スポットワークが直面する深刻リスク。なぜ「グレーな制度」と批判されてしまうのか?

タイミーにメルカリハロ、シェアフルにスポットバイトルなど、スポットワークの競争が過熱している。

撮影:横山耕太郎

いまや、登録会員数が2500万人を突破したと言われるスポットワークサービス。

タイミーをはじめ、メルカリハロやシェアフルなど、各サービスはテレビCMに有名タレントを起用し群雄割拠の様相を呈しています。

一方、よくスポットワークの比較対象として名前が挙がるのが、かつて隆盛を誇った日雇い派遣です。

グッドウィルやフルキャストといった日雇い派遣に強かった事業者だけでなく、長期の仕事を主とする大手の人材派遣事業者も積極的に日雇い派遣を展開していましたが、日雇い派遣は2012年の労働者派遣法改正によって原則禁止となっています。

同じようなサービスなのに、スポットワークと日雇い派遣とでは一体何がどう異なるのでしょうか。両者の違いからスポットワークの課題を考えてみたいと思います。

企業と働き手、双方から求められている機能において、スポットワークと日雇い派遣はほぼ同じです。働き手側には、空き時間など希望する時間だけピンポイントで働いて収入を得たいというニーズがあります。一方、企業側のニーズは大きく以下の3点です。

しかしながら、スポットワークと日雇い派遣には異なる点もあります。大きくは2点。1つは雇用主が誰か。もう1つは、規制を受ける法令です。

スポットワークには、広義と狭義の捉え方があります。狭義では業務委託契約を基本とするギグワークは含まず、就業の度に仕事を紹介する有料職業紹介事業を指します。日々紹介とも呼ばれる事業モデルで、雇用主となるのは仲介するスポットワーク事業者ではなく就業先側の企業です。

それに対し日雇い派遣は労働者派遣事業なので、雇用主は仲介する派遣事業者になります。就業先の企業と労働者の間には雇用関係がなく、あくまで業務を遂行する際の指揮命令を受けるだけの関係です。

また、スポットワークは職業紹介事業なので、主に職業安定法が関わってきます。一方の日雇い派遣は派遣事業であるため、主に関わるのは労働者派遣法です。その労働者派遣法によって、30日以内の日雇い派遣は原則禁止と定められています。

日雇い派遣が原則禁止になったきっかけは、グッドウィルなどの悪質な事業者による法令違反が問題視されたことです。データ装備費という名目で不当な天引きを行うなど、事業者が悪質な法令違反を繰り返していました。

さらに、リーマンショックを機に派遣切りや年越し派遣村などが問題視され、ワーキングプアの温床と言われた日雇い派遣への風当たりがより強まりました。その後の厚生労働省による調査によって日雇い派遣がワーキングプアの温床とは言えないことが示されましたが、違法行為が行われた背景などから雇用管理責任に問題があるとして日雇い派遣は禁止となりました。

撮影:今村拓馬

日雇いは禁止されているのに、なぜスポットワークだとOKなのか?

それは「就業先で直接雇用する職業紹介は問題ない」という見解が行政から示されたためです。

ただ、利用企業側からすると日々紹介は直接雇用しなければならないため給与支払いや労働条件通知書発行といった労務管理の手間が発生する点において、日雇い派遣より手間のかかるサービスでした。そこに大きな変化をもたらしたのが、テクノロジーの発展と新たな行政見解です。

スマートフォンが生活必需品として生き渡る中で、ウーバーイーツなどのギグワークも広がり、アプリを通じた求人のマッチングの利便性が企業にも働き手にも認識されていきました。

一方、これまで紙での取り交わしが必須だった労働条件通知書の電子化や、給与支払い代行を容認する見解などが行政から示され、労務管理にかかる企業の手間も大きく軽減。アプリや給与支払い代行などをセットにした日々紹介、つまり現在のスポットワークが爆発的に広がっていくことになったのです。

さらに、スポットワークはより根本的な“パンドラの箱”を抱えています。それは日雇い派遣から日々紹介へと移行したころから、学識者を含む人材サービス業界内外で指摘されてきた「労働者供給」につながりかねないという懸念です。

雇用関係がないにも関わらず、日々繰り返し仕事を紹介するスポットワーク事業者と働き手との間に見えない影響力が生じて支配従属関係が構築されてしまうと、スポットワーカーの意思を無視した強制労働などにつながるリスクがあります。

例えば、働き手に不利な条件の仕事をめぐってスポットワークの事業者側が「この仕事を受けなければ評価を下げる」などと、仕組みを悪用するような不当に強い影響力を持ってしまいかねません。

現状では上記のような「労働者供給」にあたる顕著な事例は問題になっていないようですが、スポットワーク事業者とスポットワーカーにこうした主従関係ができてしまう状況こそが、問題と言えます。

これまでのところ、スポットワーク事業者は慎重に事業を構築してきたと感じます。ただ、競争が激化していく中で事業拡大を急ぎ過ぎると、安心・安全への配慮が後手に回ってしまいがちです。

スポットワークは、労働者供給に該当しかねないというパンドラの箱を考慮すると、懸念点がたくさんある状況で、加えて待機要員などと称して勤務条件の詳細が示されない、労働条件明示が不十分な求人が見られるといった綻びも見えてきています。

これらの状況からスポットワークは「グレーな制度」と批判する声もあり、こうした批判にきちんと答えていくことが重要になってきています。

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