海図なき世界 軍拡時代と経済 いびつな成長との一体化

米パランティア・テクノロジーズのピーター・ティール会長(左)による表敬を受け、写真撮影に臨む高市早苗首相=首相官邸で2026年3月5日、平田明浩撮影

 国際的な緊張の高まりを受けて各国が軍備増強を急いでいる。危うさを増幅させているのは、経済成長と結びつけ、相乗効果を狙う動きだ。一体化は軍拡に拍車をかけ、世界経済の安定を損なう。極めていびつな政策である。

 ストックホルム国際平和研究所によると、2025年の世界の軍事費は約460兆円と11年連続で増加し、過去最大を更新した。

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 米中の覇権争いが背景にある。ロシアのウクライナ侵攻が続く中、米国に迫られた欧州も増額を決めた。35年には1000兆円規模に達するとの予測もあり、世界は「軍拡時代」に突入している。

 軍事費が最大の米国では、経済をけん引する人工知能(AI)の関連企業が政府と関係を深めている。データ解析大手のパランティア・テクノロジーズは、どの標的を攻撃すべきか瞬時に導き出すシステムを提供する。イラン攻撃では要の役割を担い、トランプ大統領から称賛された。

国民生活圧迫する恐れ

 共同創業者のカープ氏らが著し、ベストセラーとなった「テクノロジカル・リパブリック」はIT業界がこれまで軍事と距離を置いてきたことを批判する。「国防と国家理念の立案に積極的に関わる義務がある」と主張している。

 高市早苗政権も防衛産業を成長戦略の看板に据えた。利益を生まない分野とみなしてきた歴代政権の姿勢を転換し、政府が重点的に投資する方針を表明した。

攻撃型ドローン「バンパイア」の飛行訓練=ウクライナ東部ハルキウ州で2026年2月20日、宮川裕章撮影

 代表例がウクライナ戦線で主力兵器となっている無人機(ドローン)だ。国が大量購入することによって民間の量産体制を確立し、人手不足が深刻な物流業界などでも活用する。こうした「防衛と経済の好循環」を目指すという。

 米国に次ぐ軍事大国の中国も習近平国家主席の肝煎りで、AIなどでの「軍民融合」を推進する。

 根底には、民間の最先端技術を軍事に転用する「デュアルユース」が急速に拡大したことがある。軍事力と経済力を同時に強化できるともくろんでいるのだろう。

 だが軍事費を増やせば、経済的に豊かになるわけではない。

 国連の試算では、雇用創出の効果は教育や医療、クリーンエネルギーに投資するよりも小さい。国際通貨基金(IMF)も、短期的には需要を刺激するが、物価高を助長し、景気を持続的に押し上げることは困難と警告している。

 国民生活も圧迫しかねない。軍事費捻出のため、フランスや英国は社会保障関連の予算を減らす方針を示し、世論の反発を買った。ポピュリズム政党が不満の受け皿となって勢力を伸ばしており、政治の不安定化が懸念されている。

 「軍事費の増額を契機に、政治や社会の先行き不透明感が高まると、消費や設備投資が控えられ、経済が停滞するという悪循環に陥りかねない」。日本総研の立石宗一郎副主任研究員は指摘する。

「平和の配当」守らねば

 軍事支出が経済政策の柱として組み込まれると、増大に歯止めがかからなくなる恐れもある。

冷戦終結後、初めて主要7カ国(G7)首脳と協議するゴルバチョフ・ソ連大統領(手前右)。左はブッシュ米大統領=ロンドンで1991年7月17日、同行記者団撮影。肩書はいずれも当時

 米ソ冷戦期には経済効果を積極的に認める考え方が根強かった。多額の軍事費を正当化する狙いもあり、公共事業による需要創出を唱えたケインズにちなんで、「軍事ケインズ主義」と呼ばれた。

 だが「不確実性の時代」などの著作で知られる米経済学者のガルブレイスは「米経済は拡大したが、社会的緊張は増えこそすれ、決して減りはしなかった」と分析した。「拡大を生み出す支出が軍事支出である場合、都市のゲットー(貧困地区)の苦しみをやわらげるのに大いに役立つと考える人は多くなかろう」と批判した。

 軍事に巨費をつぎ込み続けた末、ソ連は崩壊し、米国経済も疲弊した。軍拡競争が不毛な結果に終わることは歴史が証明している。

 冷戦後の世界は多くの「平和の配当」を得てきた。東西の壁が崩れ、グローバルな経済活動が活発化した。削減された軍事費は民生分野に充てられた。米軍が独占していたインターネットは民間に開放され、技術革新を後押しした。

 世界の国内総生産(GDP)は約5倍となり、各国の経済が底上げされた。極度の貧困状態にある人は約15億人減ったとされる。

 今や米露の軍事行動が原油や食料の高騰を招き、世界経済を圧迫している。軍事費の増加が続けば、景気が更に悪化しかねない。

 国際社会は歴史の歯車を逆回転させてはならない。分断を食い止め、平和の配当を守り抜くべきだ。

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