警察署から着信、実はなりすまし 被害は既に100億円超

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スマートフォンの着信画面に実在する警察署の電話番号を表示させる新手の特殊詐欺が目立ち始めた。警察官をかたり捜査名目で金銭をだまし取る手口で、被害は1〜2月だけで100億円を超えた。番号の偽装は「スプーフィング」と呼ばれ、着信画面だけで詐欺とは見抜けない。警視庁などは警察を名乗る不審な電話は一度切るよう呼びかける。

「警視庁新宿署のものです」。3月中旬、末尾が「0110」の新宿署の代表番号が着信画面に表示される不審な電話が急増した。捜査2課の捜査員を名乗り、「あなたの口座が詐欺に悪用されている」などとかたって指定した口座への送金を要求する内容だった。

電話を受けた人からの新宿署への問い合わせは3月11日からの1週間で600件を超え、業務に影響が生じる事態にもなった。警察幹部は「問い合わせてくれた人には詐欺だと伝えられたが、電話内容を信じてしまった被害者も少なくないだろう」とみる。

電話の着信画面に実際とは異なる番号を表示させる手口はスプーフィングと呼ばれる。英語で「なりすまし」を意味し、警察も一連の不審電話はスプーフィングとみている。どのような手法なのか。

ネット回線を使って通話するIP電話は仕組み上、相手側に表示させる番号を任意で変更できる。日本国内の通信事業者が提供するサービスではなりすまし防止のため、番号を変更できない仕様にしていることが多い。

迷惑電話の遮断サービスを手掛けるトビラシステムズの柘植悠孝セキュリティーリサーチャーは「海外の通信事業者が提供するIP電話が悪用されている可能性がある」とみる。なりすまし対策が不十分な事業者も少なくないためだ。

警察関係者によると、番号表示の変更はコールセンター業務などで多くの内線を使う場合、相手側に同じ代表番号を表示させるといった利点がある。正規のサービスとして提供している海外業者があるとみられる。

警察をかたる電話は2024年にも確認されたが、着信画面での表示は海外からの発信を示す「+」が先頭に付き、末尾が「0110」となっている番号が多かった。「+」が付かない番号による虚偽の電話は25年に入り増えている。

警察庁によると、24年1月〜25年3月中旬までに確認された番号の偽装は1458件あり、新宿署が788件で最も多かった。警視庁本部(171件)や兵庫県警本部(94件)、愛知県警本部(76件)なども目立った。

番号が「+」から始まる国際電話であれば、各通信事業者を通じて提供されている迷惑電話の遮断サービスで着信を拒否できる。しかし、スプーフィングにより警察署の番号と完全に一致させた場合には遮断できない可能性があるという。

柘植氏は「実在する番号からの電話でも内容をうのみにしてはいけない」と話す。

警察官をかたる手口で共通しているのは、最初の電話からSNSのビデオ通話に誘導し、警察手帳や逮捕状などの画像を見せる流れだ。虚偽の事件で容疑がかかっているとかたり「晴らすには口座の突き合わせと現金の送金が必要」などと要求する。

警視庁などは「警察官がSNSで連絡し、警察手帳や逮捕状の画像を送信することは絶対にない」と強調する。電話に応じた時点で詐欺と気づけない場合でも、SNSへ誘導された時点で異変を察知すれば被害を防げる。

特殊詐欺の被害は24年に約721億5千万円(暫定値)に上り過去最悪だった。このうち警察官をかたる手口はオレオレ詐欺の「その他の名目」に分類される。この類型の認知件数は23年比約4倍の4192件で、被害額は全体の51%にあたる約371億円だった。

警察官をかたる詐欺被害は25年も昨年を上回るペースで推移し、1〜2月の被害額は計約106億円(速報値)だった。警視庁などは「警察官を名乗る電話があれば、名前や所属、内線番号を確認して一度切り、家族や友人、最寄りの警察署に相談してほしい」と警戒を求めている。

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