ゼレンスキーが描く防空体制…ミサイル供与だけではないトランプに求めたこと、世界に訴える「圧倒的な窮状」(Wedge(ウェッジ))
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月下旬の訪米で、ロシアの侵攻に対するウクライナの戦いと、トランプ氏とイランとの対立の間に共通性があることを強調し、ウクライナは米国の戦いに貢献し得ることを示しつつ、パトリオット迎撃ミサイルのライセンス生産や完成品の提供にかかる支援を求めた。 【画像】ゼレンスキーが描く防空体制…ミサイル供与だけではないトランプに求めたこと、世界に訴える「圧倒的な窮状」 ウクライナ国防省によれば、ロシアによるドローン、ミサイル等の攻撃に対する迎撃率は、ドローンが90%、巡航ミサイルが80%、そして弾道ミサイルが40%だ。つまり、ウクライナの民生施設への被害の大半は、弾道ミサイルを迎撃できないことに起因している。 弾道ミサイルは速度が速い上に、最終的に90度近い角度で落下してくるので迎撃が非常に難しい。これを迎撃するには、世界最高水準の能力を誇るパトリオットミサイルが不可欠だ。 かかる中にあって、共和党の重鎮の一人だったリンゼー・グラハム上院議員追悼式典(7月28日)への出席の機会を使った、ゼレンスキー大統領訪米の最大の目的は、パトリオット迎撃ミサイルのライセンス生産「承認」のフォローアップ、並びにその他の軍事支援について、トランプ大統領に直接要請することであった。 これに対し、訪米直後の段階では多くのメディアが、ゼレンスキーが温かい歓迎を受けて、パトリオットのライセンス生産についてもトランプから肯定的な発言があったかのごとく、ゼレンスキーの説明を伝えていたが、その後、必ずしもそうではないことが分かってきた。 ここでは、これまでの公開情報で想定し得る範囲において、パトリオットのライセンス生産その他の軍事支援に関する米側との調整の現状につき述べた上で、米側の対応が期待通りに行かない中でウクライナが描く、長期的観点に立った防空体制構築の構想に触れておきたい。
訪米後の情報をも合わせ総合すると、今回の訪米におけるゼレンスキーの主たる支援要請は以下の4点であったとみられる。 (1)パトリオットのライセンス生産「承認」を実務的プロセスに移行させること (2) 冬までに緊急に必要となる「ミサイル300発パッケージ」の供与 (3)ロシア領内攻撃に使用するトマホーク巡航ミサイルの供与 (4)スターリンクのロシア領内での使用許可 これらのうち(1)と(2)は「防衛」を、(3)と(4)は「攻撃」を主目的とする兵器等であるが、いずれも連日のように降り注ぐロシアのドローン、ミサイル攻撃からウクライナ国民を守るためのものだ。ただ、これに対する米側の反応は結局のところ、良くて「検討」、さもなければ事実上の「拒否」であったと、総括せざるを得ない。具体的には次の通りだ。 (1)について、トランプ側の反応は会談時においても曖昧さを残していた。ゼレンスキーは会談後に「パトリオットミサイル・システムのライセンス生産を認めることで合意した」と述べていたが、トランプ自身は「多くのことが話し合われた。会談は非常にうまく行った」などと投稿していただけだ。さらにゼレンスキー帰国後の7月31日には、「合意していない」と明言した。 パトリオットを生産する米企業との関係についても、ゼレンスキーはレイセオン社、ロッキードマーチン社を訪問し協議したが、企業側との間で何らかの具体的プロセスに「合意」したか否かは確認できていない。 (2)の「ミサイル300発」についても、トランプの反応は「努力したいが、難しい」というもので、実質的には拒否と見るべきだろう。 (3)のトマホークについては、ウクライナの場合、海上発射型トマホークの発射プラットフォームを有していないので、2024年に実戦配備が始まったばかりの地上発射型「タイフォン」の供与ということになる(地上発射型は1987年の中距離核戦力〈INF〉全廃条約ですべて廃棄しており、19年に同条約が失効した後に開発を開始したもの)。タイフォンシステムから発射されるトマホーク・ブロック5は、射程1600キロメートル(km)以上、半数必中界(CEP)は数メートルと、ほとんどピンポイントに近い命中率を誇る。 ところが、タイフォンは生産開始から間がなく数量的にも少ない上に、米国としては日本やフィリピンへの配備を優先するであろうから、実際早期にウクライナに供与することは難しいだろう(なお、ここに、日本とのトレードオフが存在する)。 (4)のスターリンクは、ウクライナが自身のドローンを使って、ロシア領内で精密攻撃を行うために必要となる。スターリンクは現在のところウクライナ領内(露占領地を含む)でしか使用できず、ロシア領での使用を禁じられているが、もしこれが可能となれば、ウクライナ軍は長距離ドローンをロシア領内奥深くまで、途中で通信を途絶えさせることなく飛行させ、ロシアの移動式ミサイル発射装置をリアルタイムかつピンポイントで攻撃することができる。