昭和版「新幹線大爆破」出演者に“人間の圧力”感じた草彅剛「今の僕より全然年下、なんですかあの貫禄は」
走行速度が一定より遅くなれば自動的に爆発する――。米映画「スピード」に影響を与えたともされる、高倉健主演の東映映画「新幹線大爆破」(1975年公開)の令和版をネットフリックスが制作、独占配信している。主人公の車掌・高市役の 草彅(くさなぎ) 剛に聞いた。(文化部 辻本芳孝)
運転士(のん、右)に指示を出す高市(草彅剛)ネトフリ令和版で車掌役
「『笑っていいとも!』に出演中、関根勤さんが生放送終了後に『新幹線大爆破』の物まねをして盛り上がって、すごく面白いんだよって言われて、借りて見た覚えがあります」。昭和版に触れたのは意外なきっかけだったのだ。「まだ20代だったので、高倉健さんとかもう雲の上の存在で、もちろんそのときは一緒に仕事するなんて思っていなかった。(関根さんの)物まねで見た刑事部長役の丹波哲郎さんや、運転士役の千葉真一さんの演技がどこに出てくるのか探して、早送りしながら見ました」
じっくり見たのは、2012年の映画「あなたへ」で高倉と共演した時だった。「健さんを意識し始めていて、出演作品を見る中でもう1回見たんです。任侠ものが多い健さんの作品でも色が違う印象。悪役だし、挑戦心を感じた。ただ、健さんは健さんでしかないから、誰もなれないと思うんですよ。もうあそこの領域は。僕なんかが目指しても、もう到底無理っつう話」。だが今作の声がかかった時に高倉との縁を感じた。「映画『 鉄道員(ぽっぽや) 』で駅長を演じた健さんとつながっている気もして、遺志を受け継いでやりたいと思った」
閉鎖空間で繰り広げられる生々しい人間模様
爆弾の威力を見せつけるために別の貨物車両を爆発したシーン昭和版では、倒産した町工場社長(高倉)と元過激派(山本圭)らが、東京発博多行きの新幹線「ひかり109号」に爆弾を仕掛け、時速80キロ以下に減速すると自動的に爆発すると脅して爆弾解除と引き換えに500万ドルを要求。運転士や運転指令長(宇津井健)ら国鉄側が安全運行に努める中、犯人側と逮捕を目指す警察との息詰まる攻防が繰り広げられた。
今作では、新青森発東京行きの東北新幹線「はやぶさ60号」が舞台。爆発する速度も時速100キロ以下となり、爆弾解除料は1000億円とされた。そのうえで、映画「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」で、強大な敵に立ち向かう人間ドラマに焦点を当ててきた樋口真嗣監督は、今回、運悪く新幹線に乗り合わせた人々に注目した。
起業家ユーチューバー(要潤)や、“ママ活スキャンダル”で失墜した国会議員(尾野真千子)、スマートフォンを使いこなす修学旅行生らは昭和版にはいなかった存在。彼らをどう落ち着かせるか、手腕が問われるのが車掌役だ。「普段は裏方に徹する職業。何もなければ声を荒らげる役割ではないし、特徴がないゆえに難しい役どころだった」と振り返る。「自分を出さず、だけど何かあったときには前に出ていく。視聴者に感情移入もしてもらわないといけない。存在感の出し引きが絶妙だよね、自分で言っちゃうけど」
車内の乗客を落ち着かせようと、高市(草彅剛、中央)は国会議員(尾野真千子、右)らと腐心する新幹線という閉鎖空間で繰り広げられる生々しい人間模様が大きな見どころだ。「乗ってる人のキャラクターそれぞれに感情移入できる。目的が違うまったくの他人がその時、同じところに乗っているっていうのが面白い。だからみんな言うことが違うし、まとめるのも大変ですよね」
車内の混乱を抑えてきた高市がクライマックスで素顔をあらわにする場面がある。「あのシーンは樋口監督が熱くなっちゃって。(持ち運びのできる)自分専用のモニター画面を持ったまま、それを握りつぶすんじゃないかっていうくらい熱が入って、目を血走らせながら2時間ぐらい話していた。だから午前中は撮れなくて、おなかがすいたからお昼に入ったんですよ」
こんな軽口がたたけるのも、樋口監督への信頼が強いからだ。「監督への愛というか、僕が主人公を演じた映画『日本沈没』(06年)以来、僕と監督が築き上げてきた情熱があのカットに込められた。だから僕の代表作になります」
「何でもCGでやればいいってもんじゃない」
撮影が10か月に及んだ今作は、国鉄の協力が得られなかった昭和版と違い、JR東日本が特別協力し、特別ダイヤで専用の貸し切り臨時列車を7往復走らせた。コンピューターグラフィックス(CG)などVFX(視覚効果)を多用し、迫力あるシーンを作り出した。その一方で“昭和の手法”も重視し「新幹線を爆発させるシーンでは、少し小さな模型を本当にぶっ壊した」。
はやぶさ60号(右)と並行して列車を走らせたシーン「何でもCGだって思われちゃうんだけど、実はそうでもない。樋口監督は昭和版をリスペクトしているので、破壊シーンでは、似た大きさの模型を作って実際に破壊した。アナログなんですよ。たぶん監督の中では、何でもCGでやればいいってもんじゃないんだよね。監督はマニアックだから先人が生み出した技術も好き。昭和と令和で手をつないでいる感じです」
撮影を思い返し、昭和版の厚みを感じた。「当時の出演者たちの熱量がすごい。だって、健さんやみんな、今の僕より全然年下ですよ。なんですかあの貫禄は。人間の圧力みたいなのは、どんなに技術やCGが進んでも忘れちゃいけないところなんで、そういうのは意識して演じました」
JR東日本が所作や言い回しの監修にもあたり、運転士役ののんと共に、敬礼の仕方や身だしなみ、乗客を目的地まで届ける心構えなどの講義も受けたという。「乗る前の日からルーティンがあるらしくて、睡眠時間は前の日、その前の日、さらに前の日から記録しておかないといけないそうです」。また、アナウンスの仕方や、定期的な巡回、細やかな荷物の確認など、新幹線の随所に見られる日本的なもてなしの心も学んだという。
「あんな“お客様ファースト”はないと改めて思った。インバウンドが多い今、タイムリーな作品なんじゃないかな」