任天堂、スイッチ2で目指す1人1台の世界-ゲーム機のiPhone化へ
かつては家庭用ゲーム機を一度購入すれば、テレビの下に設置して電源を入れ、そのまま5年もしくはそれ以上使い続けるのが当たり前だった。1-2年で時代遅れになる心配があるスマートフォンとは異なり、ゲーム機はどちらかといえば「トースター」のように長く使われる家電に近かった。
そんなゲーム機の進化はこれまで、およそ7年に一度のサイクルで進み、「プレイステーション3(PS3)」から「プレイステーション4(PS4)」へ、任天堂の「ゲームキューブ」から「Wii」へと世代交代してきた。今回もその流れに沿い、「スイッチ2」が6月に登場する予定だ。
据え置き型としても携帯型としても遊べる革新的なゲーム機「スイッチ」が登場してから、すでに約8年が経過している。
「当時は本当に画期的だった」と語るのは、発売初日に初代スイッチを購入したジャック・カニンガムさん(32)だ。当時はニューオーリンズのレストランで働いており、休憩時間に「ゼルダの伝説」をはじめとする本格的なゲームを楽しむのが日課だったという。「シフトの合間に制服を着たまま『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を遊べるなんて、本当に衝撃だった」と振り返る。
今回、任天堂は単に新型への買い替えを促すだけでなく、「一家に複数台」を普及させることを狙っている。
スイッチ2は大幅の性能向上を遂げている。約8インチの大型画面に加え、より高性能なプロセッサーを搭載し、音声・ビデオチャットを通じた共有体験などソーシャル機能も強化された。米国での販売価格は449ドルと高価格帯に位置づけられるものの、初期の販売台数は歴代機種を上回ると見込まれている。日本国内では抽選販売に想定を大きく上回る約220万人が応募し、古川俊太郎社長が自社のX(ツイッター)で謝罪する事態にもなった。
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初代スイッチの登場からは8年が過ぎたが、それほど長い時間がたったようには感じられないかもしれない。その理由の一つは、任天堂が2019年に小型版の「スイッチライト」を投入し、2021年には画質を大幅に向上させたOLEDモデルを発売するなど、改良版を継続的に投入してきたためだ。また新型コロナ禍によるロックダウン下では「デジタル逃避先」として人気を集めるという幸運にも恵まれた。この時期にスイッチを購入した人も少なくないだろう。
そうした流れで「一家に2台」という家庭も増えてきた。任天堂も2021年の報告書で「一家に1台」から「1人1台」への移行を視野に入れた方針を打ち出している。これはまさに、ゲーム機のiPhone化とも言える現象だろう。新機種が定期的に登場し、旧モデルは兄弟姉妹や祖父母に引き継がれていく。結果として、家族の誰もが「自分専用の端末」を持つようになる。今や、電話を家族で共有している姿はなかなか思い浮かばないだろう。
任天堂がそれを明言することはないだろうが、2025年のスイッチ2をあえて見送り、より高性能な改良版が2027年に登場する可能性に賭けるという選択肢もあり得る。
ただ、待つのも容易ではない。スイッチ2には広大な世界を舞台にした「マリオカート ワールド」や、人気キャラクターがあらゆるものを破壊しまくる「ドンキーコング バナンザ」など専用タイトルが続々と登場する。また従来機との互換性もあり、スイッチ同士での連携機能も強化されていることから、家族や友人グループで複数台を保有すれば多彩な楽しみ方が可能になる。
現在はゲームソフト大手テイクツー・インタラクティブ・ソフトウェアに勤めるカニンガムさんは、最近開催された一般向けの体験イベントでスイッチ2に触れた。その印象について「最高だった」と語っている。
そんなスイッチ2にも懸念材料が一つある。世界的な経済の混乱だ。任天堂はトランプ政権の貿易戦争による影響を受け、予約受付の開始を遅らせた。周辺機器の価格もすでに引き上げている。将来的に登場が見込まれる改良版を待つという選択肢も、あながち悪くはないのかもしれない。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Nintendo’s Goal for the Switch 2 Is a Console for Every Member(抜粋)