リラ急落でキャリー取引暗転、機に乗じて逆張り参入するファンドも
トルコ・リラが4年ぶりの急落を記録した際、パベル・ママイ氏は待ちに待ったチャンスをつかんだ。
新興国市場に特化したヘッジファンド、プロメリタム・インベストメント・マネジメントの共同創業者でマネジングパートナーの同氏は、リラの10%下落を受け、マルチ戦略ファンドが売却を余儀なくされるだろうと考えたと振り返る。
19日早朝に国民の人気の高いイマモール・イスタンブール市長が拘束されたことにきっかけにリラは急落。海外の大手ファンドはトルコに対するエクスポージャーを急激に減らさざるを得なくなった。その結果、新興国市場で好パフォーマンスを記録していたトルコにおけるキャリートレードのリターンはマイナスに転じた。
キャリートレードとは、金利の低い通貨で資金を調達して、金利の高い通貨に換えて運用する取引だ。
海外勢が売る一方、ママイ氏はリラ資産の買いに動いた。これは混乱が中銀による支援につながり、金利が高水準に維持されるという正しい賭けとなった。高金利は19日までの5%を超えるキャリートレードのリターンを支えていた要因だ。
エルドアン大統領の政敵だったイマモール氏の拘束によって、同国の政治的リスクが強く想起させられた。国内金融機関は2021年以降で最悪のリラ安を食い止めるために約80億ドル(約1兆1900億円)の売却を余儀なくされたほか、トルコ中央銀行は20日の緊急会合で、翌日物貸出金利を2ポイント引き上げた。
ロンドンで6億5000万ドルを運用するママイ氏は「中銀にとって危険なのは外国人投資家ではない」と指摘。「外国人投資家全員が引き揚げたとしても中銀は十分な準備金を持っている。危険なのは国内だ」と述べた。
20日の市場では安定化の兆しが見られたが、HSBCホールディングスなどの銀行は、年内は売りがさらに進むリスクがあると警告している。
ブルームバーグ・エコノミクスのセルバ・バハールバジキ氏の推計によると、トルコ中銀が保有している2月末時点の準備金はネットで500億ドル余りと、キャリートレードによってトルコに流入した資金の約2倍にあたり、トルコ中銀は投機的な資金の流出に「十分対応できる」はずだという。
バハールバジキ氏は「主なリスクは外国人投資家のセンチメントが国内の貯蓄者に波及することだ」とし、そうなれば、中銀の準備金にさらに負担がかかるとした。
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一方、コメルツ銀行のFX調査責任者、ウルリッヒ・ロイヒトマン氏は、イマモール氏の拘束はエルドアン氏が自身の政治的目標達成のために市場の安定を犠牲にする覚悟があることを投資家に再び思い知らせたと指摘。「それはより高いリスクプレミアムを正当化する」と語った。
原題:Lira Rout Lures Hedge Funds as Favorite Trade Goes Negative (1)(抜粋)