海図なき世界 建国250年の米国 秩序維持へ復元力発揮を

米独立宣言を巡る大陸会議の様子を描いた米画家ジョン・トランブルによる油彩画(1819年)=米連邦議会のホームページから

 米国は今年7月4日、大英帝国からの独立を宣言して250年を迎える。

 英国王と議会の圧政に立ち向かった13の植民地による「アメリカ革命」の目的は、専制を排し、自由、平等、幸福追求の権利を実現する政府の樹立にあった。

 近代民主主義国家の先駆けとなり、開明的な思想はフランスでの市民革命や日本の自由民権運動を突き動かした。「卓越した国家」として人々が仰ぎ見る「丘の上の町」となり、世界を導く「灯台」を自負してきた。

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 絶大な影響力を持つに至るまでの歴史を振り返る時、米国民は誇りを胸に抱くだろう。

仰ぎ見た「丘の上の町」

 だが、2世紀半後の今、民主国家のリーダー像は揺らいでいる。

 移民を排斥し、特定国からの入国を恣意(しい)的に禁止する。法外な関税を課して自国の産業を守ろうとする。同盟国の利害を二の次にしてロシアや中国などの強権国家との取引外交にいそしむ。勢力圏と称してベネズエラを攻撃する。それが「米国を再び偉大に」する政策だとトランプ大統領は言う。

 多様性が活力を促し、自由経済が国富を生んだかつての輝きはない。目前にあるのは、国内の人種的な分断が深刻化し、国際的な信用を失いつつある疲弊した姿だ。

 内向きになった責任はトランプ氏だけにあるわけではない。東西冷戦終結で「世界で唯一の超大国」となった米国だったが、その威信は長続きしなかった。

 米同時多発テロを機に従来の国際協調主義から単独行動主義に転じた。アフガニスタン戦争に続いて無謀なイラク戦争に突き進み、国力を擦り減らした。

 「米国が世界を支える時代は終わった」とトランプ氏は限界を認め、2世紀前の孤立主義に回帰しようとしているのが実像だろう。

 だとすれば、世界はまさに歴史の岐路にあると言える。

 国際協調が力を持ち、民主主義が秩序を支える道を歩み続けるのか。それとも「米国による平和」の時代が完全に終わり、盟主なき荒野の時代が始まるのか。

トランプ米大統領。後ろはレーガン元大統領の肖像画=ワシントンのホワイトハウスで2025年12月15日、ロイター

 ハバード元米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長らによると、大国の衰退は権威の中央集中化や個人の自由の制限などによって起こるという。トランプ政権にはその予兆がある。民主主義が朽ち、いつ専制に陥るとも限らない。

 短い歴史で達成した拡大と発展が限界を迎えようとしているという見方もできよう。ローマ帝国や大英帝国になぞらえて衰退を運命付ける議論はしばしば語られる。

 しかし、米国に取って代わる新たな覇権国は見えない。経済と軍事の両方で急成長する中国にはその意思も力量もない。米国の後退は「力の空白」を生みかねない。

 今年は、乱れた世界秩序をいかに回復するかが課題になる。そのためには、大国が覇権争いをするのではなく、安定した関係へと軌道修正する外交が欠かせない。

「力の空白」生まぬよう

 最大の焦点は米中関係だ。幸い今年は、それぞれが議長役を務める国際会議や相互往来で首脳会談が頻繁に行われる可能性がある。貿易だけでなく、ウクライナ戦争、中東での紛争、中国と台湾の緊張など安全保障問題でいかにバランスを図るかが求められる。

 民主主義や国際協調を自ら修復しようとする動きもある。

 国内では、移民対策などの名目で州兵を独断的に動員しているトランプ氏に対し、連邦最高裁などが差し止めを命じた結果、撤収せざるを得なくなった。

 外交では、米議会が超党派でウクライナ支援継続や同盟国重視の姿勢を打ち出した。欧州での米軍の兵力規模を維持する法律を可決したり、中国による日本への威圧行為を非難する決議を提出したりしているのが、その例だ。

 幾多の困難に直面し、乗り切るたびに発揮されたのが、不屈の復元力である。

 国家分裂の危機にひんした南北戦争では奴隷制撤廃を経て統合した。大恐慌ではニューディール政策によって経済を再建し、第二次大戦に勝利した。ベトナム戦争は世論の分断を招いたが、「強い米国」に結集し冷戦を勝ち抜いた。

 「聖なる自由の火の保存と、共和制による統治の運命は、米国民の手にゆだねられた実験の成否にかかっている」と初代大統領ジョージ・ワシントンは述べた。11月には連邦議会の選挙がある。再び米国の復元力が試されている。

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