風にシャアが飲み込まれたと解釈するのです。
さらに死亡派が強調するのは、TV版『機動戦士ガンダム』が「シャア・アズナブル」の物語として完璧に終わっているという点です。復讐に生きた男が、最後の敵を倒して自らも死ぬ。この結末は物語として美しく、キャラクターとしてもカッコいい良い散り際だと評価されています。
また決定的なのは、TV版では劇場版と違ってシャアが逃げたという描写が一切存在しないことです。バズーカを撃った後、シャアの姿は画面から消え、ザンジバルの爆発シーンへと移っていきます。
一方、生存派の論拠は「手向け」という言葉の解釈から始まります。「手向け」とは生者が死者の霊に捧げるものであり、シャアが生きているからこそガルマへの手向けとしてキシリアを殺したという解釈です。そうであれば、最後のセリフは復讐から解放された彼の新たな生への意志を示していると考えられます。
「脱出」というタイトルも重要な手がかりです。これはアムロやセイラたちの脱出だけでなく、もうひとりの主人公ともいえるシャアの「復讐の生からの脱出」も意味しているのではないか、という意見もあります。
さらにシャアがブリッジを撃ってからザンジバルが反転して墜落するまでには時間があり、その間シャアが同じ場所でじっと死を待っていたとは考えにくい、とするファンもいます。「俺はまだ死ねない」と思えば、劇場版と同様に立ち去ったと考える方が自然な流れという見方です。
何より決定的なのは、明確な死亡シーンが描かれていないという事実です。映像的には「生死不明」であり、死亡と断定するには根拠が不十分だという指摘もあります。
この議論を複雑にしているのが、1982年に公開された劇場版『めぐりあい宇宙編』での演出変更です。劇場版では、シャアがザンジバルの爆発から通路に逃げるシーンが明確に追加されています。さらに映画のラストでは、宇宙戦艦グワジンの窓からシャアと思われるシルエットが外を眺めているカットも挿入されました。
これらのシーンがTV版には存在しないことが、解釈の分岐を決定づけています。当時のTV版制作時点では、シャアは死んだ設定だったのかもしれません。しかし、予想以上の再放送の反響とガンプラブームを受けて、続編の構想が生まれ、劇場版で「シャア生き残りルート」を作った、という意見もあります。
結局のところ、TV版の描写だけでは「シャアの生死は不明」というのが最も冷静な判断かもしれません。しかし、この曖昧さこそが『機動戦士ガンダム』を、より語りがいのある作品としていることは間違いないでしょう。
(マグミクス編集部)