侵攻後の統治という難題:中国は台湾をどう支配しようとしているか
安全保障系の論壇誌「War on the Rocks」に掲載された論考が注目を集めている。著者はRANDコーポレーションの中国研究者ジュード・ブランシェットと、ローウィ研究所上級研究員リチャード・マクレガー。台湾をめぐる議論が「どう取るか」に偏りすぎており、「取った後にどう統治するか」という、より本質的な問いが軽視されていると指摘する論考だ。
習近平国家主席 中国共産党新聞より
中国国内に存在する「統治不安」の萌芽
2024年8月、厦門(アモイ)系シンクタンクの研究者たちが異例の論文を発表した。内容は、中国大陸に台湾の影の政府をただちに樹立し、統一後の全面接収に備えよというものだった。論文は台湾内部での統一支持が深まるどころか後退していること、香港モデルは台湾には適用できないこと、中国当局者の多くが台湾の政治・社会状況についての基礎知識すら欠いていることを率直に認めていた。論文はまもなく中国のインターネットから削除された。その事実自体が、このテーマの繊細さと、こうした率直な議論の稀少さを物語っている。
「取ること」より「統治すること」のほうが難しい
台湾をめぐる国際的な議論は海上封鎖や軍事侵攻のシナリオに集中しがちだが、著者らはそこに問題があると指摘する。軍事的勝利を達成したとしても、それは台湾問題を解決しない。むしろそこから、統治・行政上の難題、正統性の欠如、占領勢力と抵抗社会の長期的対立という、より困難な局面が始まる。
台湾は高所得の自由民主主義社会であり、強固な政治的アイデンティティ、充実した市民社会、独立した法文化、活発なメディア、そして半導体を中心としたグローバル経済への深い統合を持つ。こうした社会を力で統治することは、中国にとって政治・経済・安全保障上の高い恒久的コストを意味する。
数字が示す統治の困難さ
台湾の陸委会(Mainland Affairs Council)の世論調査によれば、台湾の成人の約7%(約130万人)が独立の即時宣言を支持している。北京の支配下ではそうした立場を維持するだけで投獄リスクを負う。さらに民進党の支持者は有権者全体の約3分の1、約650万人に上る。官僚、弁護士、ジャーナリスト、市民社会活動家に至るまで、中国共産党への忠誠を示さなければ職を失うか収監される可能性がある。
著者らはここで新疆ウイグル自治区の事例に言及する。習近平の指示のもと、2017年以降に最大100万人のウイグル族やカザフ族が収容施設に送られ、思想改造を受けた。中国共産党がそうした大規模な抑圧を行う意志と能力を持つことは疑いようがない。
「平和的統一」から「完全統一」へ――北京の言語シフト
冷戦後、北京の台湾政策は「平和的統一」と「一国二制度」を旗印としてきた。鄧小平時代には、台湾が中華人民共和国の一部であると認めさえすれば、独自の統治・経済・社会制度どころか軍すら維持してよいという提案もあった。
しかし近年、こうした柔軟な言語は「祖国の完全統一」という表現に置き換えられている。「完全」という言葉は、台湾の独自の政治的アイデンティティを単に管理するのではなく、完全に消滅させることを意味する。かつて北京は、両岸の経済統合や人的交流が台湾のアイデンティティを徐々に軟化させると楽観視していた。しかし現在の中国の学術論文は悲観的だ。多くの研究者が、数十世代にわたる分断によって台湾に独自のアイデンティティが形成されており、それは民主的自治と権威主義統治への抵抗に根ざしているという現実を認めるようになっている。
クリミアモデルの「使い勝手の良さ」と「限界」
中国の学術・政策論文のなかで最も注目を集めている事例はロシアによるクリミア併合だ。迅速な接収と政治的定着という点で参照に値するモデルとして論じられることが多い。しかし著者らは、台湾の民主的なアイデンティティの強固さを考えれば、クリミアとの類比は成立しないと論じる。クリミアの教訓が北京にとって有用なのは、それが素早く確保されたという一点に尽きると指摘する。
台湾を強くすることが最大の抑止力
論文は最後に政策提言へと向かう。台湾への武器売却による防衛力強化は不可欠だが、それと同等に重要なのが、台湾を北京にとって「飲み込みにくい」社会にすることだと著者らは主張する。台湾の民主主義制度そのものを強化すること——それが中国共産党の統治モデルとの根本的な非適合性を高め、長期的な抑止力になるという論旨だ。
「台湾にとって最大の難問は軍事的征服ではなく統治だ。強制によって達成された安定は正統性とイコールではない。社会は静かでも政治的に疎外されていることがあり、秩序だっていても内面では抵抗し続けることがある」
台湾問題は軍事シナリオの外でも語られなければならない。この論考はその視座を提供している。