智弁学園・杉本なぜ打たれない? 敗者が語る異なる顔 センバツ
「ビッグ3」が去った甲子園で、主役候補に名乗りを上げた左腕がいる。
29日に準決勝2試合がある第98回選抜高校野球大会で、10年ぶりにベスト4に入った智弁学園(奈良)のエース・杉本真滉(まひろ)投手(3年)だ。
敗者たちの言葉から探ると、試合ごとに異なる姿が浮かび上がる。なぜ、好投が続くのか。
春先にあのスピードは…
身長177センチ、体重86キロのがっちりとした体格で、最速149キロの威力あるボールを投じる。インステップ気味に踏み込むフォームが特徴的だ。
Advertisementここまで3試合計26回を投げて、2完投(1完封)、被安打10、失点1と抜群の安定感を誇る。
1回戦屈指の好カードとなった20日の花巻東(岩手)戦はわずか3安打で完封した。
球速表示は140キロ前後だったが、打席に立った選手たちは、それ以上の体感速度だったと証言する。
高校通算30本塁打を超える右の強打者で、4打数無安打2三振に抑え込まれた3番・赤間史弥選手(3年)はこう語った。
「すごい伸び上がって、球がうなっている感じがしました。球が芯に当たっても差されてファウルになってしまう。投げてから加速してきて、球速よりもベース板で強さを感じました」
対策を練った佐々木洋監督も、シーズン序盤で打者の状態が上がっていないことを踏まえ、「あのスピードに対応しきれなかったのが正直なところ。変化球もいいし、対応するのが難しいくらい、いい投球だった」と舌を巻いた。
キュッと曲がる
その5日後の25日。2回戦の神村学園(鹿児島)戦で対戦した打者には、力でなく「うまさ」が印象に残った。
昨秋の公式戦でチームトップの打点を挙げるなど勝負強い5番の右打者・国分聖斗(まさと)選手(3年)は、3度の得点圏を含め、4打数無安打で、遊ゴロを3本も打たされた。
「スライダーが一番厄介だった。ストレートと同じ軌道で途中までくるが、振る手前ぐらいでキュッと曲がるんです」
さらに投球フォームでも幻惑された。
「インステップ気味に投げるフォームで、目線がずれるというか、こちらの感覚が変わってくる。左バッターにはきついと思うし、右バッターでも遠くからきて、ストレートに見えました」と苦しんだ。
神村学園は一回こそ四球と2本の長短打で1点を奪ったものの、その後は杉本投手にスライダーを低めに集められ、二回以降はゼロ行進。延長十回まで計4安打に抑えられ、完投を許した。
エースの風格
27日の準々決勝の花咲徳栄(埼玉)戦は、100年以上前に始まった大会の歴史で、初めて8点差をひっくり返しての大逆転勝利という試合になった。
この日、好救援を見せた杉本投手から相手が感じたのは、オーラと威力だ。
それまでの2試合で272球を投げていた杉本投手が4番手投手としてマウンドに上がった三回、花咲徳栄は8―1と大量リードしていた。
本来ならば楽勝ムードが漂ってもおかしくない。だが、1番の岩井虹太郎選手(3年)は、甲子園球場の空気が変化するのを感じたという。
「『杉本来たぞ』みたいな感じになってしまって……。出てきた時にエースの風格というか、球場の雰囲気がガラッと変わってしまった」
制球もテンポも良く投げ込んでくる杉本投手に対し、岩井選手は見逃し三振と空振り三振に仕留められた。
「バットには当たっていたけど、フェアゾーンに打ち返せないくらい威力がすごかった。あの投手を打てなければ、日本一はないと思いました」と脱帽した。
この日、杉本投手は7回を投げて3安打(うち2本は内野安打)無失点。イニング数を上回る8三振を奪い、大会史に残るドラマの立役者となった。
開幕前は、昨夏の甲子園で優勝投手となった沖縄尚学の左腕・末吉良丞(りょうすけ)投手(3年)、連覇を狙った横浜(神奈川)の右腕・織田翔希投手(3年)、投打「二刀流」の山梨学院の菰田陽生(はるき)選手(3年)が大きな注目を集め、「ビッグ3」と呼ばれたが、いずれも既に大会を去った。
杉本投手は1年夏に甲子園のマウンドを経験。優勝する京都国際との準々決勝に先発し、二回途中無失点だった。昨秋の公式戦も力強い速球を軸に活躍したが、制球面に課題があり、3人と比べると知名度は低かった。
それが、投げるたびに結果を出し、さまざまな顔も見せて相手を抑えていく。
うなる速球とキレ味抜群のスライダー、そして、漂い始めたオーラ――。準決勝ではどんな姿でマウンドに君臨するのか。【長宗拓弥、村上正、高橋広之】