超美人だったらしい『ばけばけ』タエ(北川景子)のモデル 小泉セツが何度も聞いた「12歳での初婚」初夜の壮絶な体験談とは

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は北川景子さん演じる「雨清水タエ」の存在が話題を呼んでいます。彼女のモデルである人物は、ある壮絶な体験をしたそうです。

雨清水タエ役を演じる北川景子さん(2018年12月、時事)

 2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、1890年に来日し『怪談』『知られぬ日本の面影』などの名作文学を残した小泉八雲さん(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支え数々の怪談を語った妻の小泉セツさんの生涯をモデルにした物語です。

 朝ドラとしては異色の「怪談好き」な「松野トキ(演:高石あかり)」が主人公の本作には、『耳なし芳一』『松風』などの有名な怪談が登場しています。さらにトキのモデルの小泉セツさんの周辺人物にまつわる話を見てみると、驚くような実話のエピソードもありました。なかでも驚くのは、北川景子さん演じる「雨清水タエ」のモデルにあたる人物の、若き日の体験談です。

 セツさんは、生後7日で生家の小泉家から親戚の稲垣家に養子に出され、「松野フミ(演:池脇千鶴)」のモデルである養母の稲垣トミさんから、たくさんの怪談を聞いて育ちました。トミさんは、幼い頃に出雲大社の社家(世襲の神職の家柄)である高浜家の養女になった人物で、さまざまな神話や不思議な物語に詳しかったそうです。

 そんな養母のもとで育ったセツさんは、そのほかの周囲の大人にも話をねだるようになったといいます。そんなセツさんが何度も繰り返し聞いていたというのが、タエのモデルに当たると思われる、実母の小泉チエさんの実体験です。こちらは怪談とは違いますが、かなり凄惨なエピソードでした。

 歴史家の長谷川洋二さんによる評伝『八雲の妻 小泉セツの生涯』では、若き日のチエさんの逸話が詳細に語られています。こちらは、セツさんと八雲さんの長男である小泉一雄さんの著書『父小泉八雲』にも出てくる話です。

 1837年3月に松江藩の家老、塩見家のひとり娘として生まれたチエさんは、藩内でも評判の「稀に見る器量の持ち主」だったといいます。そのチエさんは、セツさんの実父である小泉湊さんと結婚する以前の1850年2月に「ある高位の侍」の家に嫁いだそうです。当時の武家の娘の嫁入りは、いまでは考えられないほど早いものでした。

 上級武士と家老のひとり娘の結婚ということもあり、松江藩からは格別の祝儀が出て盛大な婚礼の儀がとり行われますが、その晩に惨劇が起こります。新婚初夜、チエさんは寝所で新郎を待っていましたが、彼はいつまで経ってもやってきませんでした。彼女が不思議に思っていると、突如、庭からただならぬ物音がしたそうです。

 チエさんは姑にそのことを報告しに行き、その後、家中の者たちが庭を見に行きます。するとそこには、心中したと思われる新郎と腰元(侍女)の死体がありました。腰元は首を打ち落とされ、新郎は腹と首筋を斬って自害しているという、凄惨な現場だったそうです。

 まだ12歳の少女だったチエさんは、物音がしたときも、姑に報告しに行くときも終始取り乱さず堂々と事態に対応し、周囲から称賛を受けたといいます。その後、チエさんは1851年の秋、14歳で小泉家に嫁ぎました。1868年2月生まれのセツさんは、彼女の6番目の子供です。

 ちなみに、チエさんの父である塩見増右衛門さんは、松江藩第九代藩主の松平斉貴公が藩の財政を圧迫するほどの法外な贅沢三昧に興じるのを諫めるため、事前に腹を切った状態で諫言を行い、その後息絶えたといいます(1851年11月2日のこと。斉貴公はのちに隠居した)。この増右衛門さんの諫死も、セツさんが何度もチエさんから聞いた話だったそうです。

『ばけばけ』タエのモデルの人物は、本人も父もただ者ではない精神力を持っていたと思われます。朝ドラで描くには壮絶すぎるエピソードですが、いつかタエの口から話題に出てくるかもしれません。

※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」

参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(著:長谷川洋二/潮出版社)、『父小泉八雲』(著:小泉一雄/小山書店)、『小泉セツ 八雲と「怪談」を作り上げたばけばけの物語』(三才ブックス)

(マグミクス編集部)

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