社福法人が架空契約根拠に農地転用を申請 元地権者「明らかな虚偽」
栃木市内の農地を転用し、福祉施設を開設した社会福祉法人「天成会」(栃木市大平町、島田耕輔理事長)が、元地権者と架空の土地賃貸借契約を根拠に農地法の農地転用を申請し、市農業委員会が転用を許可していたことが分かった。賃貸人とされた元地権者側の一人が今年4月、虚偽申請だとして行政不服審査法に基づき、農業委員会に調査を求めた。
市などによると転用された農地は同市藤岡町赤麻地区にあり、市の入浴施設「渡良瀬の里」の西側隣接地9255平方メートル。旧藤岡町(現栃木市)が地権者10人から借り、市民農園として使われていたが、2021年度で閉園した。22年3月、賃貸借契約の終了に伴い、市は地元の自動車販売・修理会社グループによるキャンプ場開発構想を理由に、原状回復を免れたという。
Advertisement23年1月には同グループが地権者対象の開発計画の説明会を開くなど具体化し、地権者は同年6月ごろまでに傘下のバス会社と土地の売買契約を結んだ。市農業委員会は同9月、転用を許可し、天成会は24年10月に福祉施設を開設。同月からバス会社と天成会の土地使用賃借契約(無償)を結んでいる。登記簿によると、同月23日に所有権がバス会社に移った。
架空の賃貸人とされた元地権者側には転用許可は通知されておらず、この間、地権者側は、契約相手のバス会社が譲受人として転用手続きを進めたと思っていたという。ところが、元地権者の一人、石川邦雄さん(78)が市に情報開示請求した23年8月23日付の農地転用の許可申請書によると、譲受人には「(賃借人)」として「社会福祉法人 天成会」とあり、30年間の賃貸借権を設定し福祉施設に転用するという内容だったことが判明した。譲渡人には「(賃貸人)」として「様式第1―4号のとおり」と記載され、同様式には石川さんの名前、住所、電話番号が記載され、他の9人分については部分的に黒塗りされていた。
石川さんは「驚いた。天成会との賃貸借契約など存在しないし、合意したこともない。そもそも、申請は、バス会社との売買契約締結後であり、賃貸借はありえない」と指摘した。確認できた他の地権者も契約の存在を否定したといい、「明らかな虚偽申請。社会福祉法人は施設建設で国や県に補助金を申請したと聞いている。自分自身が加担していないことを証明したい」と行政不服審査の請求理由を明かした。
毎日新聞の取材に対し、天成会の島田理事長(47)は「元地権者との契約はない」と認めた。その上で「転用許可は、事実上の所有者のバス会社を譲渡人として申請しようとしたが、農業委員会事務局から登記上の名義人以外はダメと指摘され、元地権者に変更した」と経緯を説明。さらに「土地の権利関係について事務局に説明しており、譲渡人の変更は事務局からの指導ととらえている。賃貸借契約に関しての指摘はなかった」と話した。
これについて、市農業委員会事務局は「譲渡人は登記上の名義人と農地法が定めており、それを申請者に説明し、受理できる状態で申請を受けたということ。賃貸借による転用だったとしてもそれを証明する契約書の写しなどの添付は不要で、あくまでも提出された書類で審査した」と釈明。また、「許可を受ける側にのみ許可証を交付しており、譲渡人側には通知していない。譲渡人が処分結果を知らないことはありうる」と話した。
農地転用制度を所管する農林水産省は都道府県や市町村向けの運用の指針「農地法関係事務処理要領」で、賃借権など所有権以外の権利に基づき農転申請する場合、「所有者の同意があったことを証する書面」の添付を求めており、都道府県や市町村に通知している。関東農政局は「賃貸借契約であれば、契約書が同意を端的に示す書面になる。法は契約が真性か否かのチェックまでは要求していないが、同意が不要ということではない」と話している。
今回の転用許可を巡っては、申請した天成会も当該農地の賃貸借契約がなかったことを認めている。しかし、申請の適正性、審査、処分の正当性について、市農業委事務局は「申し上げられない」と判断を示さず、行政不服審査請求への対応についても「対応中としか申し上げられない」としている。【太田穣】