「ルフィ」一味、12億円で買ったホテルにかけ子60人…「唯一無二のボス」は賄賂1億円で強制送還免れる

 「ルフィ」などを名乗る指示役がSNSで集まった若者らを海外から操り、社会に衝撃を与えた闇バイト強盗事件。匿名・流動型犯罪( 匿流(トクリュウ) )の「先駆け」とされた犯行グループ幹部の公判が東京地裁で結審し、23日に判決が言い渡される。公判では特殊詐欺から強盗へと手口を変容させた犯罪集団の実態が明るみに出た。(中村俊平)

「採用」チーム

 「リクルートチームをまとめろと言われ、SNSでかけ子や受け子を募集するようになった」。強盗致傷ほう助や詐欺などの罪に問われ、起訴事実を認めている幹部の小島智信被告(47)は今月3日の被告人質問で、特殊詐欺の実行役を集めた経緯を語った。

フィリピンから強制送還され、羽田空港に到着した渡辺優樹被告(右端)と小島智信被告(左から2人目)(2023年2月9日)

 被告の説明や検察側の冒頭陳述などによると、グループの始まりは2017年に渡辺優樹被告(41)がタイでつくった詐欺組織。まもなくフィリピンに移り、小島被告は18年夏に加わった。渡辺被告から「パソコンや数字に強い」と評価され、19年初めに実行役の募集を任されたという。

 チームは4人。各自がスマートフォン5台を持ち、約30のツイッター(当時)のアカウントを作って「高収入」「海外で働きませんか」と投稿した。応募者に身分証と顔を撮影した写真を送らせて電話で面接し、採用者は表計算ソフト「エクセル」で管理していた。

「稼ぎ」は最高月2億円

 組織は拡大し、渡辺被告が12億円で買った廃ホテルに日本から来た約60人のかけ子が住み込んで犯行を繰り返した。「稼ぎ」が月2億円超になることもあった。

一連の事件で幹部らが果たした主な役割

 小島被告は法廷で渡辺被告を「唯一無二のボス」と呼んだ。自身は「雑用のエース」で渡辺被告の指示でスマホの調達などを担ったと語った。藤田 聖也(としや) 被告(41)は19年夏に加わり、別の詐欺組織を率いていた今村 磨人(きよと) 被告(41)は拠点を一時的に間借りしていたとした。

 だが同11月にホテルが現地当局に摘発され、逃走した渡辺、小島両被告も21年4月に拘束された。

「日本に帰るなら死んだ方がまし」

 小島被告によると、強制送還を恐れた渡辺被告は「日本に帰るくらいなら死んだ方がましだ」と話し、現地の司法当局者に1億円以上の「賄賂」を払い、自分たちが犯人となる刑事事件をでっち上げた。2人は被告となり、強制送還を免れたという。

 同11月にマニラ郊外の「ビクタン収容所」に入ると、既に今村、藤田両被告がいた。渡辺被告は、釈放に必要な賄賂や釈放後にスペインに逃走するための資金集めを始め、まず今村被告に目を付けた。今村被告は22年3月頃には「ルフィ」を名乗り、強盗の指示を始めたとされる。

 強盗でも人集めを担った小島被告はスマホで「高額案件」などと投稿し、応募者に「タタキ(強盗)案件」と伝えた。集まった実行役は「キム」を名乗った指示役の藤田被告につないだ。同10~12月に日本で起きた事件で、被害者が激しい暴行を受けたと知り紹介をやめたという。

 23年1月に東京都狛江市で高齢女性が死亡した事件を機に幹部4人の存在が判明し、日本に強制送還された。「被害者だけでなく、巻き込んだ実行役にも申し訳ない」。小島被告は今月11日の被告人質問で、事件を振り返り、こう語った。

職員に5万円、収容所でスマホ

 小島被告の法廷での説明によると、フィリピンの収容所では職員に1台5万円程度を渡せばスマホを使うことができたため、幹部らはスマホで実行役に指示するなどしていた。強盗で奪った金は、日本の協力者を通じて渡辺被告の口座に送金されていた。

 収容所内で「VIPルーム」と呼ばれていた個室は、収容者同士がそこに住む権利を売買しており、金を積んだ渡辺被告はエアコン付きの個室で生活。カジノやマーケットもあり、外部に食料を注文することもできた。今村被告は和牛を取り寄せ、羽振りの良さが目立っていたという。

 ◆ 闇バイト強盗事件 =2022~23年、全国各地で強盗が相次ぎ、死者1人と多数のけが人を出した。実行役40人以上が逮捕され、指示役ら幹部4人も逮捕・起訴された。検察側は小島被告に懲役23年を求刑。強盗致死罪などに問われた他の幹部3人の公判は始まっていない。

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