トランプ関税導入カウントダウン、現場は混乱-正式通知なく詳細不明

トランプ大統領は1月の就任時に、関税引き上げと公的な事務手続きの削減によって経済を繁栄させると公約した。その6カ月後、米国と世界経済をつなぐ公的機関のシステムは、前例のない試練にさらされている。

  国別の関税率が引き上げられる8月1日を前に、輸入業者や通関業者、物流業界全般がおびただしい数の関税の細則に身構えている。特定の製品や原料を対象にした関税も多数ある。

  だが、期限まで数時間という時点で、輸入品の円滑な流れに必要な重要な詳細は明らかでない。なおも明示されていない数多くの関税はどうなるのか、既に通関手続きに入っている製品に新たな関税は適用されるのか、トランプ氏が最近結んだ貿易合意はいつ、どのように履行されるのか、問題は残る。

  国際貿易・通関を専門とするコンサルティング会社、トレード・フォース・マルチプライアーのシンディ・アレン最高経営責任者(CEO)は「8月1日よりも前に正式な通知がなければ、現在の関税率が適用されるという意味なのか、それとも4月2日に発表された関税なのだろうか。私たちには分からない」と述べた。

  関税と米国通商法の執行を担う連邦機関、税関・国境警備局(CBP)は、トランプ氏の書簡やトゥルース・ソーシャルへの投稿、交渉での合意や一方的な発表の概要を政権が示したファクトシートなどを根拠に、関税措置を執行することはできない。CBPは大統領令や公告などの正式な通知を必要とする。

  この結果、輸入企業や通関業者は手続きが必要な電子文書が山積みになっているにもかかわらず、身動きが取れない状態だ。7月31日朝の段階では、手続きに使うソフトウエアはまだアップデートされていなかった。

各国・地域に一方的な関税賦課を発表したトランプ米大統領(4月2日、ホワイトハウス)

24時間態勢

  関税を実際に払うのは米国の輸入業者で、トランプ氏がしばしば主張している米国の貿易相手国・地域ではない。こうした輸入業者は二転三転する規則への対応を数カ月続けることを余儀なくされ、今度は数百万ドルに上るような突然の請求や罰金を恐れている。多くは次の発注をいつ、どこにすれば良いかが分からず、投資計画を大幅に減らしている。

  通関業者は今や申告業務に加え、「顧客に規制や頻繁に変わる関税への対応を助言し、関税の節減や影響緩和、先送りの戦略立案まで担っており、大忙しだ」と、英国を拠点とするSEKOロジスティクスの通関業務責任者、ウィリアム・ジャンセン氏は述べ、「まさに24時間態勢だ」と続けた。

  公式の通知があれば、CBPは「自動関税環境システム(ACE)」と呼ばれるソフトウエアプラットフォームに変更を加える。一般的に大企業はACEに直接接続するが、中小企業は通関業者を使うことが多い。アップデートが国別の関税率だけであれば、変更はたやすい。

  「それなら数字を一つずつ変えていけばいい。数時間で済む話だ」と、ジャンセン氏は語った。

  しかし、トランプ氏が8月1日から導入を提案している新関税は、はるかに複雑だ。国・地域ごとの新たな関税率に加え、自動車や鉄鋼、銅など特定の製品に対する個別の関税、さらに米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)などの減免措置が組み合わさる。通関ソフトウエアのアップデートはわずか数行で済んだトランプ政権1期目とはまるで異なり、徹夜で数十種類の関税コードの入れ替えが必要になる。

「用意は万端」

  期限が刻一刻と迫る中で、トランプ氏の関税を執行する用意はできているとCBPは主張する。

  「米国の最前線に立つ機関として、CBPは経済の主権を守るため全ての法と大統領令を厳格に執行する」とCBPのヒルトン・ベッカム氏は7月30日に表明。「用意は万端で、関税の執行と徴収に関するあらゆる法的な権限を活用し、大統領の関税政策を実施・執行する準備ができている」と語った。

  同時に、CBPは企業に対する監視も強化し、輸入品の分類や関税額、原産国の申告を厳格化する。順守を怠れば、多額の手数料や罰金を科される恐れもあるという。

  「正しく行われた申請に、CBPが誤って罰金を請求してくるケースをわれわれは日々扱っている。とは言え、CBPの業務はずっと複雑になったため、非難することはできない」とジャンセン氏は語った。

原題:Countdown to Tariffs Leaves US Importers Craving the Fine Print(抜粋)

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