米中関税合戦はチキンレースの様相、貿易巡る「核戦争」憂慮する声も

トランプ米大統領は対中関税を計104%に引き上げ、習近平国家主席を交渉の場に引き出そうとしている。一方で中国側は「最後まで闘う」と宣言しており、今後の焦点はどちらの指導者が先に折れるかという点だろう。

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  トランプ氏は相互関税を予定通り発動させる数時間前、「中国も切実に取引を望んでいるが、どう始めればいいのか分かっていない。われわれは連絡を待っている」と述べていた。

  匿名を条件に語ったホワイトハウス関係者によると、トランプ氏は自分が習氏よりも優位に立っており、中国側を交渉につかせることができると考えている。というのも、中国はすでに供給過剰の問題に直面しており、輸出主導の経済回復を図っている最中だからだ。同関係者は、「中国が米国以外で新たな市場を見つけるのは困難だろう」と語った。

  しかし、習氏が屈する兆候は見られない。中国政府は9日、米国から輸入する製品に対する関税を84%に引き上げると発表。これを受け、米国をはじめとする世界の金融市場はさらに混乱した。中国国営メディアと関連のある微博(ウェイボ)のアカウントは先に、「中国は争いを望まないが、争いを恐れることもない」とし、「交渉の扉は閉ざされていないが、このようなやり方では実現しないだろう」と警告していた。

  中国を専門とする調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの中国調査担当副ディレクター、クリストファー・ベドー氏は「現状、これは米中貿易にとってほぼ核戦争シナリオだ」と指摘。「これ以上ない最悪の事態だ」と語った。

  米中経済のデカップリング(分断)がもたらすリスクは深刻だ。中国からの輸入品の価格が上昇すれば、米消費者にとっては物価の上昇を意味する。そうなれば、米金融当局のインフレ抑制の取り組みにも影響を及ぼす。

  しかし、トランプ氏は、目標を達成するためには苦痛を甘受する必要もあるとしており、6日には「何かを治すには薬を用いなければならないケースもある」とも述べていた。

  また、米大統領経済諮問委員会(CEA)のミラン委員長は「米国が主導権を握っているのは誰もが知っている。だからこそ彼らは緊張緩和を目指し、譲歩を申し出るべきだ」と、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで語った。

  一方でブルームバーグ・エコノミクスの分析によると、トランプ関税は中国の経済成長率を大きく押し下げるリスクがある。野村ホールディングスのチーフ中国エコノミスト、陸挺氏は米中指導者の対立を「代償の大きいチキンレース」だとし、中国経済に及ぼす潜在的な打撃について、現時点では「合理的に見積もることは不可能」と述べている。

  中国の李強首相は8日、トランプ米政権の「相互関税」の完全適用開始が9日に迫る状況で、悪影響を及ぼす外的ショックを「完全に相殺」できる十分な政策手段が中国にはあると語った。今年の同国経済成長についても楽観的な見方をあらためて示した。

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  トランプ氏とは異なり、習氏は選挙を気にする必要がなく、人民元を意のままに切り下げることも可能だ。中国財政省は最高指導者の承認さえあれば、迅速に財政刺激策を実行に移すことができる。

  S&Pグローバル・レーティングのアジア太平洋地域チーフエコノミスト、ルイス・クイジス氏は、輸出は中国の国内総生産(GDP)の20%未満に過ぎないと指摘し、同国にとって現時点で重要なのは消費を刺激することだと述べた。

  中国の政策担当者はすでに内需拡大を優先課題に掲げているが、長年続いた不動産不況で打撃を受けた消費者の財布のひもをどうやって緩めさせるかについては、依然として課題が残っている。

  米中間に横たわる問題は「文化的な断絶」に集約されると話すのは、ING銀行(香港)のチーフエコノミスト(大中華圏担当)リン・ソン氏だ。

  「中国では、面目や対等な立場での交渉に高い価値が置かれてる」と同氏は指摘。「だからこそ、このような突然の攻撃的な態度は、屈服ではなく報復を招くことになる。それは、あまり建設的だとは思えない」と語った。

原題:Trump-Xi Standoff Upends Global Trade With Neither Side Budging(抜粋)

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