パ・リーグTVが好調の理由「ニュースにはない映像」大谷翔平ら「確信歩き」バズり風向き変わる

取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを紹介していきます。「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeは現在、165万人のチャンネル登録者を抱えています。試合のダイジェストや好プレーがすぐにアップされるだけではなく、多様な切り口で編集した「まとめるほどではないまとめ」動画なども人気。若いファンを中心に、野球をネット配信で見る習慣が根付きつつあるなか、先頭を走る同TVを取材しました。【取材・構成=沢田啓太郎】

   ◇   ◇   ◇

開幕3戦目の3月29日。パ・リーグTV公式YouTubeチャンネルに上がった1本の動画が西武ファンを中心に盛り上がった。

【超捕球3連発ッ!!!】愛也!カニちゃん!ガッツマン!『力投の平良を救った…獅子外野陣の超ダイビング!!!』

ZOZOマリンでのロッテ戦で西川愛也、アレクサンダー・カナリオ、桑原将志がそろってダイビングキャッチを披露。先発平良海馬を助け、開幕連敗中のチームに今季初勝利をもたらしたプレーを、3分間の動画にまとめたものだ。

「新生ライオンズを象徴する3選手が、そろって素晴らしいプレーで平良投手を救い、チームに今季初勝利をもたらしました。連敗でハラハラしていたファンの方々に喜んでいただけるのではないかと思い、試合後なるべく早くアップさせていただきました」

パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)・コンテンツ事業部の辻彰徳部長(35)はこう振り返った。

パ・リーグTVはパ球団主催の公式戦(1、2軍とも)を全試合、有料で配信している。その映像を使って、試合のトピックスやユニークなシーンを動画にし、YouTubeなどSNSにあげている。

辻さん 1試合3~5本が目安ですね。試合後なるべく早く、2時間以内に流すようにしています。

1軍公式戦3試合だと、1日15本ほどの動画をつくる計算。それを「3~5人」のスタッフで連日つくっているという。

2012年から有料の試合映像を配信し始めたが、スマホなどの小さい画面で野球中継を見る文化が定着するには時間がかかった。15年ごろから「切り抜き動画」をつくり、その後YouTubeなどにアップ。ただ不定期で配信していた。

風向きが変わったのは17年7月のことだ。渡米前の日本ハム大谷翔平、西武栗山巧らが「ホームラン確信歩き」したシーンを集めた動画(3分44秒)が大バズり。再生回数は100万回を超えた。

辻さん テレビのスポーツニュースにはない映像が受ける。そのことがよく分かりました。翌年以降も積極的に動画を編集して、配信するようになりました。

プレーの周りにある、選手たちの何げないしぐさや表情にも、ファンのニーズがある。「まとめるほどではないまとめ」とネーミングした動画は、重要なコンテンツの1つに成長した。

過去のヒット作は「変顔シリーズ」。特に西武外崎修汰は表情豊かな選手として人気だ。同シリーズの「レギュラー」で、今ではパ・リーグTVの名誉アンバサダーでもある。

辻さん 外崎選手は個性的な選手という評判で、動画をつくってみたら良い反応があったんです。

ただ、嫌がる選手もいるのではないだろうか?

辻さん 動画をつくる時に選手、ファン、球団関係者が嫌な気持ちにならないように注意はしています。おもしろ動画だけではなく、活躍したシーンも配信しています。以前、外崎選手にお会いした際に「取り上げていただいて、めちゃくちゃありがたいです」とおっしゃっていただきました。今では、ご家族も楽しみにしていらっしゃるようです。

新たな発見もあった。「まとめるほどではないまとめ」をクリックする人たちの傾向だ。同社の執行役員で、コーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(41)はこう話す。

園部さん パ・リーグTVの公式YouTubeチャンネル登録者の8割は男性なのですが、「まとめるほどではないまとめ」を見ているのは半数以上が女性なんです。推しの選手が良い表情をしたり、チームメートと仲良くじゃれあっているところが受けているようです。

選手たちがワイワイしながら楽しく野球をやっている「コミュニティー」が、女性を中心に受けているという。そういえば、日本ハム・ファイターズガールの「きつねダンス」を最初にクローズアップしたのもパ・リーグTVだった。

園部さん 勝つか負けるか、すごいプレーを見せてくれるかだけではなく、いろんなきっかけ、ルートからファンが生まれてくる時代です。多様なメニューを提供して、プロ野球ファンになる入り口を増やしていきたい。

入り口を増やす取り組みの1つが、Netflix(ネットフリックス)との「共闘」だった。

今年のWBCでは、日本ラウンドの独占を含め、Netflixが全試合を配信した。PLMはNetflixの「公式クリエイタープログラム」に参加。同プログラムは、インフルエンサー30人に試合映像の使用を許し、大会盛り上げに一役買ってもらうのが目的だが、PLMは団体として唯一、名乗りを上げた。

辻さん ライバルというよりも、新しいプレーヤーが参入してきたとポジティブにとらえました。一緒に野球を盛り上げていくパートナーとしてです。

大会47試合から合計90本以上の動画を編集して、YouTubeチャンネルにアップ。おもしろいことに最も再生数が多かったのは大谷翔平ではなく、ドミニカのスター、タティスの動画だったという。

Netflix以外では、昨シーズン、パ6球団の本拠地のある地元テレビ局と提携。ローカルでしか視聴できない地元球団の応援番組や特集等の映像を買い、有料会員向けのサービスとした(現在は千葉ロッテのみ)。

辻さん まだまだやれることはあると思っています。多様な入り口、ルートをつくるという意味では、全部のメニューはそろっていません。

園部さん 野球ファンを増やし、マーケットを広げていくのが我々の仕事。もっともっと野球を盛り上げることで、社会を明るく、元気にしたい。

この情熱と意欲がある限り、パテレの快進撃は今後も続きそうだ。

【取材後記】

取材を終えたあと、執行役員の園部健二さんに聞いてみた。

「私たちのようなオールドメディアにはどんなことを求めますか?」

園部さん 私たちはたくさんの試合映像を活用することができますが、プロ野球の番記者さんたちのようにチームに張り付くことはできません。現場に密着しているからこそ知り得る情報を提供していただければと思います。

グラウンドでの出来事だけではなく、ベンチ内やロッカールームなどの「舞台裏」を当事者が気軽に発信できる時代。それでも園部さんは「より深い情報を第三者が報じることの意味は大きい」と言う。

一方、こうも指摘した。

園部さん 今の時代は、どの媒体が報じたかというより、誰が発信したのかが大事になっているのかも知れません。

今は多種多様な媒体と個人がネットやSNSを通して発信し、情報が乱立している。直に、倫理観を保って取材したのかどうか、その境目すら分からなくなっている。何を、誰を信じればいいのか。「誰が発信したのか」に帰結するのは当然だろう。

手前みそで恐縮だが、園部さんも辻さんも弊社の西武担当・金子真仁記者が発信する情報を高く評価していた。その金子記者も長年現場をはいずり回り、多種多様な実体験を重ねて、今がある。

一朝一夕にスキルも信頼も得られない。地道に現場をはいずり回ることが、私たちの生き残りの道だとあらためて感じた。

◆パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM) 2007年(平19)5月、パ6球団が出資して設立。公式コンテンツメディア「パ・リーグ.com」、パ主催の公式戦をLIVE配信する「パーソル パ・リーグTV」などを運営。パ6球団のライセンスビジネスを手がけ、スポーツ業界に特化した人材紹介エージェントサービスも行っている。代表取締役CEOは成田健太郎氏。

PLMのメディアセンター。パ主催ゲームを同時にチェックしながら、「まとめるほどではないまとめ」動画などがつくられる(写真提供:PLM)
PLM執行役員でコーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(右)とコンテンツ事業部の辻彰徳部長
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2019年10月10日のソフトバンク戦試合前から
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放つ大谷翔平
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放った大谷翔平は打球の行方を追う
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2025年南郷春季キャンプでの特守中に見せたもの

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取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを紹介していきます。「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeは現在、165万人のチャンネル登録者を抱えています。試合のダイジェストや好プレーがすぐにアップされるだけではなく、多様な切り口で編集した「まとめるほどではないまとめ」動画なども人気。若いファンを中心に、野球をネット配信で見る習慣が根付きつつあるなか、先頭を走る同TVを取材しました。【取材・構成=沢田啓太郎】

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開幕3戦目の3月29日。パ・リーグTV公式YouTubeチャンネルに上がった1本の動画が西武ファンを中心に盛り上がった。

【超捕球3連発ッ!!!】愛也!カニちゃん!ガッツマン!『力投の平良を救った…獅子外野陣の超ダイビング!!!』

ZOZOマリンでのロッテ戦で西川愛也、アレクサンダー・カナリオ、桑原将志がそろってダイビングキャッチを披露。先発平良海馬を助け、開幕連敗中のチームに今季初勝利をもたらしたプレーを、3分間の動画にまとめたものだ。

「新生ライオンズを象徴する3選手が、そろって素晴らしいプレーで平良投手を救い、チームに今季初勝利をもたらしました。連敗でハラハラしていたファンの方々に喜んでいただけるのではないかと思い、試合後なるべく早くアップさせていただきました」

パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)・コンテンツ事業部の辻彰徳部長(35)はこう振り返った。

パ・リーグTVはパ球団主催の公式戦(1、2軍とも)を全試合、有料で配信している。その映像を使って、試合のトピックスやユニークなシーンを動画にし、YouTubeなどSNSにあげている。

辻さん 1試合3~5本が目安ですね。試合後なるべく早く、2時間以内に流すようにしています。

1軍公式戦3試合だと、1日15本ほどの動画をつくる計算。それを「3~5人」のスタッフで連日つくっているという。

2012年から有料の試合映像を配信し始めたが、スマホなどの小さい画面で野球中継を見る文化が定着するには時間がかかった。15年ごろから「切り抜き動画」をつくり、その後YouTubeなどにアップ。ただ不定期で配信していた。

風向きが変わったのは17年7月のことだ。渡米前の日本ハム大谷翔平、西武栗山巧らが「ホームラン確信歩き」したシーンを集めた動画(3分44秒)が大バズり。再生回数は100万回を超えた。

辻さん テレビのスポーツニュースにはない映像が受ける。そのことがよく分かりました。翌年以降も積極的に動画を編集して、配信するようになりました。

プレーの周りにある、選手たちの何げないしぐさや表情にも、ファンのニーズがある。「まとめるほどではないまとめ」とネーミングした動画は、重要なコンテンツの1つに成長した。

過去のヒット作は「変顔シリーズ」。特に西武外崎修汰は表情豊かな選手として人気だ。同シリーズの「レギュラー」で、今ではパ・リーグTVの名誉アンバサダーでもある。

辻さん 外崎選手は個性的な選手という評判で、動画をつくってみたら良い反応があったんです。

ただ、嫌がる選手もいるのではないだろうか?

辻さん 動画をつくる時に選手、ファン、球団関係者が嫌な気持ちにならないように注意はしています。おもしろ動画だけではなく、活躍したシーンも配信しています。以前、外崎選手にお会いした際に「取り上げていただいて、めちゃくちゃありがたいです」とおっしゃっていただきました。今では、ご家族も楽しみにしていらっしゃるようです。

新たな発見もあった。「まとめるほどではないまとめ」をクリックする人たちの傾向だ。同社の執行役員で、コーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(41)はこう話す。

園部さん パ・リーグTVの公式YouTubeチャンネル登録者の8割は男性なのですが、「まとめるほどではないまとめ」を見ているのは半数以上が女性なんです。推しの選手が良い表情をしたり、チームメートと仲良くじゃれあっているところが受けているようです。

選手たちがワイワイしながら楽しく野球をやっている「コミュニティー」が、女性を中心に受けているという。そういえば、日本ハム・ファイターズガールの「きつねダンス」を最初にクローズアップしたのもパ・リーグTVだった。

園部さん 勝つか負けるか、すごいプレーを見せてくれるかだけではなく、いろんなきっかけ、ルートからファンが生まれてくる時代です。多様なメニューを提供して、プロ野球ファンになる入り口を増やしていきたい。

入り口を増やす取り組みの1つが、Netflix(ネットフリックス)との「共闘」だった。

今年のWBCでは、日本ラウンドの独占を含め、Netflixが全試合を配信した。PLMはNetflixの「公式クリエイタープログラム」に参加。同プログラムは、インフルエンサー30人に試合映像の使用を許し、大会盛り上げに一役買ってもらうのが目的だが、PLMは団体として唯一、名乗りを上げた。

辻さん ライバルというよりも、新しいプレーヤーが参入してきたとポジティブにとらえました。一緒に野球を盛り上げていくパートナーとしてです。

大会47試合から合計90本以上の動画を編集して、YouTubeチャンネルにアップ。おもしろいことに最も再生数が多かったのは大谷翔平ではなく、ドミニカのスター、タティスの動画だったという。

Netflix以外では、昨シーズン、パ6球団の本拠地のある地元テレビ局と提携。ローカルでしか視聴できない地元球団の応援番組や特集等の映像を買い、有料会員向けのサービスとした(現在は千葉ロッテのみ)。

辻さん まだまだやれることはあると思っています。多様な入り口、ルートをつくるという意味では、全部のメニューはそろっていません。

園部さん 野球ファンを増やし、マーケットを広げていくのが我々の仕事。もっともっと野球を盛り上げることで、社会を明るく、元気にしたい。

この情熱と意欲がある限り、パテレの快進撃は今後も続きそうだ。

【取材後記】

取材を終えたあと、執行役員の園部健二さんに聞いてみた。

「私たちのようなオールドメディアにはどんなことを求めますか?」

園部さん 私たちはたくさんの試合映像を活用することができますが、プロ野球の番記者さんたちのようにチームに張り付くことはできません。現場に密着しているからこそ知り得る情報を提供していただければと思います。

グラウンドでの出来事だけではなく、ベンチ内やロッカールームなどの「舞台裏」を当事者が気軽に発信できる時代。それでも園部さんは「より深い情報を第三者が報じることの意味は大きい」と言う。

一方、こうも指摘した。

園部さん 今の時代は、どの媒体が報じたかというより、誰が発信したのかが大事になっているのかも知れません。

今は多種多様な媒体と個人がネットやSNSを通して発信し、情報が乱立している。直に、倫理観を保って取材したのかどうか、その境目すら分からなくなっている。何を、誰を信じればいいのか。「誰が発信したのか」に帰結するのは当然だろう。

手前みそで恐縮だが、園部さんも辻さんも弊社の西武担当・金子真仁記者が発信する情報を高く評価していた。その金子記者も長年現場をはいずり回り、多種多様な実体験を重ねて、今がある。

一朝一夕にスキルも信頼も得られない。地道に現場をはいずり回ることが、私たちの生き残りの道だとあらためて感じた。

◆パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM) 2007年(平19)5月、パ6球団が出資して設立。公式コンテンツメディア「パ・リーグ.com」、パ主催の公式戦をLIVE配信する「パーソル パ・リーグTV」などを運営。パ6球団のライセンスビジネスを手がけ、スポーツ業界に特化した人材紹介エージェントサービスも行っている。代表取締役CEOは成田健太郎氏。

PLMのメディアセンター。パ主催ゲームを同時にチェックしながら、「まとめるほどではないまとめ」動画などがつくられる(写真提供:PLM)
PLM執行役員でコーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(右)とコンテンツ事業部の辻彰徳部長
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2019年10月10日のソフトバンク戦試合前から
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放つ大谷翔平
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放った大谷翔平は打球の行方を追う
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2025年南郷春季キャンプでの特守中に見せたもの

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取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを紹介していきます。「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeは現在、165万人のチャンネル登録者を抱えています。試合のダイジェストや好プレーがすぐにアップされるだけではなく、多様な切り口で編集した「まとめるほどではないまとめ」動画なども人気。若いファンを中心に、野球をネット配信で見る習慣が根付きつつあるなか、先頭を走る同TVを取材しました。【取材・構成=沢田啓太郎】

   ◇   ◇   ◇

開幕3戦目の3月29日。パ・リーグTV公式YouTubeチャンネルに上がった1本の動画が西武ファンを中心に盛り上がった。

【超捕球3連発ッ!!!】愛也!カニちゃん!ガッツマン!『力投の平良を救った…獅子外野陣の超ダイビング!!!』

ZOZOマリンでのロッテ戦で西川愛也、アレクサンダー・カナリオ、桑原将志がそろってダイビングキャッチを披露。先発平良海馬を助け、開幕連敗中のチームに今季初勝利をもたらしたプレーを、3分間の動画にまとめたものだ。

「新生ライオンズを象徴する3選手が、そろって素晴らしいプレーで平良投手を救い、チームに今季初勝利をもたらしました。連敗でハラハラしていたファンの方々に喜んでいただけるのではないかと思い、試合後なるべく早くアップさせていただきました」

パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)・コンテンツ事業部の辻彰徳部長(35)はこう振り返った。

パ・リーグTVはパ球団主催の公式戦(1、2軍とも)を全試合、有料で配信している。その映像を使って、試合のトピックスやユニークなシーンを動画にし、YouTubeなどSNSにあげている。

辻さん 1試合3~5本が目安ですね。試合後なるべく早く、2時間以内に流すようにしています。

1軍公式戦3試合だと、1日15本ほどの動画をつくる計算。それを「3~5人」のスタッフで連日つくっているという。

2012年から有料の試合映像を配信し始めたが、スマホなどの小さい画面で野球中継を見る文化が定着するには時間がかかった。15年ごろから「切り抜き動画」をつくり、その後YouTubeなどにアップ。ただ不定期で配信していた。

風向きが変わったのは17年7月のことだ。渡米前の日本ハム大谷翔平、西武栗山巧らが「ホームラン確信歩き」したシーンを集めた動画(3分44秒)が大バズり。再生回数は100万回を超えた。

辻さん テレビのスポーツニュースにはない映像が受ける。そのことがよく分かりました。翌年以降も積極的に動画を編集して、配信するようになりました。

プレーの周りにある、選手たちの何げないしぐさや表情にも、ファンのニーズがある。「まとめるほどではないまとめ」とネーミングした動画は、重要なコンテンツの1つに成長した。

過去のヒット作は「変顔シリーズ」。特に西武外崎修汰は表情豊かな選手として人気だ。同シリーズの「レギュラー」で、今ではパ・リーグTVの名誉アンバサダーでもある。

辻さん 外崎選手は個性的な選手という評判で、動画をつくってみたら良い反応があったんです。

ただ、嫌がる選手もいるのではないだろうか?

辻さん 動画をつくる時に選手、ファン、球団関係者が嫌な気持ちにならないように注意はしています。おもしろ動画だけではなく、活躍したシーンも配信しています。以前、外崎選手にお会いした際に「取り上げていただいて、めちゃくちゃありがたいです」とおっしゃっていただきました。今では、ご家族も楽しみにしていらっしゃるようです。

新たな発見もあった。「まとめるほどではないまとめ」をクリックする人たちの傾向だ。同社の執行役員で、コーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(41)はこう話す。

園部さん パ・リーグTVの公式YouTubeチャンネル登録者の8割は男性なのですが、「まとめるほどではないまとめ」を見ているのは半数以上が女性なんです。推しの選手が良い表情をしたり、チームメートと仲良くじゃれあっているところが受けているようです。

選手たちがワイワイしながら楽しく野球をやっている「コミュニティー」が、女性を中心に受けているという。そういえば、日本ハム・ファイターズガールの「きつねダンス」を最初にクローズアップしたのもパ・リーグTVだった。

園部さん 勝つか負けるか、すごいプレーを見せてくれるかだけではなく、いろんなきっかけ、ルートからファンが生まれてくる時代です。多様なメニューを提供して、プロ野球ファンになる入り口を増やしていきたい。

入り口を増やす取り組みの1つが、Netflix(ネットフリックス)との「共闘」だった。

今年のWBCでは、日本ラウンドの独占を含め、Netflixが全試合を配信した。PLMはNetflixの「公式クリエイタープログラム」に参加。同プログラムは、インフルエンサー30人に試合映像の使用を許し、大会盛り上げに一役買ってもらうのが目的だが、PLMは団体として唯一、名乗りを上げた。

辻さん ライバルというよりも、新しいプレーヤーが参入してきたとポジティブにとらえました。一緒に野球を盛り上げていくパートナーとしてです。

大会47試合から合計90本以上の動画を編集して、YouTubeチャンネルにアップ。おもしろいことに最も再生数が多かったのは大谷翔平ではなく、ドミニカのスター、タティスの動画だったという。

Netflix以外では、昨シーズン、パ6球団の本拠地のある地元テレビ局と提携。ローカルでしか視聴できない地元球団の応援番組や特集等の映像を買い、有料会員向けのサービスとした(現在は千葉ロッテのみ)。

辻さん まだまだやれることはあると思っています。多様な入り口、ルートをつくるという意味では、全部のメニューはそろっていません。

園部さん 野球ファンを増やし、マーケットを広げていくのが我々の仕事。もっともっと野球を盛り上げることで、社会を明るく、元気にしたい。

この情熱と意欲がある限り、パテレの快進撃は今後も続きそうだ。

【取材後記】

取材を終えたあと、執行役員の園部健二さんに聞いてみた。

「私たちのようなオールドメディアにはどんなことを求めますか?」

園部さん 私たちはたくさんの試合映像を活用することができますが、プロ野球の番記者さんたちのようにチームに張り付くことはできません。現場に密着しているからこそ知り得る情報を提供していただければと思います。

グラウンドでの出来事だけではなく、ベンチ内やロッカールームなどの「舞台裏」を当事者が気軽に発信できる時代。それでも園部さんは「より深い情報を第三者が報じることの意味は大きい」と言う。

一方、こうも指摘した。

園部さん 今の時代は、どの媒体が報じたかというより、誰が発信したのかが大事になっているのかも知れません。

今は多種多様な媒体と個人がネットやSNSを通して発信し、情報が乱立している。直に、倫理観を保って取材したのかどうか、その境目すら分からなくなっている。何を、誰を信じればいいのか。「誰が発信したのか」に帰結するのは当然だろう。

手前みそで恐縮だが、園部さんも辻さんも弊社の西武担当・金子真仁記者が発信する情報を高く評価していた。その金子記者も長年現場をはいずり回り、多種多様な実体験を重ねて、今がある。

一朝一夕にスキルも信頼も得られない。地道に現場をはいずり回ることが、私たちの生き残りの道だとあらためて感じた。

◆パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM) 2007年(平19)5月、パ6球団が出資して設立。公式コンテンツメディア「パ・リーグ.com」、パ主催の公式戦をLIVE配信する「パーソル パ・リーグTV」などを運営。パ6球団のライセンスビジネスを手がけ、スポーツ業界に特化した人材紹介エージェントサービスも行っている。代表取締役CEOは成田健太郎氏。

PLMのメディアセンター。パ主催ゲームを同時にチェックしながら、「まとめるほどではないまとめ」動画などがつくられる(写真提供:PLM)
PLM執行役員でコーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(右)とコンテンツ事業部の辻彰徳部長
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2019年10月10日のソフトバンク戦試合前から
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放つ大谷翔平
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放った大谷翔平は打球の行方を追う
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2025年南郷春季キャンプでの特守中に見せたもの

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取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを紹介していきます。「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeは現在、165万人のチャンネル登録者を抱えています。試合のダイジェストや好プレーがすぐにアップされるだけではなく、多様な切り口で編集した「まとめるほどではないまとめ」動画なども人気。若いファンを中心に、野球をネット配信で見る習慣が根付きつつあるなか、先頭を走る同TVを取材しました。【取材・構成=沢田啓太郎】

   ◇   ◇   ◇

開幕3戦目の3月29日。パ・リーグTV公式YouTubeチャンネルに上がった1本の動画が西武ファンを中心に盛り上がった。

【超捕球3連発ッ!!!】愛也!カニちゃん!ガッツマン!『力投の平良を救った…獅子外野陣の超ダイビング!!!』

ZOZOマリンでのロッテ戦で西川愛也、アレクサンダー・カナリオ、桑原将志がそろってダイビングキャッチを披露。先発平良海馬を助け、開幕連敗中のチームに今季初勝利をもたらしたプレーを、3分間の動画にまとめたものだ。

「新生ライオンズを象徴する3選手が、そろって素晴らしいプレーで平良投手を救い、チームに今季初勝利をもたらしました。連敗でハラハラしていたファンの方々に喜んでいただけるのではないかと思い、試合後なるべく早くアップさせていただきました」

パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)・コンテンツ事業部の辻彰徳部長(35)はこう振り返った。

パ・リーグTVはパ球団主催の公式戦(1、2軍とも)を全試合、有料で配信している。その映像を使って、試合のトピックスやユニークなシーンを動画にし、YouTubeなどSNSにあげている。

辻さん 1試合3~5本が目安ですね。試合後なるべく早く、2時間以内に流すようにしています。

1軍公式戦3試合だと、1日15本ほどの動画をつくる計算。それを「3~5人」のスタッフで連日つくっているという。

2012年から有料の試合映像を配信し始めたが、スマホなどの小さい画面で野球中継を見る文化が定着するには時間がかかった。15年ごろから「切り抜き動画」をつくり、その後YouTubeなどにアップ。ただ不定期で配信していた。

風向きが変わったのは17年7月のことだ。渡米前の日本ハム大谷翔平、西武栗山巧らが「ホームラン確信歩き」したシーンを集めた動画(3分44秒)が大バズり。再生回数は100万回を超えた。

辻さん テレビのスポーツニュースにはない映像が受ける。そのことがよく分かりました。翌年以降も積極的に動画を編集して、配信するようになりました。

プレーの周りにある、選手たちの何げないしぐさや表情にも、ファンのニーズがある。「まとめるほどではないまとめ」とネーミングした動画は、重要なコンテンツの1つに成長した。

過去のヒット作は「変顔シリーズ」。特に西武外崎修汰は表情豊かな選手として人気だ。同シリーズの「レギュラー」で、今ではパ・リーグTVの名誉アンバサダーでもある。

辻さん 外崎選手は個性的な選手という評判で、動画をつくってみたら良い反応があったんです。

ただ、嫌がる選手もいるのではないだろうか?

辻さん 動画をつくる時に選手、ファン、球団関係者が嫌な気持ちにならないように注意はしています。おもしろ動画だけではなく、活躍したシーンも配信しています。以前、外崎選手にお会いした際に「取り上げていただいて、めちゃくちゃありがたいです」とおっしゃっていただきました。今では、ご家族も楽しみにしていらっしゃるようです。

新たな発見もあった。「まとめるほどではないまとめ」をクリックする人たちの傾向だ。同社の執行役員で、コーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(41)はこう話す。

園部さん パ・リーグTVの公式YouTubeチャンネル登録者の8割は男性なのですが、「まとめるほどではないまとめ」を見ているのは半数以上が女性なんです。推しの選手が良い表情をしたり、チームメートと仲良くじゃれあっているところが受けているようです。

選手たちがワイワイしながら楽しく野球をやっている「コミュニティー」が、女性を中心に受けているという。そういえば、日本ハム・ファイターズガールの「きつねダンス」を最初にクローズアップしたのもパ・リーグTVだった。

園部さん 勝つか負けるか、すごいプレーを見せてくれるかだけではなく、いろんなきっかけ、ルートからファンが生まれてくる時代です。多様なメニューを提供して、プロ野球ファンになる入り口を増やしていきたい。

入り口を増やす取り組みの1つが、Netflix(ネットフリックス)との「共闘」だった。

今年のWBCでは、日本ラウンドの独占を含め、Netflixが全試合を配信した。PLMはNetflixの「公式クリエイタープログラム」に参加。同プログラムは、インフルエンサー30人に試合映像の使用を許し、大会盛り上げに一役買ってもらうのが目的だが、PLMは団体として唯一、名乗りを上げた。

辻さん ライバルというよりも、新しいプレーヤーが参入してきたとポジティブにとらえました。一緒に野球を盛り上げていくパートナーとしてです。

大会47試合から合計90本以上の動画を編集して、YouTubeチャンネルにアップ。おもしろいことに最も再生数が多かったのは大谷翔平ではなく、ドミニカのスター、タティスの動画だったという。

Netflix以外では、昨シーズン、パ6球団の本拠地のある地元テレビ局と提携。ローカルでしか視聴できない地元球団の応援番組や特集等の映像を買い、有料会員向けのサービスとした(現在は千葉ロッテのみ)。

辻さん まだまだやれることはあると思っています。多様な入り口、ルートをつくるという意味では、全部のメニューはそろっていません。

園部さん 野球ファンを増やし、マーケットを広げていくのが我々の仕事。もっともっと野球を盛り上げることで、社会を明るく、元気にしたい。

この情熱と意欲がある限り、パテレの快進撃は今後も続きそうだ。

【取材後記】

取材を終えたあと、執行役員の園部健二さんに聞いてみた。

「私たちのようなオールドメディアにはどんなことを求めますか?」

園部さん 私たちはたくさんの試合映像を活用することができますが、プロ野球の番記者さんたちのようにチームに張り付くことはできません。現場に密着しているからこそ知り得る情報を提供していただければと思います。

グラウンドでの出来事だけではなく、ベンチ内やロッカールームなどの「舞台裏」を当事者が気軽に発信できる時代。それでも園部さんは「より深い情報を第三者が報じることの意味は大きい」と言う。

一方、こうも指摘した。

園部さん 今の時代は、どの媒体が報じたかというより、誰が発信したのかが大事になっているのかも知れません。

今は多種多様な媒体と個人がネットやSNSを通して発信し、情報が乱立している。直に、倫理観を保って取材したのかどうか、その境目すら分からなくなっている。何を、誰を信じればいいのか。「誰が発信したのか」に帰結するのは当然だろう。

手前みそで恐縮だが、園部さんも辻さんも弊社の西武担当・金子真仁記者が発信する情報を高く評価していた。その金子記者も長年現場をはいずり回り、多種多様な実体験を重ねて、今がある。

一朝一夕にスキルも信頼も得られない。地道に現場をはいずり回ることが、私たちの生き残りの道だとあらためて感じた。

◆パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM) 2007年(平19)5月、パ6球団が出資して設立。公式コンテンツメディア「パ・リーグ.com」、パ主催の公式戦をLIVE配信する「パーソル パ・リーグTV」などを運営。パ6球団のライセンスビジネスを手がけ、スポーツ業界に特化した人材紹介エージェントサービスも行っている。代表取締役CEOは成田健太郎氏。

PLMのメディアセンター。パ主催ゲームを同時にチェックしながら、「まとめるほどではないまとめ」動画などがつくられる(写真提供:PLM)
PLM執行役員でコーポレートビジネス統括本部長の園部健二さん(右)とコンテンツ事業部の辻彰徳部長
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2019年10月10日のソフトバンク戦試合前から
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放つ大谷翔平
2017年7月26日、帯広の森球場でのロッテ戦で右越え本塁打を放った大谷翔平は打球の行方を追う
表情が豊かでパ・リーグTVの名誉アンバサダーも務める西武外崎。写真は2025年南郷春季キャンプでの特守中に見せたもの

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