FRB議長「米経済の不確実性高い」、市場介入には慎重姿勢

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、米経済成長は減速しつつあるという見解を示した。1月29日、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)

[シカゴ 16日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は16日、最近の市場の変動はトランプ政権による関税政策の劇的な転換を論理的に消化しているためで、ストレスの兆候ではないとして介入に慎重な姿勢を示した。

FRBは金利を変更する前に経済の方向性に関するさらなるデータを待つとも述べた。同時に、関税政策によってインフレ率と雇用がFRBの目標からさらに遠ざかるリスクがあると警告した。

シカゴ経済クラブでの講演で「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、より明確な状況が明らかになるまで待つことができる」と述べた。

質疑応答では、関税によってインフレが押し上げられる一方で、経済成長と雇用が弱まるという、FRBにとって難しい状況が生まれる可能性を示唆した。

トランプ大統領が発表した関税措置について、これまでのところ、FRBの当初の試算に盛り込まれた最も深刻なシナリオよりも影響が大きいことが判明したとし、このため「FRBは年内を通じて二大目標(の達成)から遠ざかる公算が大きい。経済が減速するにつれて、失業率はおそらく上昇する。関税の影響が経済に浸透するにつれて、インフレも上昇する可能性が高い」と警戒感を示した。

トランプ政権の関税計画は企業や経済学者に研究すべき明確な類似例を提供しない「根本的な転換」だとも述べた。

乱高下している市場の状況については「困難な状況にあっても、市場は機能している。本来あるべき動きをしており、秩序立って、ほぼ予想通り機能している」とし、FRBが市場のボラティリティー(変動性)抑制に向け介入する期待は見当違いである可能性を示唆。

市場が急落した場合に中銀が介入する「FRBプット」があるかとの質問に対し「説明を添えてノーと言うつもりだ」と応じた。

トランプ政権の関税政策による大きな変化を考えると、市場が苦戦するのは当然だとした上で、何が問題を引き起こしているのかをリアルタイムで把握するのは非常に難しい場合もあると指摘。

「私はこれまでに、大きな動きを何度も経験してきた。例えば2カ月後に振り返ってみると、初期の見方は全く間違っていたと気づくことがある。このため何が起こっているのかを正確に言うのは時期尚早だと思う」と述べた。

現状では、市場に打撃を与えている要因の一部はヘッジファンドによるレバレッジ、つまり負債の削減にあるようだとし、「当面はボラティリティーの高い状態が続くだろう」とした。

また、FRBは必要に応じ、他の中銀とのスワップラインを通じてドルの流動性を供給する用意があると述べた。「ドルが確実に入手できるようにしたい」とし、「米消費者にとって良いことだからだ。ドルが準備通貨であることの一環として実施する」と述べた。

パウエル議長の講演前にすでに下落していた米国株は、講演後に下落幅を拡大した。バラスト・ロック・プライベート・ウェルスのシニア・ウェルスアドバイザー、ジム・キャロル氏は、「パウエル議長は中立的な立場を取ると予想されていたが、実際にはタカ派的な姿勢を見せた。FRBが株式市場にプットオプションのようなものを用意しているかと問われたとき、議長の答えは『ノー』だった」と指摘した。

<高まる不確実性>

米経済成長についてパウエル議長は、減速しつつあるという見解を示した。消費支出は緩やかに増加しているものの、関税を見越した輸入急増は国内総生産(GDP)見通しを圧迫する公算が大きく、景況感も悪化していると述べた。

「不確実性と下振れリスクが高まっているにもかかわらず、米経済はなお堅調な状況にある」とした一方、「これまでに入手されたデータは、第1・四半期の成長は昨年の堅調なペースから鈍化したことを示唆している」と指摘した。

エコノミストの間で今年を通じて成長鈍化が予想されているほか、「主に貿易政策への懸念を反映し、家計と企業は信頼感の急激な低下と見通しを巡る不確実性の高まりを報告している」と述べた。

また「関税は少なくとも一時的にインフレを上昇させる可能性が非常に高い。インフレ効果がより持続的になる可能性もある」とし、「そうした結果を回避できるかどうかは、関税の影響の大きさ、それが価格に完全に転嫁されるまでにどれだけの時間がかかるか、そして最終的には長期的なインフレ期待をしっかりと安定させられるかどうかにかかっている」と言明した。

関税の影響で短期インフレ期待の指標は「大幅に上昇した」ものの、FRBが最も注視するより長期的なインフレ期待はFRBのインフレ目標と引き続き一致しているとも指摘した。

労働市場については「堅調な状況」にあり、「最大雇用、もしくはそれに近い状態」と評価した。

FRBがインフレと失業率の上昇の双方に直面した場合、「経済がそれぞれの目標からどれだけ離れているか、それぞれのギャップが解消されると予想される時間軸がどの程度異なるかを考慮するだろう」と述べた。

金融市場はFRBが最終的には雇用悪化を和らげるために行動し、年内に計1%ポイントの利下げを実施するとの見方を強めている。利下げ開始時期は依然として6月と予想されているが、パウエル議長の発言を受け、年内4回の利下げ観測が強まった。

パウエル議長はトランプ政権による独立機関当局者の解雇を巡る最高裁の判断を注視しているとも言及したが、FRBの独立性は議会のみが変更できる法律の問題だと指摘。金融政策の策定は経済に基づき、「政治やその他の外部要因を考慮せずに」行うと強調した。

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Covers the U.S. Federal Reserve, monetary policy and the economy, a graduate of the University of Maryland and Johns Hopkins University with previous experience as a foreign correspondent, economics reporter and on the local staff of the Washington Post.

Reports on the Federal Reserve and the U.S. economy. Stories can be found at reuters.com.

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