幹部から「何とかならんか」と電話、捜査に関わった元警官「入り口から間違っていた」…福井中3女子殺害・再審あす判決

 1986年3月に福井市で起きた中3女子生徒殺害事件で、殺人罪で服役した前川彰司さん(60)の裁判をやり直す再審の判決は18日午後2時、名古屋高裁金沢支部で言い渡される。これを前に、捜査に関わった元福井県警警察官の男性(80)が読売新聞の取材に応じた。当時の記憶を語り「捜査本部には落ち度があったと思う。批判も受け止めたい」と述べた。(北條七彩)

判決を前に取材に応じた元県警警察官の男性(6月、福井市で)

 「A男の取り調べがうまくいかない。何とかならんか。お前なら『ちゃんとした』供述がとれるやろ」

 男性によると、86年冬、当時勤務していた警察署の卓上電話が鳴った。相手は捜査幹部。男性は捜査本部には入っていなかったが、前川さんの知人・A男に「顔が利く」として、直々に協力を依頼されたとみられる。

 A男には前科があり、暴力団の取り締まりを担当していた男性とは、互いにあだ名で呼び合うほどの関係だったという。

 捜査は難航していた。中学3年の女子生徒が首に包丁を突き立てられ、血まみれになった状態で発見されるという悲惨な事件。すぐに捕まると思われていたが、発生から半年が経過しても容疑者逮捕には至っていなかった。

 そんな中、別の事件で福井署に勾留されていた元暴力団組員のB男が同年9~10月頃、「犯人は前川彰司ではないやろか。服に血を付けているのを見た」などと供述した。さらに12月頃には「A男が前川を白色の車に乗せていた」とA男の関与を示したのだった。

 男性は、一度は依頼を断った。すると後日、捜査幹部2人の名が書かれた、現金入りの封筒を手渡されたという。理由は聞かなかった。「捜査本部は相当焦っていた。A男を落としてくれという意味だったのだろう」、男性は推し量る。

 気は進まなかったが、男性は翌年2月、A男の取り調べを行った。その時の会話をこう記憶している。

 ――おい、A男。元気か。

 「前川を乗せて、事件現場(の市営住宅)に行きました。この場合、共犯になりますか」

 ――(殺害)現場に行ってへんなら、共犯にはならんやろ。外で待ってただけやんけ。

 「ほんまですか、ほんなら全部言います」

 男性が作成したとされる調書が採用された確定判決では、A男の供述は「事件当日の夜、前川を車に乗せて事件現場の市営住宅に向かった。20~30分たった頃に前川が帰ってきて、助手席に乗り込んだ際に、右手に血がべっとり付いているのに気づいた」となっていた。

 しかし、昨年10月の再審開始決定は、この供述について「信用性を肯定することはできない」とした。

 当時の県警の捜査を「捜査機関が見立てたストーリーに見合った供述や証言を求めていたことは容易にみてとれる」と批判。男性は「A男は自分のことが怖かっただけ。誘導などしていない」と強調するが、決定は「A男には、関与を否定し続けると共犯者にされかねないと考え、自己の保身のため、警察による誘導に迎合する動機があった」とした。

 県警は再審開始決定以後、「コメントする立場にない」などと発言を避けている。しかし、男性は語る。「A男も他の証言者も、言うことがコロコロと変わっていた。捜査本部はそれを証拠とする危険性に向き合わなかった。捜査の入り口から間違っていた」

 判決が「供述誘導」を認定すれば、県警は説明を余儀なくされる。どのような判断がなされるか、注目だ。

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