なぜ米国のZ世代は社会主義に熱狂するのか…中心にいるフォロワー300万人超"赤いインフルエンサー"の正体

アメリカではトランプ大統領の支持率が低下する一方、Z世代を中心に社会主義への支持が増えているという。在米ジャーナリストのシェリーめぐみさんは「資本主義に疲れ、政府に失望したミレニアル世代やZ世代は、左派系のインフルエンサーを熱狂的に支持している」という――。

6月23日、ニューヨークで11月の中間選挙に向けた民主党の党内予備選が行われた。通常なら、全米が注目するような選挙ではない。ところが今回は違った。

その理由は、ニューヨークで熱烈な支持を集めるマムダニ市長が推薦した、民主社会主義・プログレッシブ系の3候補が、民主党主流派の候補者たちを破ったからだ。破れたうちの2人は現職だったという、誰も予測しなかった衝撃の結果である。

アメリカで民主社会主義が勢いを増している背景には、若い世代の資本主義への不信がある。

2025年の調査では、18〜29歳のZ世代の62%が「社会主義に好意的」と答えた。一方、アメリカ人全体の「資本主義」への好感度は、5年間で60%から54%まで低下している。

若者の社会主義への傾倒は、一時的な左派ブームというより、資本主義そのものへの信頼低下の表れでもある。

写真=iStock.com/Xavier Lorenzo

Z世代の62%が「社会主義に好意的」(※写真はイメージです)

Z世代が熱狂的に支持する左派インフルエンサー

この動きはなにもマムダニ1人から始まったものではなく、背景には2010年代から脈々と続くバーニー・サンダースら民主社会主義・プログレッシブ系政治家の粘り強い努力がある。

そうした運動をネット空間に持ち込み、若者、とりわけ政治に幻滅した若い男性たちに届けて若い世代から熱狂的に支持されている人物がいる。ハサン・パイカーだ。

ハサン・パイカーは、アメリカで活動する政治系配信者。34歳のトルコ系アメリカ人でイスラム教徒だ。

ゲーム中継で知られるストリーミング・プラットフォームTwitchで、毎日7〜8時間の生ライブをロサンゼルスの自宅スタジオから放送している。

Twitchで300万人以上、YouTubeで191万人のフォロワーと、非常に大きな影響力を持っており、特にZ世代から熱狂的な支持を集めている。英ガーディアン紙は、「アメリカ左派の最大の声の一つ」と評している。

2025年2月、彼は全く無名だったマムダニの応援に駆けつけ、番組のゲストにも迎え、マムダニの勝利に貢献した。

今回の予備選でも、選挙戦終盤に現地入りし、候補者の応援に回ったことで、番狂わせの要因の一つとなったと言える。

「メガホン」を自称する彼が、過去10年以上声を限りに発信してきたメッセージが、今現実として現れていると言ってもいい。

出典=YouTube

ハサン・パイカー氏


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しかし、第二次トランプ政権下でも、若者の生活不安は解消されていない。かつてトランプに賭けた若者の一部には、失望が広がり始めている。

その怒りの受け皿になろうとしているのが、パイカーなど左派の政治系インフルエンサーというわけだ。

パイカーのアプローチはトランプとは対照的だ。怒りの矛先を女性や移民ではなく、現代政治と社会構造へ向け直そうとしているからだ。

パイカー自身は明確な左派であり、民主社会主義に近いプログレッシブの立場を隠していない。

だが彼は若者に「左か右か」という踏み絵を突き付けはしない。

彼が発信するのはイデオロギーを問わず万人が共感できる言葉だ。そこには「なぜ家賃が払えないのか」「なぜ医療費で破産するのか」「なぜ働いても生活が楽にならないのか」という生活の実感が並ぶ。

だから彼のメッセージは、イデオロギーの壁を越え、経済的な不平等への怒りとして誰にでも届くのである。

「自分は未来の億万長者」という幻想

同時に、彼は若い男性の喪失感を弱者のせいにしない。家賃を上げているのは移民ではなく大家であり、食料品価格を押し上げているのはトランスジェンダーや不法移民ではなく、企業への権力集中と強欲なインフレだ、と語る。

さらに彼は、「ほとんどのアメリカ人は、自分たちが労働者階級だと理解していない」と問題提起する。99%の人々は資本蓄積で富を得ているのではなく、賃金を得て暮らしている。にもかかわらず、不思議なことに彼らには労働者の自覚がないのだ。

アメリカ人の多くには、「自分はまだ成功していないだけの未来の金持ち」という感覚がある。これはいわばアメリカンドリームを支えてきた「幻想」である。実際に金持ちになれるのはごくわずかだからだ。

写真=iStock.com/maselkoo99

「自分は未来の億万長者」という幻想に生きている(※写真はイメージです)

だから富裕層課税や企業規制を、労働者を救うための政策とは考えず、「いつか自分に向けられる罰」のように感じてしまうのだ。

パイカーの言葉が刺すのは、まさにその幻想だ。

「あなたは資本家を守っているが、資本は持っていない」

そう言い切ることで、若者を「自分は未来の億万長者」という幻想から「自分はいま搾取されている労働者」という現実に引き戻している。

パイカーはこうした「現実的な経済ポピュリズム」の実践によって、社会に居場所がないと感じる若者たちが、イデオロギーを超えて共感する場を作っていると言えよう。


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私がハサン・パイカーの番組と出会ったのは、2020年の大統領選だった。Z世代の大学院生から「大きな影響を受けている配信者」として、名前を聞いたことがきっかけだった。

配信を視聴してみたところ、これが実に面白い。

例えば、「医療保険制度がおかしい」と批判するのではなく、「貧乏人に医療を与えたくないって、お前どうかしてるんじゃない?」というような煽り口調にユーモアが込められていて、思わず笑ってしまう。

またパイカーはよくCNNやFOXニュースなどのクリップを流しながら、最新の政治情勢を解説する。時にはAOCやバーニー・サンダースら、民主社会主義者・プログレッシブの政治家をゲストに迎え、真剣な討論も行う。

彼が大きな存在感を示したのは、2020年の大統領選テレビ討論会のストリーミング中継だった。この時、若者たちが討論会をCNNやMSNBCではなく、「Twitchでハサンと一緒に見る」という行動に出たことで、パイカーのような政治系配信者が既存メディアより影響力を持つという構図が可視化されたのだ。

マムダニ市長の増毛剤で大喜び

パイカーが人気を得た最大の理由は、彼が左派の政策を語るからではない。

若者に人気のTwitchという空間で、ニュース、雑談、怒り、笑い、生活感を混ぜながら、政治の話題を日常の会話に変えたことにある。

ロサンゼルスの自宅スタジオにはしばしば、愛犬のカヤの姿が見える。時にはお母さんがランチを届けに来たりもする。オーディエンスはそんな光景に、まるで友達の家に遊びに行ったかのような親しみを覚える。パイカーの配信は、かしこまって視聴するものではなく、「彼と一緒に過ごす時間」なのである。

パイカーの話題は、時に政治以外の、筋トレや男の身だしなみのような話にも及ぶ。

つい先日など、マムダニ市長が、自分が推薦した増毛剤を使っていることを知り、大喜びしている様子を配信していた。

写真=AFP/時事通信フォト

マムダニ市長の増毛剤で大喜び(米ニューヨーク市のマムダニ市長、2026年6月23日)

こういったところを見ると、ジョー・ローガンら右派インフルエンサーのポッドキャストが担っている、「マノスフィア(男の居場所)」の役割を果たしているとも言える。

マノスフィアとは、「社会から自分の居場所が失われた」と感じる男たちが集まるネット空間だ。

家賃、医療費、学生ローン、AIによる雇用不安。少し前からアメリカの若者の間には、普通に働いてもまともに暮らせないという怒りが広がっていた。

その怒りをいち早く取り込んだのは右派だった。若い男性の孤独や不満は、マノスフィアの中で、反woke、反フェミニズム、反移民の物語へと変換されていった。

トランプは2024年の大統領選で、マノスフィアへの影響力を最大限に利用して勝利する。


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ハサン・パイカーは1991年生まれの34歳。マムダニ市長と同い年のミレニアル世代だ。

この世代の人はしばしば、「政治に裏切られた」いう共通の感覚を持っている。

彼らは、9.11とイラク戦争を通じて、アメリカ政府を信用しなくなった。さらにリーマンショックでは、行き過ぎた資本主義が普通の家庭を破壊する現実を目の当たりにした。

その不信を政治の言葉にしたのが、2011年9月にウォール街で発生したアメリカ経済界、政界に対する抗議活動の「オキュパイ運動」だった。彼らが掲げた「99%対1%」(上位1%の富裕層が所有する資産が増加し続けている)というスローガンは、富裕層と普通の人々の分断を可視化した。

2016年の大統領選では、この怒りをバーニー・サンダースが受け止めた。「すべての人に医療を」というスローガンで大統領選に出馬し、若者の強い支持を得た。

しかし結局民主党はヒラリー・クリントンを候補に立て、トランプに敗北する。

サンダースを支持していたリベラルの若者には、「民主党にも裏切られた」という深い失望が残った。

写真=iStock.com/adamkaz

民主党にも裏切られたという失望(※写真はイメージです)

マムダニNY市長が支持される理由

あれから9年、パンデミックを経て、ミレニアル世代の次のZ世代が成人に達している。一方、家賃、医療費、学生ローン、AI競争による雇用不安。未来への懸念は、さらに具体的な生活苦としてあらわれている。

それを、「当たり前に暮らせる街を取り戻す」というスローガンに言い換えたのが、マムダニ・ニューヨーク市長だ。

民主社会主義的な主張を、市政という生活に密着した舞台で、イデオロギーではなく「経済」に言い換えた彼の功績は大きい。

就任から半年、彼の公約である乳幼児保育の全面無償化、家賃の一部凍結、市が経営するスーパーマーケットなどは着々と実現に向かっている。

そしてついにそのパワーが、国政へ波及し始めた時、パニックに陥ったのは、「身内」であるはずの民主党主流派だった。その矛先は人気者マムダニではなく、その背後にいるインフルエンサーに向かっていった。

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