【日本市況】金利急低下、米中応酬で貿易戦争不透明-株安、円上昇

16日の日本市場は超長期を中心に金利が急低下(債券価格は上昇)。米中を中心とする貿易戦争の先行き不透明が強まっていたところに、補正予算の見送り報道が加わり、安全資産を志向する動きになっている。

  新発30年国債利回りは一時2.705%と前日終値から11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下した。20年や40年も大幅に下がった。関税を巡る米中のやり取りはエヌビディアボーイングといった民間企業も巻き込んで沈静化の兆しがなく、経済・物価の先行きが見えにくくなっている。ここに今国会に2025年度補正予算案が提出されないと伝わった。リスク回避から円が買われ、株式は売られている。

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  中国以外でも、欧州連合(EU)と米国の貿易交渉でほとんど進展はなかった。日本は赤沢亮正経済再生担当相が訪米して日米交渉に臨む。安全資産需要の強まりを象徴するように金価格が再び最高値を更新した。日米ともに債券相場のボラティリティーが高く、日本企業の資金調達に遅れが出始めている。

  三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、補正予算案を自民党が今国会で提出しない方針との報道があり、「買い安心材料」と述べた。米関税政策で日本経済への懸念を示した植田和男日本銀行総裁の記事も、「ハト派的な印象で債券買い方向の材料として意識されそうだ」と述べた。

国内の債券・株式・為替相場の動き-午後2時12分
  • 長期国債先物6月物は一時前日比59銭高の141円04銭に上昇
  • 新発10年債利回りは5.5bp低い1.31%
  • 新発30年債利回りは一時11bp低い2.705%に低下
  • 日経平均株価は前日比1.1%安の3万3890円08銭
  • 東証株価指数(TOPIX)は0.9%安の2490.95
  • 円相場は対ドルでニューヨーク終値比0.5%高の142円54銭

債券

  債券相場は大幅上昇。米長期金利が連日で低下した流れを引き継ぎ、買いが先行した。今国会での補正予算案見送りとの日本経済新聞の報道や日銀の植田総裁の産経新聞インタビュー記事も買いにつながっている。

  岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジストは、日銀総裁や補正予算見送りの記事をきっかけにこれまでの急激なスティープ(傾斜)化の反動が出ていると指摘。「日米交渉次第で日銀利上げ観測が再び高まる可能性があるほか、日銀買い入れオペで超長期債の売りが増えており、一方向的に低下はしにくい」と述べた。

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  日銀は16日午前の金融調節で、定例の国債買い入れオペを実施した。対象は残存期間1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、25年超で買い入れ額はいずれも前回オペと同額だった。オペ結果によると、応札倍率は残存期間1年超3年以下を除く3ゾーンが上昇し、市場での売り圧力の強まりを示した。

  超長期債は債務負担の増大に対する懸念と世界的な債券市場の混乱による売り圧力という二重苦に見舞われていた。物価高やトランプ米政権の関税措置への対応策として現金給付や消費税引き下げを要求する声が与野党から上がる中、財政拡張への警戒感から30年債利回りは14日に2.845%、20年債利回りは2.44%といずれも2004年以来の高水準を付けていた。

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株式

  東京株式相場は下落し、日経平均の下げ幅は午後に500円を超えた。米エヌビディアに対する対中規制強化による業績への影響が懸念され、人工知能(AI)関連株が下落して全体の足を引っ張っている。

  エヌビディアに製品を提供しているアドバンテストが一時7.4%安、ディスコやルネサスエレクトロニクス、ソシオネクスト、SUMCOも日経平均の値下がり率上位に入っている。

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  アシンメトリック・アドバイザーズの日本株式ストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は、エヌビディアはAI分野の先行指標として、半導体「H20」製品に米政府が対中輸出許可が必要になるというニュースの悪影響が「まだ市場に十分に理解されていないだろう」と述べた。「半導体製造装置の輸出規制はさらに厳しくなることが予想できる」と言う。

  みずほ証券エクイティ調査部の三浦豊シニアテクニカルアナリストは、開始予定の日本と米国の関税交渉への懸念も全体的なセンチメントに重くのしかかっていると指摘。「為替が議題に上がるだろうという思惑がある。為替が円高気味で動いており、それが日本株にとって上値を抑えるところになっている」と述べた。

  一方でエーザイは米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬について、欧州連合(EU)での販売承認を欧州委員会から取得したことを受けて一時4.9%上昇、日経平均とTOPIXの値上がり率上位に入っている。

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為替

  東京外国為替市場の円相場は1ドル=142円台半ばに上昇。週内に行われる日米通商協議に対する警戒感が強く、ドル売り・円買いが優勢だ。

  ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは、関税政策を巡る米トランプ政権への不信感がドル売りにつながっているとの見方を示した。日米通商交渉を経て米国への投資が増える結果、ドルは最終的に対円で上昇するとみていたが「ドル安が大きな流れになる可能性が出てきた」と述べた。

  SBIリクイディティ・マーケットの上田真理人金融市場調査部長は、関税を巡る米欧交渉がうまくいっておらず、ドルもユーロも買えない状態として、資金が円に向かっていると指摘。日米通商協議を前にした警戒感もあり、クロス円も含めて円高に振れる可能性があると話した。

この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。

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