アングル:デモ沈静化に手を焼くイラン、米ベネズエラ攻撃で「次の犠牲者」懸念も
[ドバイ 5日 ロイター] - 反政府デモの波が広がるイランでは、トランプ米大統領が抗議活動への介入の可能性を示唆して以降、当局の対応が試されている。当局者や内部関係者らの懸念は、米国がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したことでさらに強まっている。
米国は3日、マドゥロ氏とその妻の身柄を拘束し、ニューヨークに連れ去った。その前日、トランプ氏はソーシャルメディアへの投稿で、昨年末から発生した抗議デモへの参加者をイラン当局が殺害した場合、米国は「彼らを助けに来る」と警告した。これまでに少なくとも17人の死者が出ているという。
イラン当局の選択肢は限られている。トランプ氏による脅しのほか、昨年6月の米軍による核施設攻撃、イスラエルとの12日間にわたる戦争などにより、長年の経済危機は悪化の一途をたどっている。
<イランが「次の犠牲者」か>
「これら2つの圧力がイラン当局の行動の余地を狭めている。指導者らは、国民の怒りと米国からの強硬な要求の間で板挟み状態だ。実現可能な選択肢はほとんどなく、どの道もリスクが高い」と、あるイラン当局者はロイターに明かした。
他のイラン政府高官2人と、イラン政府に近い元高官1人も同様の見解を示した。繊細な問題だとして、いずれも身元を明かさないよう求めた。
2人目の関係者は、米国のベネズエラにおける行動後、当局の一部はイランが「トランプ氏の攻撃的な外交政策の次の犠牲者」になることを恐れていると述べた。
イラン経済は長年にわたる米国の制裁によって打撃を受けており、昨年の米国とイスラエルによる攻撃以来、通貨リアルは暴落している。攻撃の主な標的はイランの核施設で、西側諸国はイランが核兵器開発を進めていると主張する一方、イランはこれを否定している。
今回のデモは首都テヘランから西部、南部へと広がった。ただ、その規模は、クルド系イラン人女性マフサ・アミニさん(22)がスカーフのかぶり方を巡って風紀警察に拘束され死亡したことが発端となり、2022-23年に全土に広がった抗議活動には及ばない。
だが規模が小さいとはいえ、抗議内容は経済的な不満からより広範なものへと急速に拡大しつつある。一部のデモ参加者からは、全ての国家的事項で最終決定権を握る最高指導者ハメネイ師を指して「イスラム共和国を打倒せよ」「独裁者に死を」などと叫ぶ声も上がっている。
イスラエルと米国による攻撃を受けて国民の団結を目指してきたイラン当局にとっては難題だ。
3人目の関係者は当局内で「トランプ氏やイスラエルが、昨年6月のような対イランの軍事行動を起こすかもしれない」という懸念が高まっていると語った。
<ベネズエラと同盟関係>
イランは長年、同じ産油国であり、同様に米国の制裁に苦しんできたベネズエラと同盟関係にある。イランはベネズエラの首都カラカスでの米国の軍事行動を非難している。
イランは自国に対するトランプ氏の発言も非難した。外務省のバガエイ報道官は「(トランプ氏の)イランの内政に関する発言は、国際規範の下では、暴力、テロ、殺人扇動にほかならない」と述べた。
トランプ氏は2日、イランのデモ参加者が暴力を受けた場合には介入すると脅し、「われわれは準備万端で、いつでも行動できる」と表明したものの、行動の詳細については明かしていない。
抗議活動は、長年ハメネイ師が最優先課題としてきた「イスラム共和国の維持」を脅かすものだ。ハメネイ師が3日、「イスラム共和国の敵」が騒乱をあおっていると非難し「暴徒は分をわきまえるべきだ」と警告したことにも指導部の懸念が表れている。
<過去3年で最悪の騒乱>
当局は今回の騒乱に対し、相反する2つの対応策を講じている。経済への抗議は正当であり、対話によって対処するとしながら、一部のデモでは催涙ガスが使われている。
人権団体の4日時点の発表によると、それまでの1週間で少なくとも17人が死亡したという。当局は少なくとも治安当局者2人が死亡、10人以上が負傷したと発表した。
イランの宗教指導者らは、昨年の米国とイスラエルによる攻撃を今なお受け止め切れていない。イランと米国による6回目の核協議が予定されていた前日に攻撃が開始され、イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊(IRGC)」の司令官や核科学者らが殺害された。
米イラン双方は合意の可能性について前向きな姿勢示しているものの、6月以来、交渉は行き詰まっている。
米国と同盟国は、イランが核開発計画を隠れみのに兵器製造を進めていると非難した。一方、イランは核開発の目的はあくまで平和的なものだと主張している。
<深まる経済的苦境、足りない政策>
今回の騒乱も、背景には依然として経済への不満がある。
イランの一般市民と、特権的な聖職者や支配層エリートとの間に広がる格差は、行政の失策や急速なインフレ、汚職によってさらに深刻化し、国民の怒りに拍車をかけている。国営メディアもこれらの要因を認めている。
テヘランや北東部マシュハド、北西部タブリーズの主要な広場では現在、厳重な警備が敷かれているという。
「テヘランは緊迫した雰囲気に包まれているが、普段通りの生活が続いている」と同市のグランドバザールでカーペット店を営むアミール・レザさん(47)は語った。
ペゼシュキアン大統領は対話を進め、金融・銀行システムを安定させ、購買力を保護するための改革を行うと約束した。
政府系のタスニム通信が報じたところによると、政府は1月10日から、毎月1人当たり1000万リアル(約7ドル、1100円)を、一部の食料品店で使用可能な、現金化できない電子クレジットで支給するという。
この措置はささやかではあるが、月給が辛うじて150ドル(約2万3000円)を上回る程度の低所得世帯にとっては意味のあるものだろう。イランリアルの対ドル相場は昨年ほぼ半減し、12月の公式インフレ率は42.5%に達している。
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