ジャニー喜多川氏、松本人志氏、中居正広氏…疑惑含む"性加害"が芸能界蔓延の裏で社会全体では激減の理由 それでも女性が安心して夜道を歩けない日本の大問題
ここ数年、芸能界を中心とした「性加害(被害)」に関するニュースが目立っている。統計データ分析家の本川裕さんは「2000年以降の一般社会における性被害率の調査結果を見ると、芸能界とは異なる実態がわかった」という――。
2023年に表面化した旧ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏による性加害問題、同年末からのお笑いタレント松本人志氏による“性加害疑惑”騒動、そしてフジテレビの企業体質にまで問題が拡大した昨年末からのSMAP元リーダー中居正広氏の性加害疑惑、と芸能界をめぐって被害者の人権を無視した性的事件が相次いでクローズアップされている。
こうした事件の報道に触れて気になるのは、芸能界だけでなく一般の日本社会でも同様の事件が繰り返されているのではないかという点である。また、日本社会は他国と比較して特にこの点に関して「闇」が深いのかという点に関しても気になるところである。こうした点に関するデータが紹介されることが少ないので、ここで、まとめておこう。
犯罪や犯罪被害が増えているのか、減っているのかを把握するためには、①警察に認知された犯罪件数を集計する方法と、②一般国民を対象とした各種アンケート調査により、警察などに認知されていない犯罪の件数(暗数)を含め、どのような犯罪が、実際どのくらい発生しているかという実態を調べる方法(暗数調査)がある。
性犯罪に関しては、①の認知件数で実施のところの増減を調べるのはかなり困難である。
性的自由に対する犯罪である不同意わいせつ罪、それに変わる以前の強制わいせつ罪は、かつては親告罪、すなわち被害者が告訴しないと起訴されない犯罪だった。今では、告訴がなくとも犯罪となるが、それでも被害者の訴えがないとなかなか警察による認知に至らないことは容易に想像される。
そこで、被害者の性的な犯罪に対する意識変化や警察の取り組み姿勢で、認知件数自体がかなり左右される可能性が高い。窃盗や傷害事件などとはかなり状況が異なる。
従って、性犯罪の実際の増減を調べるには、②の暗数調査が適している。また、法制度や警察の制度そのものが異なる各国の比較についても、犯罪統計によるよりも②の暗数調査が適している。
そこで、法務総合研究所では、2000年に各国共通の犯罪内容で被害率を調べる国際犯罪被害実態調査(ICVS:International Crime Victims Survey)に参加して第1回犯罪被害実態(暗数)調査を実施し、それ以後、数年おきに、暗数調査を実施している(最新は第6回2024年)。
この調査の結果から日本における性被害率の推移を図表1に掲げた。
性的な被害の過去5年被害率は2000年の2.7%から2024年の0.5%まで大きく減少しているのが印象的である。2004年までは女性のみの被害率であり、2008年以降は被害率が女性より低い男性を含む被害率なので、この間の減少は数字ほどではないと考えられるが、同一基準の2008年から2024年にかけても2.0%から0.5%へと4分の1に減少している。
なお、ここでの性的な被害の数字には、犯罪とまではいえないセクシャルハラスメントまで含めている点に注意が必要である(図表2の質問票参照)。セクシャルハラスメントの割合は後段の図表3参照。
社会全体の性被害(裏返せば性加害)は大きく減っていると考えられる。
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女性の人権をないがしろにしているもう1つの事象はDVである。DVには精神的なもの、肉体的な暴力によるもの、性的なものをすべて含んでいる。
OECDの報告書(Society at a Glance 2024)では、2018年の時点で、過去12カ月に親しいパートナー(夫、または事実上の配偶者)から身体的暴力、性的暴力のいずれか、あるいは両方を経験した各国の比率を掲載している。主要先進国(G7諸国)について、このDV経験率を高い順に並べると以下の通りである。
7位 カナダ 1.7%
日本のランキングはOECD38カ国中23位、G7諸国中4位とやや低いほうに分類される。日本はDVがそう少なくもないが、それほど多い国とも言えない。
以上のように、性被害、あるいはDVという観点から海外諸国との比較で日本の女性の人権侵害の程度を測ってみると、そう悪い状況とは言えないという結論となる。
「体感治安」上、日本人女性の不安はけっこう高い
それでは、日本の女性は日々安心して暮らせているのだろうか。本稿の最後に、そうとも言えない側面があるというデータを紹介しよう。
図表4には、体感治安の男女差(ジェンダーギャップ)を示した。
「体感治安」の指標としては、意識調査における「住んでいる地域で夜ひとりで歩くのが安全と感じるか」の割合が参照される。図では、「安全でない」と感じる割合を掲げている。
OECD平均では男性は17%が安全でないと感じているが、女性は31%がそう感じている。図に掲げたいずれの国でも女性の不安のほうが男性より大きい。図ではジェンダーギャップを「男女差を女性の割合で割った値」で示しているが、OECD平均では45%である。
OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も悪いのはチリであり、コロンビア、メキシコ、コスタリカなどのラテンアメリカ諸国がそれに続いている。
他方、OECD諸国のうち女性にとって体感治安が最も良いのは、ノルウェーであり、ルクセンブルク、スイスがこれに続いている。
日本の女性にとっての体感治安は27.5%であり、OECD諸国の中では中位水準にある。
日本の体感治安は、女性が27.5%、男性が11.5%であり、体感治安に関するジェンダーギャップは58.2%である。OECD平均のジェンダーギャップは45.0%なので、日本のほうがジェンダーギャップが大きい、すなわち女性が安心できない国となっている。
主要先進国(G7諸国)をジェンダーギャップの大きい順に掲げると、
7位 英国
という順になっており、主要先進国の中では日本の体感治安に関するジェンダーギャップは大きいと言わざるを得ない。
性被害やDVに関する客観指標は、上に示したように、日本は国際的にはそう悪くない状況にある。しかし、だから女性が安心して暮らせているかというと、ここで紹介した体感治安のデータにもあらわれている通り、必ずしも、良好な状況とはいえないのである。