ローマのイルカたちが激しく争い傷だらけに、何が起こっている?

イタリア、ローマのイルカには、異常なほど多くのかみ痕が見られる。(PHOTOGRAPH BY DANIELA SILVIA PACE, CONISMA-TOR VERGATA UNIVERSITY OF ROME)

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 永遠の都ローマは、その歴史、芸術、文化、食で知られているが、そこからわずか1時間足らず、テベレ川がティレニア海に注ぐ場所に、さらにユニークな存在がいることを知る人は少ない。約500頭のハンドウイルカだ。ところが4月21日付けで学術誌「Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems」に発表された研究によれば、このイルカたちは傷だらけで、しかも、激しく争った痕があるという。

 研究者たちが「カピトリーノのイルカ」と名付けたこのイルカたちは、数千年にわたってローマ近郊の沿岸部に暮らしてきた。テベレ川の河口に位置するオスティア・アンティカ遺跡のモザイク画には、漁師の網から魚を盗む2000年前のイルカが描かれている。しかし、本格的な研究が始まったのは2016年だ。

 この海域には、年間を通じて約500頭のイルカが滞在し、そのうち約100頭は、餌が豊富なテベレ川の河口付近に定住している。そのほとんどがメスと子どもだ。そのため、この海域は、オスが交尾のために集まる重要な繁殖地となっている。

 イタリア、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究者ダニエラ・シルビア・パーチェ氏は、カピトリーノのイルカを10年間にわたって研究してきた。氏らは最近、この海域で2016年から2023年にかけて撮影された39頭のイルカの写真400枚以上を分析した。

 これらのイルカは非常に多くの圧力にさらされており、「明らかに憂慮すべき実態が見えてきました」とパーチェ氏は述べている。

ローマ近郊の海で、2頭のオスイルカが激しく争っている。(PHOTOGRAPH BY DANIELA SILVIA PACE, CONISMA-TOR VERGATA UNIVERSITY OF ROME)

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 パーチェ氏らはイルカの体にある傷痕を数え、傷の程度を測った。クジラ類の傷痕の分析は、生活や健康状態、さらされている脅威について多くの情報が得られるため、科学者たちがよく用いる手法だ。

 今回の研究結果は、希望に満ちているとは言い難い。「残念ながら、テベレ川河口を含む地中海におけるハンドウイルカの状況は、特に憂慮すべきものです」とスペイン、ハンドウイルカ研究所の所長を務める生物学者のブルーノ・ディアス・ロペス氏は述べている。氏は第三者の立場で、「非常に興味深く、価値がある」研究だと評価している。

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