トランプ氏の政策巡るパウエル氏の静観姿勢、16年当時からは様変わり

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、トランプ次期政権がどのような政策を実施するのか見守った上で、それが経済にどのような意味を持つのか金融当局として予測したい考えを表明している。

  パウエル議長は7日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、「今はモデル化するものは何もない」とし、「推測も臆測も仮定もしない」と語った。

  これはドナルド・トランプ氏が2016年の大統領選で当選した際の金融当局の対応とは異なることが、当時の議事録から分かる。トランプ政権1期目発足の1カ月前、金融当局スタッフは、公約された減税が可決されるという前提に基づき、金利上昇によって効果の一部が相殺されることも想定した形で、財政による成長押し上げを予想し始めた。パウエルFRB理事(当時)を含む数人の当局者も財政政策の変更を予測に織り込んだ。

  パウエル氏は16年12月のFOMC会合で自身の予測とともに提出したコメントの中で、「17年中に一段と緩和的な財政政策が実現する可能性が高いと考えられる」と指摘。「このため私はスタッフのベースライン予想に従い、暫定的に国内総生産(GDP)の1%相当の個人所得税減税を想定している」と説明していた。

  パウエル氏はさらに、17年の利上げ見通しを0.25ポイントずつの2回ではなく3回に変更したと付け加えていた。

  FRBの報道官はコメントを避けた。

  トランプ氏の政策が物価上昇圧力を再燃させることが予想され、金融当局者が過去40年間で最も厳しいインフレとの闘いを終わらせるためにまだ取り組んでいることを踏まえると、16年当時と比較したパウエル氏の特別な慎重さは際立っている。

  さらにどの程度の利下げが可能かは税制や関税、移民政策が経済に与える影響を当局がどうみるかに引き続きかかっている。

  元FRB理事で現在はシカゴ大学経営大学院経済学教授のランダル・クロズナー氏は、規制緩和や企業優遇税制によって景気が上向く可能性がある一方で、インフレ抑制の「仕事はまだ終わっていない」と指摘。景気が上向くにつれて、短期的には「金利の道筋は浅めとなるだろう」との見通しを示した。

政治的リスク

  財政刺激策をいつ、どのように位置づけるかは、過去に減税推進の大統領との対立に巻き込まれた金融当局にとって政治的リスクを伴う。その効果を相殺するための利上げが早過ぎたり、大き過ぎたりすれば、政権の政策に逆行しているとの批判を浴びることになる。利上げが小さ過ぎたり遅すぎたりすれば、21年のようなインフレ加速の恐れがある。

  8年前、トランプ氏が提案した政策の影響を正確に予測することは困難だった。金融当局は結局、製造業の鈍化とインフレ率が当局目標の2%を下回る水準まで低下したことを受け、トランプ氏の目玉の減税策の成立からわずか1年7カ月後の19年7月に利下げを開始した。

  01年のブッシュ(子)政権減税に取り組んだローレンス・マイヤー元FRB理事は、金融当局の現在の対応はスタッフレベルにとどめるべきだとする。減税実施の場合に経済がどう推移するか感覚を得るため「代替的なシミュレーションを行うべきだ」と述べた上で、「何が起こるか分からないものを基準に政策を決定すべきではない」と語った。

  それでも、金融当局が対応に時間をかけ過ぎれば、誤りを犯しかねないと心配する声もある。トランプ氏は再び減税を約束し、上下両院を掌握したことで、政権1期目の減税延長が有力視されている。

  ブルッキングズ研究所のサラ・バインダー上級研究員は「何が起こるか金融当局がよく理解したいと思うのも分かる。しかし、困難な状況に陥るリスクがある」と述べた。

  ウォール街の幾つかの金融機関は静観していない。トランプ氏の当選以降、JPモルガン・チェースやバークレイズ、トロント・ドミニオン銀行のエコノミストは、来年末までの利下げ回数見通しを減らした。投資家も25年の利下げ予想を縮小している。

  米金融当局がどのような対応を取るにせよ、本当に必要なのはホワイトハウスや議会からの潜在的な措置に対処するための正規化されたプロセスだと、FRB元上級政策顧問で、現在はデューク大学で経済学の研究教授を務めるエレン・ミード氏は話す。

  ミード氏はFRBスタッフの予測・戦略文書「ティールブック」に言及し、「いずれの政党が提案した将来的な政策についても一貫した取り扱いを確保するためには、いつ、どのように将来の財政構想が基本的なティールブック予測に組み込まれるのかを巡り、体系的プロセスを持つことが重要だ」と論じた。

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原題:Powell’s Wait-and-See on Trump Policies Is a Switch From 2016(抜粋)

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