絶滅危惧のピグミーシロナガスクジラ。60頭のシャチに捕食される

Image: Robert Pittman / NOAA

またシャチがエグい狩りをやったのか…。

毎年夏になると、西オーストラリア州南部沿岸沖にある海底峡谷、Bremer Canyon(ブレマー・キャニオン)には、サメやゴンドウクジラ、オウギハクジラ、そして知能の高いシャチといった海のハンターたちがエサを求めて集まってきます。

そんなこともあって、ブレマー・キャニオンはホエールウォッチングの人気スポットとしても知られているのですが、最近ここを訪れた観光客たちは、シャチの群れが繰り広げた背筋が凍るようなシーンを目撃することになったそうです。

シャチによる捕食の残酷な現実

オーストラリアのABCが報じたところによると、4月7日にブレマー・キャニオンのツアーボートに乗っていた観光客と研究者は、60頭以上のシャチの群れが体長約18mのピグミーシロナガスクジラ(小型のシロナガスクジラ)を捕食する場面に遭遇したといいます。

映像におさめられた光景は血なまぐさくて胸が痛むものでしたが、私たち人間にとっては衝撃的でも、自然界では普通の出来事なんですよね。でも、ブレマー・キャニオンでシャチがシロナガスクジラを捕食する様子が撮影されたのは今回で4度目と、とてもレアな出来事だったようです。

既視感があると思ったら、この海域では2022年にもシャチが集団でシロナガスクジラを捕食する様子が目撃されています。あれもエグかった…。

ナチュラリスト・チャーターズ・ホエールウォッチング(Naturaliste Charters Whale Watching)は、「ショッキングな画像あり」と前置きした上で、Facebookにこう投稿しています(上の埋め込み投稿を参照)。

最初に水面でシロナガスクジラを見つけてから、激しい攻防の決着がつくまで、40分もかかりませんでした。シロナガスクジラの運命が決まると、シャチたちはジャンプしたり尾びれを打ちつけたりして勝利を祝っていました。

また、今回の出来事は、「海の頂点に立つ捕食者としての彼らの役割を改めて強く認識させます」とも述べています。

先述した2022年のシロナガスクジラ捕食に加えて、ジンベエザメを集団で仕留めるなぶり殺しともいえるテクニックが鮮明に脳裏に浮かんできました。出会ってしまったらひとたまりもない。シャチはマジで海の殺し屋だと思い知らされます。

60対1の孤独なたたかいで絶滅危惧種のクジラが犠牲に

60対1という圧倒的な数の差を見ると、人は本能的に弱いほうを応援したくなります。それに、血で赤く染まった海を見て気分が悪くなるのも自然なことです。でも、もっとつらいのは、このピグミーシロナガスクジラが絶滅危惧種という現実です。

ナチュラリスト・チャーターズの海洋生物学者で、一部始終を見届けたジェナ・タッカーさんは、ABCにこう語っています。

私たちはみんなまだかなりショックを受けています。できる限り干渉せず、巻き込まれないようにしていますが、見るのはとてもつらく、ときには残酷に感じることもあります。

彼女によると、逃げようとするピグミーシロナガスクジラに対して、30頭ものシャチが一斉に襲いかかった瞬間があったと付け加えています。

そして、こうも話しています。

とても感情的になりましたが、これが自然というものです。この出来事を目撃できたのは、本当に貴重な体験でした。

さらに、タッカーさんによると、ツアーボートに同乗していた研究者たちは、5つの異なるシャチの家族グループを特定したそうです。そのなかには、生後1カ月の赤ちゃんを含むたくさんの若いシャチの姿もあったのだとか。

若いシャチは狩りの方法を学ばなきゃいけませんものね、受け継いで生き残っていくために。

海を支配する真の頂点捕食者、シャチ

映画やテレビの影響もあって、私たちはサメに恐怖を抱きがちですが、実際にはあらゆる海域に生息するシャチこそが世界最強の海洋捕食者といえます。

また、つい忘れてしまいそうになりますけど、シャチはイルカの仲間。イルカから受けるかわいいイメージとは裏腹に、クジラでも狩ってしまうどう猛さから付けられた「キラー・ホエール(Killer Whale)」の異名は、今回のような出来事を見るとピッタリだなと感じます。

血に染まる海を見るのは、だれにとってもつらいものです。でも、シャチたちは意味のないむごい暴力を振るっていたわけではありません。自然のなかで生きるための行動だったのです。

わかるんだけどね、なんか最近は捕食する側に立てないんだよなー…。

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