パウエルFRB議長、「遅過ぎる男」のレッテルも政策ミスよりまし
関税政策による物価の急上昇が経済全体に波及しないよう決意を固めるパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長にとって、トランプ米大統領に「ミスター・トゥー・レイト(遅過ぎる男)」と呼ばれることは「間違った男」になるよりましだ。
つい数カ月前まで、パウエル氏率いる金融当局は米経済をソフトランディング(軟着陸)へと導いていた。インフレ率と金利が緩やかに低下し、失業率は低水準を維持する状況だ。だが、トランプ大統領の広範な関税措置でこうした展望は覆り、市場では今年の経済成長の鈍化とインフレ率の上昇が予想されるようになった。
これを受けてFRB当局者は、「経済を遅れてでも救う」戦略へと転換しつつある。インフレ抑制に向け金利を十分な期間据え置きながら、労働市場の崩壊を回避するため適切なタイミングで利下げができるよう準備をしておくというものだ。
BofA証券の米国担当シニアエコノミスト、アディティア・バーベ氏は、FRBは「間違えるよりも遅れることを好む」と指摘。彼らは物価安定と雇用最大化という両方の使命について、「状況の推移を見守るつもりだ」と述べた。
FRBは5月6-7日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、政策金利を据え置く見通しだ。
過去数週間、金融当局者らはトランプ氏の関税政策がもたらすインフレの影響が予想以上に持続する可能性があると警告し、物価上昇を抑えることがFRBの責務だと強調してきた。これは、失業率が大幅に上昇しない限り、物価見通しをコントロールするために金利を景気引き締め的な水準に維持することを意味する。
パウエル議長は16日のエコノミック・クラブ・オブ・シカゴでの講演で、「長期のインフレ期待をしっかり抑制し続け、物価水準の一時的上昇が継続的なインフレ問題にならないよう確実に対処することが、われわれの責務だ」と述べた。
こうした発言はホワイトハウスから即座に批判を浴び、トランプ大統領はパウエル氏に経済減速を回避するため、今すぐ金利を引き下げるよう求めた。
待つことにはリスクが伴う。失業率は通常、いったん上昇し始めると加速しやすく、経済は不況に陥る。だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後にインフレ急上昇を経験した金融当局は、早過ぎる利下げで物価上昇圧力が再び高まるリスクを回避したいと考えている。
一部のFRBウオッチャーは、遅い救済措置を成功させることは、パウエル氏のリーダーシップと経済洞察力、政策タイミングの最終的な試金石になると指摘している。
「これはパウエル氏にとって新たな試練だ」と、ニュー・センチュリー・アドバイザーズのチーフエコノミスト、クラウディア・サーム氏は指摘。「両方の使命が軌道から外れつつあり、FRBは選択を迫られることになる」とみている。
原題:For Powell, Being ‘Mr. Too Late’ Is Better Than Being Wrong(抜粋)