もはやプーチンに「停戦」の選択肢はない…燃料不足、兵員不足、支持率低下でも止まれない「地獄のデスロード」(集英社オンライン)|dメニューニュース

もはやプーチンに「停戦」の選択肢はない…燃料不足、兵員不足、支持率低下でも止まれない「地獄のデスロード」

ガソリンが足りない。兵士も足りない。支持率にも陰りが見え始めた。それでもプーチン大統領は戦争を止められない。ロシア国内で広がる燃料不足や国民の不安は、政権の弱体化を示すだけではない。追い詰められた独裁者が、さらに危険な一手へ踏み出す可能性を示す「危険信号」でもある。

ウクライナの狙いは、建物を壊すことだけではない

日本では、ウクライナの長距離攻撃は「ロシア本土への反撃」として紹介されることが多い。だがウクライナの狙いは、建物を壊すことだけではない。プーチンと国民の間にあった暗黙の約束を壊すことにもある。

産油国ロシアで、ガソリンが足りなくなっている。

ロシア政府は燃料輸出を制限し、輸入を増やし、国内の給油所を守ろうとしている。主要な製油所がウクライナのドローン攻撃を受け、業界関係者の情報とロイターの試算では、ガソリン生産は季節平均の国内消費量の約65%に相当する水準まで落ちた。

政府の確定統計ではないが、食品輸送車や農業部門への供給を優先し始めた事実からも、燃料事情が深刻であることは分かる。

戦争は、もはや国境の向こう側だけで起きているのではない。ロシア人が毎日使う車の燃料にまで、その影響は及んでいる。

プーチンと国民の間にあった約束は単純だった

ウクライナの攻撃方法も変わった。前線の兵士だけでなく、製油所、燃料貯蔵施設、軍需工場、航空基地を繰り返し狙っている。戦争研究所によると、6月にはロシア占領下のウクライナ領にあるロシア側目標への中距離攻撃が少なくとも303件確認された。

これとは別に、ロシア国内では石油関連施設への攻撃が31件、軍事資産への攻撃が47件確認されている。

ロシアは広い。すべての施設を防空システムで守ることはできない。モスクワを守れば地方の製油所が空き、製油所を守れば前線や航空基地が薄くなる。

ウクライナは、これまで強みであったはずのロシアの広大な領土を「防空能力を分散させなければならない弱点」に変えようとしている。

プーチンと国民の間にあった約束は単純だった。

政治に口を出さず、戦争にも逆らわなければ日常生活は守られる。兵士が前線へ送られても、大多数の国民には戦争前と大きく変わらない生活を与える。これは明文化された契約ではなく、プーチン体制を説明する政治的な見方である。

その前提が崩れ始めた。給油所では燃料を気にしなければならない。ドローン攻撃を警戒して携帯やインターネットが制限される。新たな動員への恐怖も消えていない。

「国は正しい方向に進んでいる」と考える人、61%から52%へ

政府系世論調査機関FOMの2026年6月調査では、親族や友人、同僚など「周囲では不安な空気が優勢だ」と答えた人が55%に達した。前年同時期は40%だった。

独立系レバダ・センターの調査でも、プーチン支持率は5月の79%から6月には74%へ下がり、不支持は15%から21%へ増えた。「国は正しい方向に進んでいる」と考える人も61%から52%へ減った。

それでもプーチンの支持率は高く、明らかな政権崩壊が迫っているわけでもない。だが、戦争を遠い出来事として扱うことで保たれてきた安心感は失われている。

燃料不足が長引けば、給油所の不便だけでは終わらない。製油所が止まれば、農業、物流、工場にも影響が及ぶ。前線や基幹産業への供給を優先すれば、不足のしわ寄せは一般の消費者と民間企業へ向かう。

ロシアの失業率は2.2%と低い。しかし、これは景気のよさだけを示す数字ではない。軍や軍需産業への人員移動、国外流出、高齢化が重なり、働き手そのものが不足している。

こうした状況なら、停戦へ傾くのが普通だと思うだろう。ところがプーチンは逆を向いている。

自分が敗北者に見えない終わり方を探すプーチン

ロイターは、クレムリンに近い匿名情報源の証言として、現在の戦線で停戦する妥協案を示した側近らをプーチンが叱責したと報じた。公式記録ではないため慎重に扱う必要はあるが、プーチン本人もドンバスなど4州の完全支配という目標を下ろしていない。

ロシア側は、ウクライナにNATO加盟断念、軍備制限、領土譲歩を求めている。交渉のために要求を調整するのではなく、戦場で得られなかったものを交渉で取ろうとしている。

理由は明白だ。十分な戦果がないまま停戦すれば、なぜ多数の兵士が死傷したのか、なぜ制裁を受け入れたのか、なぜ生活が苦しくなったのかという問いがプーチン自身へ向かう。

本人がそう語ったわけではないが、これは政権の政治的利害から導かれる分析である。それでも、プーチンが単に和平条件を探しているのではなく、自分が敗北者に見えない終わり方を探していることは、行動から読み取れる。

ところが、その終わり方は戦争が長引くほど遠ざかる。燃料不足は広がり、財政赤字は膨らみ、国民の不安も増す。それでも戦争を止められない。

最大の難問は兵士である。米戦略国際問題研究所(CSIS)の分析をみてみよう。

月間の人的損耗3万人に対し新規採用は2万7,000人

2026年のロシア軍では、戦死、負傷、行方不明を合計した人的損耗が月3万〜3万4,000人に達し、新規採用約2万7,000人を上回っている可能性が高いと推計する。公式統計ではないが、現在の戦い方を維持するには大量の補充が必要である。

契約金を積めば財政が傷む。動員を拡大すれば国民の反発と国外流出を招く。2022年9月の部分動員後には、数十万人が国外へ向かった。正確な純流出は不明だが、社会に大きな衝撃を与えたことは確かである。

怖いのは、国内の強硬派は撤退を求めていないことだ。

国家総動員、キーウ政府地区への攻撃、ゼレンスキー暗殺、欧州のドローン工場への攻撃、戦術核の使用まで唱える者がいる。クレムリンがこれらの最過激な要求をすべて採用しているわけではない。しかし、戦争目標を下げず、攻撃を続けるという点では同じ方向を向いている。

「うまくいかないのは攻撃が足りないからだ」

失敗を認めず、戦争目標を下ろさない政権と強硬派の論理を一言で表せば、まさにこれである。

戦争を始めた判断が間違っていたとは考えない。目標が過大だったとも、犠牲が大きすぎたとも認めない。成果が出ないのは、ウクライナが抵抗するからであり、西側が武器を送るからであり、国内に覚悟の足りない者がいるからだと考える。

失敗の原因を自分の判断以外に求め、さらに多くの兵士、戦費、攻撃を要求する。究極の他責思考である。

次の強硬策を呼び込む危険信号

プーチンの窮地を、政権崩壊の前兆と考えるのは早い。反戦運動は抑え込まれ、治安機関も健在である。ロシアには2026年を通じて戦争を続ける能力が残っている。

だが、強い政権と余裕のある政権は同じではない。

燃料不足を隠せず、国民の不安を抑えられず、戦費を民間へ転嫁し、動員の反動を恐れながら兵士を求める。しかも停戦すれば、自らの権威が傷つく。

プーチンは戦争を続ける力を持つ。しかし、自ら設定した戦争目標によって、戦争を終わらせる選択肢を狭めている。

追い詰められた指導者が必ず妥協するとは限らない。失敗を認められない独裁者は、損失を取り戻そうとして賭け金を増やす。失敗するたびに、さらに大きな攻撃が必要だと考える。

ロシアの燃料不足は単なる生活ニュースではない。戦争がプーチンの国内基盤を削り始めた証であり、同時に次の強硬策を呼び込む危険信号である。

国民を乗せたまま突き進む、地獄のデスロード

その先にあるのは勝利への道ではない。自分で出口を塞ぎ、国民を乗せたまま突き進む、地獄のデスロードである。

歴史を振り返れば、追い詰められた権威主義体制が理性的な撤退を選んだ例は多くない。むしろ失敗の証拠が積み上がるほど、指導者は撤退の代償を恐れ、賭け金を釣り上げてきた。

プーチンもその轍を踏みつつある。燃料不足も、財政赤字も、兵員不足も、本来であれば停戦へ向かう十分な理由になるはずだった。だが、自ら掲げた戦争目標が、その出口を内側から塞いでいる。

ゆえに注視すべきは、支持率の数字そのものではない。数字が下がったとき、彼が何を選ぶかである。譲歩か、それとも一段の暴発か。ロシア国内に走り始めた亀裂は、和平の兆しであると同時に、エスカレーションの引き金にもなりうる。

地獄のデスロードは、ロシア国民だけを乗せて走っているのではない。その進路の先には、日本を含む国際社会が立っている。

文/小倉健一

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