内臓脂肪を減らす薬「アライ」発売から1年…“油漏れ”の実態、実際の服用者が語る効能とは?|ニフティニュース
お腹まわりが気になるけれど、運動や食事制限だけでは思うように成果が出ない。そんな悩みに応えるべく登場したのが、大正製薬の「アライ」だ。日本で初めて“内臓脂肪を減らす”効能を持つ一般用医薬品として承認され、発売から1年が経った。本記事では、実際にアライを服用し続けており薬剤師でもある関口周吉氏にインタビュー。体験を踏まえて、効果や特徴を語ってもらった。
■日本初の「内臓脂肪を減らす薬」――アライとは何か?
「お腹まわりについた肉が気になるけれど、なかなか減らない」、あるいは健康診断で内臓脂肪型肥満を指摘されたり、食事や運動を頑張っても思うように結果が出なかったりする人も多いだろう。そうした声に応える形で2024年に登場したのが、大正製薬の一般用医薬品「アライ(alli)」である。
アライは、日本で初めて市販が認められた“内臓脂肪を減らす薬”だ。発売に至るまでには16年もの開発期間がかかっており、OTC(処方箋無しで薬局で購入することができる薬)として発売されるまでも慎重な議論が交わされてきた。
メカニズムは、とてもシンプルだ。主成分オルリスタットが腸の酵素(リパーゼ)の働きをブロックし、食事でとった脂肪の一部を吸収させず、そのまま便として外に排出する。
計算上は、1カ月続けると約4,110kcal分のエネルギーをカットでき、これはウォーキング20時間分に相当するとされている(オルリスタットの作用メカニズムから考察した理論値)。
だが副作用として油状の便や便漏れといった症状が出ることがあり、発売後はネット上でも話題になった。
発売時に話題になったものの、服用を続けたというレポートはあまり見かけない。実際に服用すると体内にどんな変化が起こるのか。
■服用者が語るアライの実感
ドラッグストアチェーン「クスリの龍生堂薬局」を展開する龍生堂本店の代表取締役社長であり、薬剤師でもある関口周吉氏は、アライの効果を実感し、現在も服用を続けている一人だ。
アライが登場した際、驚きを覚えたという。
「発売時に『内臓脂肪を減らす薬』と効能が書かれていて、まず驚きました。これまでは健康食品やサプリメントはありましたが、医薬品として正式に効能効果が認められたのは大きな違いです」
もっとも、関心を抱いたのは薬剤師としてだけではない。関口氏自身、人間ドックで肥満傾向を指摘され、高血圧や糖尿病のリスクを意識していたため、試してみることにしたという。気になる服用後の効果について、関口氏はこう振り返る。
「実際に服用を始めると、数カ月経ったころに体重としては4~5キロ落ちてベルトの穴がひとつ分縮まり、数字として腹囲が約3センチ減っていることに気づきました。副作用的な面では、油分が排出される影響か、肌の乾燥を感じましたね。特に冬は皮脂が減ったような感覚がありました」
副作用として知られる油分の排出についても、関口氏は「報じられているほど深刻ではなかった」と話す。脂質の多い料理を食べた翌日には便に油が混じるが、日常生活に支障をきたすレベルではなかったという。
特に印象的だったのは、食事内容と結果の対応がはっきり見えたことだ。「たとえば、もつ鍋を食べた翌日には油が多めに出ました。でも、あっさりした食事をとった日はほとんど気にならない。むしろ『脂肪がそのまま外に出ている』のが見えるのは面白いくらいで、効いている証拠だと感じました」と振り返る。
この体験は、単なる副作用というよりも「生活習慣を見える化する機能」として意味を持った。たとえば、ストレスで過食してしまったときにも便の状態を通じて「ああ、食べすぎたな」と自覚できる。
数字の変化に加えて、日々の食行動と身体の反応を直接リンクさせて実感できることが、継続のモチベーションになったという。
■無理なく続けるコツと、購入ハードルの実態
アライは1日3回、食事のタイミングで服用するのが基本とされる。しかし関口氏は「完璧に守ろうとしすぎないことが大切」だと強調。現実的には、仕事や生活のリズムによって毎回きっちり服用するのは難しいこともある。
「もちろん用量として記載されているように1日3回が理想だと思います。ただ、多忙なビジネスパーソンにとって昼は仕事で服用が難しいケースもありますよね。私自身も昼はなかなか難しいので夜だけにする日もありますし、逆に土日は時間に余裕があるので3回きちんと飲みます。大事なのは、自分の生活に合わせて調整し、生活習慣を改善するために無理なく取り入れられるかどうか、だと思います」
アライは要指導医薬品に分類される。そして購入時には生活習慣の改善記録の記入が求められる。だが関口氏は「身構える必要はない」と言い切る。
「そんなに重く受け止めなくていいと思います。確かにルールなので記入は必要ですが、1週間ごとにどう過ごしたかを思い出して書くだけ。しかもシートは薬剤師が保管するわけではなく、本人に返されます。
大切なのは『記録を残すこと』ではなく『自分の生活を振り返ること』。たとえば『昨日は少し食べてしまったな』と思い返すだけでも意味があります。薬剤師も『完璧に書いていないと販売できません』という対応ではなく、『思い出せる範囲で書いてください』と伝えるはずです」
一方で、購入対象者が限られていることについては課題を感じているという。
「パターンとして多いのは、BMIや腹囲が購入基準を超えてしまっているために販売できないケースです。こうした人たちに届けられないのはもったいないなと個人的には思います。日本の医療費を抑制するには生活習慣病の患者を減らすことが大事ですし、アライには、その一助となるポテンシャルがあると思っていますので」
■購入条件をしっかりチェック
関口氏の発言にもあったように、アライは誰でも自由に買える薬ではない。サプリメントのように気軽に購入できる商品ではなく、医薬品という側面があるため、正しく使わなければ思わぬ副作用が出る可能性がある。
そのため利用できる人の条件が定められ、必ず薬剤師と相談しながら購入する仕組みになっている。裏を返せば、それだけ安全性と適正使用を重視した薬だということでもある。
対象となるのは18歳以上で、腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、かつ食事や運動など生活習慣病対策に取り組んでいる人。ただし、BMIが35を超える高度肥満や、BMIが25以上で糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併している場合は対象外だ。
また販売は「要指導医薬品」に区分されているため、薬剤師が常駐する店舗でしか取り扱われていない。実際の購入では、薬剤師に相談し、質問票に答え、生活習慣の記録を提示することになる。
ただし必要なのは直近1か月分の記録で、週1回、最低4回分を記してあれば十分だ。準備が整っていなくても、その場で書き込めば販売できるケースもあるため、想像以上にハードルは高くないと言える。
アライは「飲めば痩せる魔法の薬」ではなく、生活習慣を見直し、改善を後押しするサポート薬だ。関口氏の体験が示すように、日々の食事や行動と向き合うきっかけとして、アライは確かな役割を果たすだろう。
もし「お腹まわりが気になる」「生活習慣を変えたい」と感じているなら、まずは薬局で薬剤師に相談してみてほしい。
取材・文/毛内達大
撮影/石田壮一